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ブラインドソード(盲目の剣)  作者: 雛月いお
幕を開ける逃避生活
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光を見つけた日

「.......またあの日の夢かぁ」


ここ最近全く同じ夢を見続けている。小学生の時のあの懐かしい記憶。

デジタル時計の頭を叩くと時計は喋り、現在が午前五時過ぎだということを私に知らせてくれる。今日は一段と起きるのが早いな。もはや目覚まし時計の存在意義が怪しくなってきている。


二度寝は遅刻の原因だよね。


「.........起きるか」


私はベットから起き上がり、まず一伸び。これから必死で働いてくれる触覚と聴覚に礼をしつつ立ち上がると、とりあえず部屋の壁を手で探す。


過酷な一週間が幕を開けた瞬間だった。





_________






着替えを済ませ、手すりを伝ってリビングへ降りると、お母さんが朝食を作っている最中だった。


「あら冬香おはよう。早いのね」


のんびりとしたお母さんの声が私の鼓膜を震わせる。いつも私のために朝早く起きているはずなのに、毎日放たれるこの一言に眠気が一切感じられない。


「ふあぁおはようお母さん」


お母さんに比べて私は毎日眠気に満ちた返事をしてしまう。別に悪気も悪意も全く無いけど欠伸は勘弁していただきたいですお母様。


私は壁伝いに歩くのをやめ、孤立しているテーブルに行き着くため暗闇を歩き出した。


「もうテーブルに朝ごはん出..... 」


「いっ!?」


「冬香!?」


突如として私の右足の小指に激痛が走る。床に置いてあった固い何かにぶつけたみたいだけどとにかく痛い。あまりの痛さに右足の小指を両手で覆おうとしたところ、今度は予想以上に接近していたテーブルに額を激しくぶつけた。


「ったぁぁ.......... 」


「ちょっと大丈夫!?」


あまりの出来事に驚いたお母さんが駆けつけてくれる。私が視覚を失ってからお母さんはいつもこう。私に何かあれば血相を変えて支えてくれる。そんなお母さんに私は心配を掛けたく無い。その一心で、アクシデントの後には必ず笑ってこう言うのだった。


「大丈夫だよお母さん、全然痛くないから心配しないで」


「そんなわけ......ってこれお父さんのじゃないの、床に置かないでってあれほど.... 」


「ぶつかったのは私だし、お父さんは何も悪くないよ」


「でも..... 」


「あー、いい目覚ましになったなぁー!」


「冬香........ 」


「お母さん、ご飯いただきます」


「......... 」


お母さんの顔を確認する方法は残念ながら持ち合わせていないけど、きっとお母さんは寂しそうな表情を浮かべているに違いない。私の言動が余計に心配を煽っていることもとっくに気が付いている。でも、


私にはこうすることしかできない。




________





「冬香もう行くんだね」


玄関で靴を履いている最中、後方から春香の声が聞こえてきた。私の目に春香の姿は絶対に映らないが、人は普通相手の方向に顔を向けて会話ををするからとりあえず振り向く。どうせ靴を履く行動も見えていないわけだし。



「うんまぁ、遠いからね。学校」


「......... 」


「じゃ、行ってきます」


「...........行ってらっしゃい」


まただ。


「じゃあいきましょうか」


「うん」


私は靴を履き、お母さんと一緒に学校へ向かう。私はお母さんの右肘を軽く掴んでついて行く。

点字ブロックや壁を頼りに一人で登校できなくもないけど、いつもは弱気なお母さんが「登下校だけは一緒に行かせて!!」と叫んだので私が引いたのだ。私も登校ほど不安な行動はないとは思うので、お母さんの提案にはとても感謝している。手引きされるにこしたことはないからね。


私の学校は割と都心にあるので家からはだいぶ遠い。片道一時間強くらいだろうか。


揺れる電車の中で、私は最近見続けている夢について考えていた。



人間は自分が強く思っていることを夢に見るらしい。本当かは知らないが、もし本当ならば私はあの頃に戻りたいのだろうか。あの頃のように、春香と仲良く...........あ。

そういうこと。


私が遺伝性の病気で視力を失ってからというもの、春香はどこか気まずそうに、それでいて悲しそうに私と会話をするようになった。会話と言えるほど長く話すことはここ何年間かしていないけど。

私に非があったとしても、私自身何年経ってもそれに気付くことが出来ない。昔はあの夢のように仲が良かったはずなのに、一体何が春香をあんな風にしたんだろう。


いや、正確には私が盲学校への入学を決断した中学三年の夏からかな。


でも本当に原因がそれだけだろうか。


私、春香に酷いこと言ったのかな。

私に限ってそんなこと.......








「冬香?着いたけど」


「え?あ、ごめんありがとう」


「じゃあね冬香、気を付けて。何かあったら連絡頂戴ね」


「うん、わかってる」




__________







その日の昼休み、私は日本史の授業で発表するニュースをスマートフォンで探していた。


(最近のニュース、悪いんだけどつまんないよ)


画面を適当にタップし、読み上げ機能によって読み上げられた記事を片っ端から聞いていく。原則として、芸能、スポーツに関するニュースは禁止となっている。最近は何かと芸能関係のニュースが多くてこちらとしてはすごく困る。結婚したとか、離婚したとか、そんなニュースばっかりだ。私は女だけど別に恋愛に興味はない。ドラマもバラエティも全然見ないから芸能人も全く知らない。そんな私が芸能人の恋愛事情なんて知って面白いはずないじゃんか。


(はぁ...........ん?)


思わずその記事を聞き返してしまった。


『全ゲーマー待望の仮想体感型ゲーム機。発売開始』


かなり前から話題にはなっていたはずだけど、開発側が相当苦戦していたみたい。発売すら危ぶまれていたはずだったが.......。


ゲームか。従来のゲームなら小さい頃春香に影響されてやったことはあった。共闘ができるゲームは結構やり込んだ思い出がある。

病気にかかってやめたが。


『頭全体を覆う流線型のヘッドギアのようなバーチャルマシン。そjの内側に埋め込まれた無数の信号素子で発生させた多重電界でユーザーの脳を直接接続し、感覚器官を介さず脳に直接仮想の第五情報を与えて仮想空間を生成するという仕組み。同時に脳から体へ出力される電気信号も回収するため、仮想空間でいくら動き回っても現実世界の体はピクリともしない。また、一定以上の痛覚もペイン・アブソーバ機能によって遮断される』


え?

こ、これは


脳に直接情報が接続されるということはつまり神経が必要ないってことで.....視神経が原因である私の病気は完全に無視されるわけだ...?





.......。





おおおお!!


帰ったら早速お母さんに報告だ!

文中に出てきた「手引き」とは視覚障害者への歩行介助の一種です。

検索して出てくるかはわかりませんが気になる方は調べてみてください。

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