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ブラインドソード(盲目の剣)  作者: 雛月いお
広がる輪
18/29

雷光の魔法使い

「でっか....」


「構えんでええよ、どうせここじゃ戦わへんし」


杏子さんの言葉通り、飛龍は私たちを睨んだ後天井を突き破って外へと飛んでいった。


「いきなり難易度上がりすぎじゃないかな....」


「せやな、初見突破は中々キツいのが第一形態や」


前回の雷狼も手強かったが透明化とは。運営は随分とプレイヤーを虐めるのが好きみたいで。しかも脱皮の演出とか小学生なら永遠のトラウマになりかねないというのに。


「にしてもユキ子すごいな、音だけであそこまでわかるもんやないで普通」


「....まぁね」


「....?」


「ほ、ほら早く行こうよ」


「ちょ走らんでもええやん!」


何の言い訳も考えていなかった私は反応に困り、とりあえず誤魔化すという何か隠していることを悟られそうな行動に至ってしまった。得意の作り笑いすら浮かべずに。

私はこの世界に降り立った時から、現実での目のことは話さないと決めていたのだ。言う必要が無いし、万が一言ってしまったとして、私はその相手と顔を合わせたくなくなってしまうかもしれない。私は「そっか....大変だね」という心無い同情が何よりも嫌いなのだ。




「うちなんか気に障ること言ったんかなぁ.....」


「んー、杏子さんにも隠し事の一つや二つあるでしょー?それだよ多分」


「....うちには何や苦しそうにも見えたで」


「...奇遇だね、僕もだよ」




ーーーーーーー






「やっと外や」


「外の景色綺麗だから嬉しいかも」


「イベントグロいけどねー」


「うっさいわ」


太陽の眩しい光差し込む洞窟の出口に向かって私たちは歩いていた。次第に吹き込む風が強くなっているのが気になる。

ここまで来る途中、次の戦闘で少しでいいから杏子さんの戦闘スタイルを見学させてくれと頼んだところ、『ユキ子と戦いたいんやけどなぁ』という言葉が返ってきたが、渋々といった様子で頷いてくれた。ソラさんはどうやら解説をしてくれるらしい。


私たちは外の広大な景色に再び目を輝かせつつ、視界の脇で禍々しいオーラを放つ飛龍を睨み返してやった。


「じゃ頑張ってねー、ベルセルクの特攻隊さん」


「中衛のあんたには出来ん事してくるわ」


杏子さんはその言葉だけを残し、飛龍の元へと軽やかに走っていった。


「あれ、杏子さん魔法使いなんじゃないの?近づきすぎじゃない?」


「杏子さんただの魔法使いじゃないからねー。第一形態の時、グロウラを再展開するまでにかかった時間の短さ気付かなかったかな」


僧侶のグロルとの差別化で連続使用が可能な仕様なのかと思っていたがどうやら違うらしい。チアのグロルは確か一分だった。しかし杏子さんが飛龍第一形態の時に使ったグロウラは恐らく十秒弱くらいだったか。そう考えると確かに短い。


「僕も魔法使いじゃないから詳しくは分からないけど、魔法使いはどうやら自分のスキルをいじくれるみたいなんだー」


「へぇえ!それ強すぎない?」


「そう、だから運営はいじくることでデメリットが発生させる設定にしたんだ。杏子さんのグロウラの場合なら再展開に掛かる時間を最短にする代わり、グロウラの魔方陣が手の届く距離にしか展開できなくなったり、魔方陣自体の強度が薄くなったり....とまぁ、多分威力と時短以外のすべての効果だろうねー」


チアのように護身用として使おうとすると、魔方陣が敵の質量に耐えられずに割れてしまうということだろう。そして飛龍第一形態から私を守ってくれた時異常に距離が近かったのは、魔方陣展開範囲に限界まで下方修正が掛かっていたからだろう。


「杏子さんはこういう調整を所持スキルの半分くらいに施してると思うよ」


「それってもはや...」


近接戦闘職だ、と私が言いかけた頃には既に戦闘が始まっていた。


杏子さんは軽く飛び、自分よりも数倍ある飛龍の頭に踵落としをかました。地面に亀裂が走る程強い力によって頭を叩き付けられた飛龍に直ぐに動くことは不可能だった。この時の杏子さんの足にもグロウラの魔方陣がうっすらだが展開されていた。

着地した杏子さんの右手には既に魔法陣が付与されていた。


「《フォルガン》」


行動不能な飛龍の角はスキルを宿した杏子さんの右手に掴まれ、発動した爆発系スキルによって無残にも吹き飛ばされてしまう。それで満足しない杏子さんは飛龍の脇腹に固く握られた拳で正拳突きを入れた。衝撃で起こる突風が私とソラさんを襲うと同時に、飛龍は山肌に叩き付けられてしまう。この正拳突きにも恐らくグロウラの威力が加わっていただろう。


この人並み外れた一連の動作に、私は目を輝かせていた。


「これが魔法使い...!」


「良い子はマネしないでねー」


勝手に盛り上がる私を他所に、杏子さんはさらなる追撃をその場で開始した。


「《聖なる光が我が敵を穿つ》」


チアのシュナイデンと同様に、飛龍を覆う巨大な白い魔法陣が展開される。この魔術には展開可能距離に下方修正がかかっていないようだ。何も調整を行っていないのか、または大技故調整が出来ない仕様になっているのか、どちらかだろう。


「《リピーツグラール》!!」


地面から噴火のように噴出する黄金の光が飛龍を襲った。ある光は槍のように、ある光は大砲のように、しかしそのすべてが飛龍の体を貫き、天空へと昇って行った。


「これが魔法使い...!!」


私が目の当たりにした魔術に負けないくらい目を輝かせていると、視界の隅に映る杏子さんが私を見て胸を張った。


「今のであの飛龍相当削れたで」


「....ということは」


緑の飛龍は鋭い牙を剥きき出しにし、その凶暴な本性を現していた。雷狼も同じだが、ある程度体力が減ると激怒状態となるように設定されているらしい。敵の種類によって様々ではあるが、全てにおいて外見に変化が現れる。雷狼は毛並みが逆立つというあからさまな変化であったが、飛龍は目つきが変わったり牙が出たりと、人間の表情に似た症状が見えるようだ。


「もうええやんユキ子」


私はツイングラディウスを両手に持ち、ゆっくりと杏子さんに歩み寄った。


「やっと戦っていいのー?」


「マメ子はそこで待っとれ」


「なんでー!?」


「行くでユキ子」


怒りの感情が込められた飛龍の咆哮を聞きつつ、私たちは飛龍に向かって走り出した。すぐ隣で走る私には杏子さんの付与スキルがぎりぎり届く範囲らしく、左右の剣で異なるスキルが付与されたことに私は気付く。


近づいてくる私たちに対し飛龍は低空を飛び、自慢の爪を立ててこちらに突進してきた。途端に身を切るような冷たい突風が私たちを襲った。


「《シュラーグ》!!」


空中で杏子さんの回転蹴りと飛龍の爪が激しい金属音を奏でてぶつかり合った。雷属性のスキルが付与された杏子さんの足は雷を帯び、その高威力たるや自身と何倍もの差がある飛龍とまともな力勝負で弾き返せてしまう程だった。


私は飛龍をくぐり、背後を集中して攻撃するべく私自身のスキルを発動させた。


「《オルクスヴァール》!!」


二本の剣は濃い紫色の不気味な光に覆われた。これによって発動した杏子さんのスキルは雷属性であり、剣は暫く青白い雷撃を放っていたが、闇は雷を吸収し、赤黒い雷がそこから生み出された。

私が最近習得した闇属性のスキルである。


私は飛び上がり際に飛龍の背中を切り上げ、切り下ろしにありったけの力を込めた。


魔獣の双牙とも言える邪悪な外見の短剣は飛龍の鱗をも容易く切り捨て、またその軌道には赤黒い閃光が走っていた。


一瞬で並外れた深い傷を負わされた飛龍は仰け反りつつも、周囲で怪力を披露する人間に一矢報いるために巨体を生かして円形に飛び回る突進攻撃を繰り出そうとした。


「王手や」


私は着地した後、何よりも先に二歩後退し再び飛び上がる。先程杏子さんが発動した光属性の大技と同じ大きさの魔法陣が私たちの足元に存在していたからである。

杏子さんは自分の思うように事が進んだことを心底喜びながら、嬉しそうにスキルを詠唱していた。


「《デッドリーシャイン》」


突如、雲一つない晴天から降下した裁きの雷が飛龍を襲った。


飛龍よりも高い位置にいる私はフルスターリソードを構えて最後に叫んだ。


「《グリューエン》!!」


結果的に二話も引きずった飛龍もボコボコになってしまいました。

本当はもう少し色々させたかったです(泣



まさかの年末投稿です。

今年から書き始めた作品ですが、まさかここまで読んでくださる方が増えるとは思いませんでした。

嬉しい限りです。

今年書き続けられたのも読者の皆様方のおかげです。

来年も相変わらずな様子で書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。


ではでは、良いお年を~。

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