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ブラインドソード(盲目の剣)  作者: 雛月いお
対抗戦、開始
23/29

最後の強敵

「この試合で最後かもだねー」


「対抗戦常設になればええんやけど」


メンテナンス実施の前日、私たちは最後の試合に挑もうとしているところだった。明日のメンテナンスで対抗戦の常設化か否かが決まってしまう。これが最後の試合になるかもしれないかと思うと、私の体には自然と緊張が走っていた。周りを見渡せば皆も同じ症状に見舞われていることが見て取れた。


しかし今回の相手、驚くべきは敗北のカウントが『0』になっていることだ。


この未だかつてない強敵を前に、私たちベルセルクは興奮が抑えられないでいた。


「絶対に攻撃側ですわ!!防衛側なんて私認めませんからね!!」


「紅葉さんよぉ、そりゃ、オラわくわくすっゾ!ってやつかい?」


「あなたは少し黙っててもらえるかしら」


「ふぃえも、わくわく!」


「フィエちゃんが寝てないよー!?」



.....ほんと、うちのギルドはマイペース極まりないようで。



「....?」


苦笑いを浮かべていた私は視線を感じて辺りを見回す。その視線は対戦相手の人込みからしっかりと私をとらえていた。視線の主、鮮やかな黄緑色の髪の女性は私と目が合うと、微笑んで手を振り出した。それが果たして私に対する行動なのかと疑問に思い、私の周りに私と同じ方向を向いているプレイヤーがいないか首を勢いよく振って探す。しかし誰一人として該当しそうなプレイヤーは居ず、その女性が本当に私を見ていたのかと確認しようとした。


女性は既にその場所にはいなかった。


「誰だろ.......」


「お姉さん、どうかしました?」


「ぁいや、何でもないみたい」









「いたよツバキ」


「楽しみだね」





ーーー《対抗戦 カルガスク中央街》ーーーーーー





「街中ぁ!?」


降り立って間もなく、声を上げたのは杏子さんだった。

それもそのはず。私たちが降り立った地は草原ではない、砂漠でもない。私たちが普段無防備に歩いているカルガスクだったのだ。


「これはまた....最終日にして良い演出だねー」


「ひよこマメ大佐、あたしこーゆーの結構好きなのでありますよ」


「それで、私たちの近くに旗が無いってことは......」


「攻撃側ですわね!!!」


「んでたぶん旗はあそこだねー」


メンバー全員が向いた先は、カルガスクのシンボルでもある城だった。普段私たちプレイヤーは城の中に入ることが出来ないのだが、この試合のための建物だと言われれば納得できる。


「面白いじゃないか、やっぱこのゲームの運営好きだわ」


「いっちょ城落としたるか!皆行くでー!!」


杏子さんの言葉を合図に、ベルセルクは城へと一斉に駆け出した。





「にしても普段呑気に歩いてる街を走るなんて、なんか違和感ですね」


普段はプレイヤーで賑わう街。しかし今は人気が全く感じられず、本当にこの街にいるのが私たちだけだということが分かる。


「して、ソラマメ殿。どのようにして城を落とすおつもりで?」


渋い声を発したのは羽織を纏った男性の暁丸さん。腰に携えた刀と人並み外れすぎた動体視力、そして反射神経で、文字通り敵からの攻撃を見切っていく戦い方をしている。本人曰く、「不意に刀を雑に扱ってしまったとしても、刃が折れてしまわないのが何よりも嬉しい」のだとか。だからこそ銃も魔法もあるこの世界で尚刀を握っているらしい。現実では居合をやっているそうだ。


「多分、相手側からは窓からでも僕らの動きが見えてると思うんだー。だから裏門を探すとか、そういう小細工は通用しないと思うんだよねー。しかもベルセルクには似合わないし。だからさー」


ソラさんは一呼吸置き、前方の城に向き直ってこう言い放った。


「僕ららしく、堂々と正面から攻めよう」


それを聞いてメンバー全員が嬉しそうな表情を浮かべた。もちろん私もだ。


「もちろん待ち構えられてるだろうから、役割を決めるよー」




「まず前衛、僕、杏子さん。そのすぐ後ろにカラスくんで」


「任せとき!」


「お供しますぜ」




「次左翼。暁丸さん、フィエちゃん、アクスさん」


「フィエ殿、アクス殿、よろしくお願い申す」


「ん」


「おう!」




「右翼。キャプテン、紅葉さん、ピスタさん」


「任せれたぜ」


「なんで私が」


「まーまーこれも勝つためだからね?」




「後衛。ユキちゃん、コナちゃん」


「後方支援頑張るのであります!」


「私はコナさんの護衛だね」




「そして核にはチアちゃん」


「支援頑張ります!」




「以上。この陣形で正面突破、ノンストップで旗まで行ければ理想だよー」


全員は走りながら位置関係を整え始めた。チアを後方ではなく中央に配置したのは、今回の相手を強敵と認めた上での考えだろう。ベルセルクのメンバーとはいえ、強敵相手に無傷というのは不可能である。それ故に回復が全体に届くように、またチアを囲むように私たちを配置したのも回復役を絶対に失ってはならないというメッセージを込めているのだろう。


激戦の予感がメンバー全員に伝心した。


「行くよ皆、勝のは僕たちだ!」




ーーーーーーー







「玄関見えたで!」


走り出して間もなく、目的地である城の玄関が目前に迫っていた。


「頼んだよ杏子さん!」


最前列の杏子さんがスキルの詠唱を始める。

彼女の両手には紅葉さんが授けた投げナイフが二本握られていた。


「頼むわフィエ子!」


「ん!」


杏子さんがフィエちゃんの大剣に向かって飛び込むと、大剣に付与されていたグロウラが発動した。杏子さんは城の玄関へと一直線に滑空していった。


「《プロミネンス》!!」


灼熱の炎を纏った杏子さんはそのまま両開きの扉へ体当たりしていった。

扉が粉々に粉砕されると、私たちは杏子さんを追うように城の中へと突撃していく。



ーー《カルガスク城 場内》ーー



私たちが中へ入った頃には、既に杏子さんが暴れた形跡があった。

焼け焦げた絨毯、壊れた柱、抜けた壁など。痛々しいというにふさわしい有様だった。


私たちはそれらを確認して敵の強さを再確認した。


玄関前に待ち構えていたであろう敵の集団から、一人でも人数が減っているように見えなかったのだ。つまりはあの杏子さんが苦戦している証拠である。


当の杏子さんは立ち尽くしていた。


「.......おそいわ、ったく」


近くに寄ろうとした私たちは絶句した。


杏子さんの背中からは刃が突き抜けていたのだ。


「うそだろおい.....ッ」


「そんな...杏子さんが.....」


杏子さんはこちらへ振り返ろうとしたが、力なく地面に倒れた。


「....絶対、勝て....な」


地面に横たわる杏子さんは次第に光の粒となって消えて行ってしまった。


私は信じられない光景に激しく同様しつつも、消える間際に杏子さんの瞳が強く私を見つめたのを確認していた。




「....みんな」


ソラさんが俯いたまま震えた声で言葉を零す。


「全力で......仇を取るよ」


投稿が遅れてしまって申し訳ないです

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