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ブラインドソード(盲目の剣)  作者: 雛月いお
対抗戦、開始
21/29

初戦

「中もすごいねー」


「運寧頑張っとるなぁ」


ベルセルクに加入して一か月が経った今、ようやくギルド対抗戦が始まろうとしていた。

昨日行われたアップデートでカルガスクには対抗戦用の新たな城が建ち、私たちベルセルク一行はその城で対抗戦に参加しようとしているところだ。

外見や内装から運営の気合いが感じられ、少なくとも私は適度の緊張とやり場のない興奮を覚えていた。


ソラさんが対抗戦に参加する手続きを済ませると、参加中の他ギルドがランダムで選択される。ベルセルクの初戦のギルドは「炎神の元に集いし魔の契約者インヴォーカーたち」らしい。

ものすごく厨二病感漂う名前である。


私が注目したのはその人数だ。なんと総勢二十人以上という。


「チア緊張してるでしょ」


「お、おおお姉さんこそ!」


「二人ともガッチガチやな」


「まー大丈夫でしょきっと」


城の中庭へと続くはずの両開きの扉はいつの間にかワープゲートとなっていたようだ。

開かれた大きな扉からは眩しい光が放たれ続けるだけで、扉の向こうという世界を覗くことはできなかった。各々のギルドに所属しているプレイやーは次々にその光へと姿を消してゆく。

心の準備を、と深呼吸を何度も繰り返していた私とチアは結果的に参加者全員を見送ってしまう羽目になってしまった。


意を決した私たちは取り残されまいと光の中へ飛び込んでいった。





ーーーーーー








そこはボスリザードと戦った地≪草原≫だった。しかし私たちが今いる場所は背景だと思われていた山の頂上だ。そして旗を囲むようにギルドメンバー十二人が降り立つと、スタート地点が旗の周辺だということを考え、全員がこの旗を防衛するという役目を把握した。


「防衛は性に合いませんわ」


「まーまー。よーし頑張っていこー!」


ソラさんの一言で皆が一斉に動き出した。木々の間を縫って山を下っていく人、初めての地形を確認し始める人、その行動は色々だ。


ただし明らかに他とは違う行動をとる人が二人。


「なぁ紅葉さんよ、どの辺に仕掛けたら引っ掛かってくれるかねぇ」


「知りませんわ」


この黒く短い後ろ髪を無理矢理一つにまとめている男性、カラスさんは付与スキルを罠のように扱ういたずら好きの魔法使いだ。この世界で最も辛いとされている植物の実を粉末状にしては紅葉さんが食べるものに振りかけ、紅葉さんの激怒する様子を見ては楽しんでいる。言ってしまえば変態。


そしてもう一人は旗の前に大の字で寝そべる少女。


「やっぱり防衛だとそれで行くんだね」


「ん....ゆき、......おやす....み.....ぃ....」


寝癖のように跳ねまくっている長い銀髪も気にせず毎日眠っているいるのがフィエちゃん。この驚異的な眠気はいついかなる時でも彼女から消えることはなく、話によればクエスト最中もこの状態でゾンビのようにふらふらと動き回っているらしい。それでもギルドメンバー全員が「敵を前にしたフィエは天才」だとも言っていた。


その信頼から、ベルセルクの全員が旗の最終防衛ラインをフィエちゃんに任せられるのだ。

ちなみにフィエちゃんのすぐ横には巨人の武器並みに大きい大剣が突き刺さっている。




さぁ私も作戦を遂行するとしよう。




ーーーー







私は高い木に座って耳を澄ませていた。

この山は非常に木が多く視界が優れない。そのため上から見下ろしたとしても死角が生まれてしまう。そこで地面に敷かれた枯れ木や枯れ葉を踏む音を頼りに敵を発見し殲滅する、聴覚レーダーをソラさんから頼まれた次第だ。


と言っても山の麓で爆発音が頻りに鳴っていることから、最前線で戦っている杏子さんやソラさん、船長さんたち高威力組が相当食い止めているようだ。試合が始まって十分程度経ったが中衛の私は未だにここから一歩も動いていない。


前に出たいなぁと思ったその時。


山を少し上ったところに仕掛けたカラスさんのトラップが発動し爆発を起こした。その直後、私の耳には枯れ木枯れ葉を踏む音が小刻みに聞こえてきた。


敵は一人ではないようだ。


その足音が私の足元を通過するその瞬間私は木から飛び降り、ようやく地面に足をつけた。


「またかクソ!!ここまで来るのに何人死んだと思ってやがる!!」


いや知らないよ。

杏子さんたち、相当暴れてるな。おかげで目の前にいる赤いローブの剣士はあまりの出来事に驚きを超え怒りを隠せないご様子。後ろの二人は赤いローブの剣士を冷めた目で見ていた。

あなたたち仲間でしょうに。


「悪いけど通すわけにはいかないから」


「上等だゴルァア!!!」


血気盛んな赤ローブは鼻息荒く私に剣を振ってきた。私はそれを暫くの間弾き返し続けていた。

そしてわかったことがある。


「君さ、ここに来るまでに何人かメンバーお取りにしてきたでしょ」


「あ!?それがどうした!!」


やはりか。


剣を交えてみてわかる、この人の実力では絶対にソラさんや杏子さんを突破できないはずだ。そして私がこの赤ローブの相手をしている間、他の二人は一切手を出そうとせずにいた。その表情からは苛立ちが感じられたのもまた事実。


ゲームは努力し、悩み、助け合い、達成感を得て楽しむ。少なくとも私は春香とそうやってゲームを楽しんできた。


だからこういう輩はどうしても許せないのだ。


私は赤ローブの剣を強く弾き飛ばしてこう呟く。


「....皆で楽しもうって気が無いんなら、うちのギルドには勝てないよ」


「ぐっ!!?」


赤ローブの腹に拳を入れれば情けない声が漏れる。蹲る赤ローブの首に容赦なく短剣を刺し、息の根を止められた赤ローブは力なく倒れ、その亡骸は細かい光の粒となって空へと昇って行った。


この一連の流れを他の二人は唖然とした様子で見ていた。


「さ、やっと本気で戦えるんじゃない?」


私の声をきっかけに、二人の顔が明るくなっていく。


「あんたらマジで強いのな。もしかしてプロゲーマーなのか?」


「まさか。皆純粋にゲームを楽しもうとしてるだけだよ」


「はは、なるほどな」


納得したような笑みを浮かべた二人はそれぞれ武器を構える。一人は槍、一人はただの剣かと思われたが、よく見るとリボルバー式の銃と一体になっていた。これが銃剣と言うやつだろう。どちらにしても私が持っている短剣や剣にとって相性が良いとは言えない。相性が悪い敵を一度に二人も相手にするのは骨が折れそうだ。


このゲームにとって、遠距離から正確に心臓を狙える武器は唯一銃しかない。この事実は銃という存在がゲームバランスを崩壊させかねないことの証明であるため、銃弾は心臓手前で止まる仕様となっている。多くの銃は止めを刺す為の刃が付いていたり、そもそも剣がメインだったりする。しかし心臓以外には現実通り人体を貫通する程の威力を誇る剣士にとっての強敵に変わりはない。


「礼は言うぜ、でも手加減はしないからな」


「望むところ」


先に飛び出してきた槍を弾こうと行動しそうになったが、奥にいる銃剣が私に狙いを定めていることに気付き大きくその場から離れる。ここまでを正確に読んでいた槍の使い手は距離を取り終えた私を素早い突きで何度も襲った。その速さに驚いた私は、二本の短剣で必死に槍を弾くことしか出来ずにいた。動きを止めた的に銃はその牙を剥く。

銃声とともに、私の右手が握っていた短剣が金属音を立てて吹き飛んだ。


「くっ...!!」


強者集うベルセルクのメンバーとして意地がある私は一本になった短剣で槍を弾きつつ、弾ききれない攻撃を体ごと捻った回避で対処をするが、これもあまり持ちそうにない。


後ろに下がりながら回避を行っていた私は背中に木の触感を覚え限界を感じた。


「もらった!!」


今からでは武器を持ち変えることも装備し直すことも間に合わない。


「......!!」


まだ未熟だったかと目を強く瞑った。






「ぐぁ!!?」


「ちょっ、ぐぇえ!!」


「...?」


何が起きたか分からない私は恐る恐る目を開けた。


「ゆき、いきてる?」


一見感情が込められていないと感じるような透き通る声は私の耳に心地よく入ってきた。見ると、二人の敵は地面に倒れて苦しんでいるように見える。


そして私の横にいたのは


「フィエちゃん!!」


「ん、ふぃえ、えらい?」


「偉い偉い本当に助かったよ!!」


「からすが、ゆきぴんちだって、いってたから、きた」


大剣を軽々持っている少女は眠そうな顔で言葉を零す。カラスさんは基本的にトラップを敵に踏んでもらう以外の攻撃手段を持っていないために自分は戦いに加勢しないと公言していた。代わりに戦況に合わせ手が空いているメンバーを全速力で呼びに行く戦法で許してくれと珍しく頭を下げていた。

ここにフィエちゃんが来たということは、目の前の敵二人が唯一旗を折る可能性があるということだろう。戦いは完全にこちらが有利なのだ。


「ゆきも、がんばった」


「素直に喜べないよ....」


フィエちゃんは褒めてくれたが、実際フィエちゃんや杏子さんやソラさんであれば二人相手に勝利を勝ち取ることが出来ただろう。


「だいじょーぶ、それより」


「うん」


敵は既に起き上がり、現れたフィエちゃんという強敵を警戒していた。フィエちゃんの外見は正直あまり強そうではないが、一撃受けたことで内に秘める強さを感じたのだろう。


「どっちも、わたしたちのぶきじゃ、ぶがわるい」


「そうだねぇ」


「だから、ぶんたんは、しない。ふたりでせめる」


「ど、どうやって?」


「ゆきが、さっきやられたようなこと、まねすればいい」


なんて分かりやすいんだろうか。

私はフルスターリソードに武器を持ち変えることにした。


「いくよ、ついてきて」


フィエちゃんの眠そうな目つきが鋭いものへと変わった。大剣を持ったまま低い体勢で走る姿は、決してギルドの拠点で眠っているフィエちゃんからは想像できない。槍の使い手は迫り来る巨大な刃の圧迫感に慌て、咄嗟に相手の腹部に向かって槍を伸ばしてしまう。フィエちゃんはそれを瞬時に見極め、槍に触れるか触れないかの際どい高度で空中前転を披露し、そのまま遠心力と重力が乗った踵落としを相手の頭頂部に浴びせた。


「いま」


フィエちゃんは銃剣の男に目をやりながら合図を出した。合図に従い、怯んでいる槍使いに追撃を試みる。私が振った剣は相手が苦し紛れに体をずらしたことで胸部を切ることは叶わなかったが、反射的に出された腕を切ることが出来た。仲間が作ったチャンスを無駄にしてなるものかと、直ぐに切り返して足に深い傷を負わせ体制を崩させることに成功した。

私が剣を振っている間に、背後では銃声と金属音が鳴った後、男の断末魔の叫びが聞こえた。


「ゆき、ないす」


背後からフィエちゃんの声が聞こえたと思えば、私の頭上を大剣を大きく振りかぶった彼女が通過し、体制の崩れた槍使いに切りかかる。


「よーいしょ」


「うおおおおお!!?」


体制を崩し、武器を持つ腕にも傷を負った槍使いは、巨大は刃を受けきれるはずもなく体を粉砕されて光の粒になった。


「もう一人は....」


「もうやった」


「いつの間に!?」


辺りを見回しても私たち以外の人間は誰一人見当たらなかった。

そして私たちの視界には『勝利』の二文字が派手に出現した。










「ゆき、おつかれさま」


「フィエちゃん居なかったら勝てなかったよ、ありがとう」


「ゆき、まだ、つよくなれる。かえったら、とっくん、つきあうから」


「はんとに!?」


「ぼこぼこに、する!」


「フィエ師匠!どこまでもついて行きます!」



まだまだ強くなれそうだ。

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