《番外》私たちの戦い
春香視点です。
それはギルド対抗戦追加まで残り一か月となった頃のことだった。
「.....」
私は街中で衝突した水色の髪のプレイヤーのことが頭から離れないでいた。
あの目、あの顔、あの身長、あの体系、あの声。
紛れもない。
「冬香....だよなぁ」
万が一にもたまたま冬香にとてもよく似た顔をしている別の人間だったとして、またアバター作成の際に調整を加えた結果冬香に似てしまった別人だったとして、あの声はどう言い訳をつけてくれるのだろうか。
このゲームに限ったことではないが、全てのVRゲームにおいて声を変えることは出来ない。機械がプレイヤーの体に特別な電気を流し、その電気の流れる様子を機械が読み取って仮想空間に人体を作り出しているからだ。声帯もプレイヤーのものがコピーされている為、現実世界での声と同じ声で会話が出来ているわけだが。
あの声は、いつも朝早くに家を出ていく冬香の声と全く同じだった。
仮に冬香だったとして、私を見ても違和感を覚える程度の反応しか見せなかったのは少し、いやかなり傷つく。
私だって理解はしている。冬香は長い間私という人間を見ていないのだ。挙句には私も冬香も成長していて、冬香の記憶にある私と今の私とでは色々なものが違う。この人春香に似ているな、という反応だけでも私は喜ぶべきなのかもしれない。
と、あの子を思い出してはこの始末だ。私が冬香の記憶に存在しないのではないかと、恐怖にも似た感情が常に頭の中に居座っている毎日。
あの時過度に同様した私はパニックにも似た状態に陥ってしまい、その場を離れるという最悪な行動をとってしまった。今となっては後悔しかない。
この世界で冬香と会いたい。会って色々とすっきりさせたい。
「ツバキぃ!!」
「ぉわ!?......ホントやめでよ」
「やったぜ。っははは」
またこれだ、と頭を抱えていた私に親友が声をかけた。プレイヤーネームは柊だが、親しみを込めて私はヒイロと呼んでいる。
ヒイロとは現実でも面識があり、小学生時代以来の古い付き合いになる。冬香はヒイロを知らないが、ヒイロの方は冬香を知っている。そのこともあって仮想空間での冬香探しを少しばかり手伝ってもらっているのだ。
「また冬香ちゃんのこと考えてたでしょ」
「ゲームで本名を言うなっての」
「いーじゃん私たちしかいないし。で?」
「.....そうだよ、悪いか」
「別にぃ?ツバキっていつもそうだなーって思っただけー」
「悪いかこの!!用が無いならクエストでも行って来れば!?」
「ごめんごめん冗談だよ冗談!」
ヒイロは相変わらず冗談が厳しい。しかし今のは私も言い過ぎだな。
最近つい言い過ぎてしまう。心の余裕が無い証拠だ。
「....ごめん、言い過ぎた」
「私も調子乗りすぎた。ごめんね」
ヒイロのこういう素直なところは結構気に入っている。
「でね、その例の水色の子。私の友達と同じギルドに入ってたみたい」
「それを早く言ってよ」
「ごめんって。んで、話を聞いたり実際に見てきたんだけど」
ヒイロは一呼吸置いた。
「ありゃ冬香ちゃんだわ」
「だよねー......」
ヒイロの目から見てもあの子は冬香らしい。
「でさ、そのギルドも対抗戦、出るんだって」
「....じゃあ、近いうちに会えるかもしれないんだね」
「そゆことー。ゆっくり話せはしないだろうけど」
「十分だよ」
私たちもギルド対抗戦に参加する。そしてより多くのギルドと戦わなければ水色の髪の子と会うことは難しいだろう。
ならば一つ一つの試合に早く決着をつけ、試合を多く行っていけば良い。
「ヒイロ」
「ん?」
「ありがと」
「何言ってんの、これからだよ。冬香ちゃんと会うため、邪魔するギルドを私たちで蹴散らして行こうよ!」
「っ.....うん!」
ねぇ冬香。
冬香にはもうこんな友達、出来たかな。




