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ブラインドソード(盲目の剣)  作者: 雛月いお
手にしたものは
27/29

最凶の極氷獣

「だーっ!寒すぎるー!」


「ヒイロうっさい」


「でも確かに寒いです.....」


「奴さんはいつになったら視認できるのやら」


私たちは吹雪吹き荒れる中、北だけを目指して歩いていた。

後ろを振り向けばカルガスクが見える。この大雪はカルガスクを含めた広範囲に及び、突如として振り出したのだ。おかげでカルガスクは雪国の都市へと早変わりしてしまったものだ。

この大雪、無意味に運営の気まぐれで設定されたものではない。ましてや期間限定のイベントでもない。私たちが受けているクエストが開始した影響だ。


「ラヴィーニアねぇ。一体どんな奴なんだか」


「なんか動く雪山みたいな感じします」


極氷獣ラヴィーニア。ブレイブソードで最初に実装された進撃系クエストの迎撃対象に当たる。


そう、今回実装されたクエストは以前までのものとは違う。私たちだけが目標を追いかけていくだけではなく、目標にも、カルガスクの破壊という明確な意思があるのだ。故に今回のクエストではカルガスクを防衛しきれなければゲームオーバーとなってしまう。つまり制限時間付きなのだ。


「大体カルガスク守るのにたった四人とか、おかしいって普通に考えて」


「それは同感」


柊さんが不貞腐れながら言った正論にツバキが頷く。対抗戦と同じ規模で行っても良いくらいのクエスト内容だと全プレイヤーが思っているだろう。


「ん.......?」


「チアどしたの?」


「な、なんか前方に何か見えませんか?」


チアの発言で全員が前方を凝視する。

何分この強烈な吹雪の中だ、ほんの少し先のものでもはっきりと確認するためには視界の鮮明度が十分ではない。チアが言ったのはどれほど先のものなのか分からない。見間違えという可能性さえある。


しかし私たちの目には、しっかりとその影が映った。


「.....ねぇツバキ、あれと戦うって?」


「......らしいよ」


「うそ.....」


「こっ、これは予想外だねー......」


この猛吹雪の中でも視認できるほど巨大で威圧感のあるその影に、私たちは思わず歩みを止める。

まだ全体像を確認できたわけではない。しかしそれでも、今まで相手にしてきた敵とは違う何かが、遠く離れた私たちを襲った。





「ま、やるしかないでしょ」


刀を抜き、前方を睨みつけながらツバキが言う。

私たちに異論はない。


「チアちゃん、この天候だし、何してくるかわからないことを踏まえると、あんまり離れない方がいいかもだね」


「分かりました」


「これで遠距離攻撃なんかあったら避けらんないよねぇ」


「そういうこと。ユキ、ヒイロ、行くよ」


「うん」


「おっけー」


武器を構えた私たちは、まだはっきり捉えられないそれに向かって走り出した。

短時間とは言え、地面に降り積もった雪が中々に足元の感覚を狂わせている。これ以上雪が積もる前に決着をつけておきたいところだが、見た目の大きさから体力が多めに設定されていることは容易に想像がつく。このクエストはプレイヤーが予想していたよりも遥かに難易度が高いかもしれないな。


影との距離を狭めていくにつれ、全体像が次第に明らかになっていく。


ラヴィーニアは特に急いでカルガスクに向かっている様子は無かった。体には氷のような鱗が無数に生え、四本の足を地につけた龍だ。背にはきちんと羽を生やしている。

近づけば近づくほど吹雪は強さを増していった。見ればラヴィーニアの周囲には冷気が漂っている。


私は美しいとさえ思った。


おっと、目的は討伐であって鑑賞じゃないや。


まずは行動パターンを把握するために、死なないような立ち回りをしつつ攻撃する。これがツバキの作戦だ。


「いっくよーアブソリュート!《ウィンドカッター》!!」


アブソリュートというのは柊さんが持っているパルチザンの愛称だ。

アブソリュートは突如風を纏い始め、柊さんがラヴィーニアの足を切り付ければ、纏った風は無数の斬撃となってラヴィーニアを襲った。直後柊さんは様子を見るために距離を取る。


「何?効いてないの?」


肉が切られた激痛は何処へやら、ラヴィーニアは微動だにせずに進撃を続けるばかりだった。

フルスターリソードでないと制限時間に間に合わないと踏んだ私は透明感ある剣に持ち変える。


「んー.....?」


「止まってる場合じゃ無いよヒイロ!」


「ぁ、うん.........気のせい、だよね」


「私たちも行くよユキ!」


「うん!」


少し離れたところでラヴィーニアを中心に走りながら様子を見ていた私とツバキは進路を変え、真っ直ぐラヴィーニアに向かって走り出した。


「《雷鬼》」


「《ラーグペイン》!!」


私は飛び上がり、雷撃を帯びた剣を力の限り振り下ろす。ツバキはツバキで刀の雷属性スキルを発動させて素早く切り付ける。そして柊さんと同様に距離を取った。


それでもラヴィーニアに苦しむ様子は一切なかった。


「どうなってんのさ、ツバキ手加減した?」


「んなわけないでしょ、冗談言ってる場合じゃ無いよヒイロ!」


ツバキが焦っているのも無理はない。私たちを含めた全プレイヤーは、スキルをまともに受けて表情一つ変えない敵など知らないからだ。

これまでの敵と変わらず肉体は切ることができた。明確な手応えもあった。だとしたら、相手の忍耐力が強いだけなのか、本当に体力パラメーターが高いのか、このどちらかだろう。前者であればまだ私たちに勝ち目があるのだが。


「あれ......傷、治ってませんか?」


このチアの発見により、私たちはとんでもない化け物を相手にしていることを自覚する。

恐る恐る柊さんが最初につけた傷を見ると、どこにも傷らしい傷は見当たらなかった。


「........ねぇツバキ、あれを撃退しろって?」


「........らしいよ」



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