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ブラインドソード(盲目の剣)  作者: 雛月いお
対抗戦、開始
22/29

皆が楽しめるために

「とどめ」


「参りました.....」


喉元に大剣を突き付けられ、私は白旗を上げる。

私は先日宣言された通り、フィエちゃんの特訓を海岸で受けていた。数あるフィールドの中から海岸を選んだのはフィエちゃんで、本人曰く布団の次に好きな場所らしい。


特訓内容はひたすらベルセルクの最強と戦うだけである。


「んんーなんで勝てないんだろ」


既に三十分程度戦ってもらっているが、勝利どころかフィエちゃんに触れることすら叶わないでいた。私の振る剣はまるで敵を狙っていないかと思われるほど悉く避けられてしまう。もうじき攻略の糸口が掴めても良い頃だが、私には勝てないという現実だけが積み重なっていた。


「ん、こうげきしゅだんは、ぶきだけじゃ、ない」


「おぉなるほど」


「わたし、たいけん、もってるけど、あんまつかわないし」


先日行われた対抗戦の初戦でも、フィエちゃんが私の目の前で披露したのは剣術ではなくほぼ体術だった。実際私は彼女の身のこなしに感動していたが、思えば私は二本の短剣で攻撃することに執着しすぎていたのかもしれない。


「いめーじ、うかんだ?」


「とりあえずやってみるよ」


「じゃ、もういっかい、はじめ」


私は再び最強に挑む。

初撃は相手の首を狙った切り払い。これが当たらないのは既に経験済みであり、問題はここからどれほどの手数で相手を襲えるかだ。私の初撃を一歩後退して回避したフィエちゃんへ食い掛かるように剣を振っていく。

しかしこれでは先程までとやっていることは何も変わらない。


振り下ろしが避けられた瞬間、この行動が何度も繰り返されたことが鮮明に思い出された。そして今日フィエちゃんが頻繁に口にしている単語が頭を過った。


『いめーじ』


イメージ。

私は彼女のこの言葉を単に想像することだと捉えていた。実際は「経験を利用した予測で相手の次の一手を想像する」ということかもしれないと、ここにきてようやく理解した。


私はフィエちゃんの足元を狙った切り払いを繰り出し、彼女がそれを軽い跳躍によって回避したことを確認して口端を上げた。人間が持つ空中での自由はとても限られているからだ。


空中にいるフィエちゃんの両足目掛けて回し蹴りをすると、フィエちゃんは体制を崩し、地面に背中を打ち付けた。手にしている大剣の重量も相まって痛そうだ。


「っ」


ベルセルク最強から痛みに耐える声が漏れた初めての日となった。

ようやく勝てるかもしれない、その思いが籠った短剣をフィエちゃんの喉元に向かって突き刺そうとした。


「なんちゃって」


「ぅぉあぁあ!?」


振り下ろしていた私の手首を彼女はしっかりと掴み、彼女から見て右側にいた私を左側に強い力で放り投げた。

砂浜に叩き付けられた私は詰めの甘さに絶句するばかりだった。


「おしかった」


「.......」


最強にはどうやっても勝てないらしい。





ーーーーーーー





「終始僕らで間に合ってた感あったねー」


「うちもっと苦戦するか思たで」


拠点に戻ると、先日行われた初戦の反省会が既に始まっていた。

あの試合の感想は「手ごたえが無い」で全員一致している。何せ敵の人数はこちらの約二倍のはずだったが、ベルセルク側では、試合中に武器を構えなかったメンバーがいたことが試合直後に判明した程だ。


「まぁまぁうち以外のギルドを貶すのはその辺にしとけよ、初心者集団だったかもしれないだろ?」


屈強な肉体を持ちながらも優しい船長さんが愚痴大会を止めに入る。

私が戦った相手の実力からするに少なくとも初心者ではないと思われるが、これ以上場をややこしくしないためにも黙っておくことにした。


「早く本題に入りましょう、愚痴は聞き飽きましたわ」


「紅葉さんよぉ、そりゃ自己中ってやつじゃねぇ?」


「知りませんわ」


「そうだねー、じゃ会議っぽいの始めるよー」


私たちが席に着くと、前々から予定されていた会議が始まった。対抗戦を一度経験して感じたことなどを互いに出し合い、全員が楽しめているかどうかを確認しよう、という趣旨となっている。

ベルセルクのギルドテーマは皆がゲームを楽しむことなのだ。これはいつまでも変わることはないだろう。


「楽しめなかったって思った人ー」


「私はもっと激しい戦闘がしたいですわ」


この時を待っていたかのように紅葉さんが勢いよく手を挙げた。私もそうだが、ベルセルクのメンバーはもとより防衛への関心が薄い。チアを筆頭に、縁の下の力持ちスタイルでゲームを楽しんでいるメンバーはそうでもないのだが、前に出てることで体感できる激しい戦闘を心から好むプレイヤーが大半を占めているのだ。これが攻撃側になったら一体どんな戦場になってしまうのか楽しみではあるが、相手になるギルドは本当に気の毒に思う。


「じゃー防衛でも敵陣に突っ込んで暴れればいいんじゃない?こっちも敵の数が減って楽になるしさー」


「次回からそうさせていただきますわ」


ソラさんの紅葉さんに対する提案を魅力的に思ったメンバーは紅葉さんに便乗し、結局真面目に防衛するのは私を含めた八人だけとなってしまった。たった八人で一本の旗を守り切るのは常識的に考えてまず不可能だが、私たちは自信がある。そして防衛するはずのギルドが逆に攻めてくるという、相手の意表を突くという意味では無くはない作戦だということでこの場は収まった。


「エダマメ大佐!あたしこの前の試合、一発も発砲してないのであります!」


「大佐じゃないよー?ソラマメだよー!?」


勢いよく立ち上がって敬礼を披露したのはガンナーのコナさん。正式な名前が「57」であり、本人が読み方にあまりこだわっていない為、私の好きな二文字の名前に乗っ取ってコナさんと呼んでいる。他の人からも色々な呼び方があるので、時々本人も自分が呼ばれていることに気が付かないのだとか。

コナさんは二丁拳銃として「five-seven」という種類の拳銃を使って戦場を荒らしている。銃では敵を倒し切れないことから、敵の手足に何発も銃弾を撃ち込むことで自由を奪うことだけに特化した思考回路を持っている。


「どうすれば戦えるでありますか!」


「今言ったよねー!?」


基本的に彼女は一度で物事を飲み込んではくれない。


「防衛でも突っ込めばいいよー」


「おおっ、了解でありますサヤエンドウ大佐!」


「もうマメが無くなってるよー!?」


「元気だけはいいよね」


私たちは慣れているのであまり気にしてはいない。


「そんで次ー。今後攻める側になると思うんだ。その時にどういう作戦にするかっていうのを.....」


「突撃してええんちゃうの」


「愚問ですわ」


「うんまぁ....そうなるよねー」


この展開が予測できたメンバーはただひたすらに苦笑いを浮かべていた。


「そうじゃない人はどうしようかー」


そうじゃない人、つまりはチアや突撃欲の無いフィエちゃんたちのことである。と言ってもチアは味方の体力管理という大きな役割を背負っているが。

最悪スタート地点で待っていても前衛陣で旗を折りかねないが、それでは他のメンバーが楽しいと思えるはずがない。


「メンバーが本気で攻めるっつってんだ、ノらねぇわけにはいかねぇっすよ」


ベルセルク一ノリが良いカラスさんが頼もしい発言をする。これに同意する形で、残りのメンバーも首を縦に振った。発言する人が居て、それを受け入れる人が居る。これがベルセルクのというギルドなのだ。フィエちゃんは居眠りによって頭が下がっただけのようにも見えたが。


「付与スキルしかろくに育ててない貴方が前線に出たところで何かできますの?」


ここでふとした疑問が紅葉さんから浮かぶ。

防衛側の立ち回りではトラップ型付与スキルでギルド全体のサポートをしてくれたが、攻撃側になるとこちら側から攻めなくてはならない為、敵が踏むのを待つという時間はない。


しかしカラスさんはニヤリと笑った。


「それがなぁ、チアがこの前の初戦で気付いちまったんだよ!」


カラスさんの発言によりフィエちゃん以外の全員の視線がチアに集まった。


「え、えっと、スキルを石ころとかに付与すると、投げれるようになるんです」


「ほんまか!!?」


チアの発見に一番驚いたのは杏子さんだった。彼女は必要以上に所持スキルをいじくりまわした影響で遠くの敵を狙うためには近づかなければならない。他人から見ればある意味残念なそのスキルを投擲物として使用できるようになるのだから、これ程嬉しいことはそうないだろう。


「これで俺らも前線の一歩手前で戦えるわけよ、どうだ文句ねぇだろぉ?」


「くぅ...」


日頃カラスさんにされているいたずらの仕返しのつもりであえて鋭い言い方をした紅葉さんだったが、自慢気に胸を張るカラスさんを見て心底悔しそうな表情を浮かべていた。


「よーしよし、じゃあ大体決まったねー」


「そういや対抗戦の勝率でランキングが自動で作られてるみてぇでよ、同じくらいの勝率のギルドが毎回選ばれてるらしいぜ。勝ち抜けばそのうち強いギルドと戦えるかもな!」


「さっさと勝ち上がって強い方と戦いたいですわね」


「ふぃえも.......くーくー」


「うちは本当に戦闘民族ばっかりだよな....」


「お腹が減ったのでありますぅ」


「だれも死なせないように回復頑張ります!」


「よっしゃ、これから頑張っていこな!うちらが最強のギルドや!」


ここにいる人間はベルセルクという場所が気に入っている。だからこそ誰一人ギルドから抜けることはないし、抜けたいと思う感情は存在しない。


そして私はこの輪の中にいる。

私自身が出会った、私自身の居場所。


このメンバーで勝ちたい。負けたくない。



「絶対勝てるよ、このメンバーなら!」

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