関西弁の彼女
私はフルスターリソードを眺めていた。
「やぁーユキちゃん」
相変わらず呑気な口調でソラマメさんことソラさんがやってきた。私の待ち人である。
このフルスターリソードが無ければ狼には勝てなかった。勝利の鍵となった剣をくれたことへのお礼がしたくてソラさんに声をかけたのだが、ソラさんも私に話があったらしく「いやー丁度良かったよー」なんてチャットが私のもとに飛んできた。
「おー、気に入ってくれたのかなーそれ」
「これのおかげで勝てたんだ。ありがとうソラさん」
「いやぁー礼には及ばないよー」
「...でも自分の実力で勝てなかったのは悔しいかな」
「まーねぇ」
ソラさんは私の行いに対してこれといった感想を述べることは無く、ただフルスターリソードを見つめるだけだった。
ソラさんもこの剣を私に渡したのが結果として良かったのか悩んでいるのではないかと思った。
「私は私の力で戦いきれるように努力するよ!」
私が素直な気持ちを伝えれば、ソラさんの下がりかけた眉は平常位置へ帰っていった。
「そーかそーか」
「で、話って何?」
「んとねぇー.....」
私が話題を変えると、ソラさんは以外にも悩む素振りを見せ始めた。
「んー、なんていえば良いのやら」
ふわりふわりと思ったことを割と素直に口にするソラさんにしては珍しい。
特にソラさんが何を言ってくるか予想をしていなかったが、もしこれが男女のお付き合いの話だったりとか、やっぱりフルスターリソードのお値段最安値じゃダメだわーとかだったらどうしたものか。
なぜ今更嫌な想定が出来てしまうのか謎でしかない。心の準備が必要な内容だったら些か勘弁していただきたくはある。
「まぁー単刀直入に言うとだねぇ」
私の体に緊張が走った瞬間だった。
「ギルドへの勧誘というか」
「なぁ--んだぁぁあ」
「え、なにその反応」
ちゃんと健全な話でものすごく安堵する私。対したソラさんは私の反応を目の当たりにして顔にハテナマークを浮かべていた。
というかこの間「ギルドに入りたければ歓迎する」とセリフを残していったはずだが。次に勧誘とはどういう風の吹き回しなのだろうか。
「で、その心は?」
「それを説明する為に悩んでたんだけどさー。とりあえず最初から話すことにするよ」
こうしてソラさんによるため息交じりの説明会が幕を開けたのだった。
事の発端は、先週行われたアップデートでギルド対抗戦実装予告があったことらしい。これはギルド対ギルドで攻防戦を行うイベントだ。期間限定イベントになるのか常に行われるようになるのかは今回のイベントがどれほど盛り上がるかにかかっているらしい。
一試合につき旗を防衛するギルド、その旗を折る為に攻め入るギルドを決める。ルールは時間内に旗を防衛しきれば防衛側のギルドの勝利、時間内に旗を折れば攻撃側のギルドの勝利といったシンプルな内容だ。
参加する為にはギルドメンバーが最低でも十二人必要らしく、私を勧誘した理由はこれらしい。
「ベルセルクのメンバー、腕は確かなんだけどどうも変わり者が多いみたいでさぁ」
「うまく勧誘出来そうなのはソラさんしかいないと」
「そゆことー.....。対抗戦自体はすごく面白そうなんだけどねぇ」
ソラさんは心底面倒臭そうな溜息をついて話をまとめ切った。
なんらかの形でフルスターリソードのお返しが出来ればなと思っていたところだ。私にとっても都合が良い。ついでに強くなれれば一石二鳥ってやつだ。
「うんいいよ。ソラさんと一緒に戦いたい」
「流石ユキちゃん!話が分かる子でほんと助かるよー」
ソラさんはオーバーリアクションとも言えるほど大きく喜んだ。そんなに危機迫る状況だったことを考えるに、ベルセルクは私が想像しているよりも過酷なギルドなのかもしれない。
軽く引き受けてしまったが本当に良かったのだろうか....。
ま
いっか
ーーーーーーー
「ここだよー」
「おぉー」
私とソラさんはベルセルクが拠点としている屋敷の前に来ていた。
中世のヨーロッパに建っていそうな赤レンガで出来たお屋敷で、ぼんやりとした炎のランプが落ち着いた雰囲気を醸し出していた。何より建物が大きい。この拠点からではとても十二人未満で構成されているギルドだとは思えない。
なかなか住みやすそうなな建物ではあるが。
「とりあえず入ってみるー?誰かいるかもしれないし」
「う、うん」
「そんな緊張することでもないって」
元より私は人見知りなんですよソラさん。
拠点を目の当たりにした私の緊張はさらに高まっていたが、ソラさんには一切伝わっていないようで、容易く屋敷の玄関の扉は開かれた。
呆然としていた私は我に返り、ぎこちなく屋敷に入っていた。
ーーーー≪ギルド:ベルセルク≫----
玄関を潜ると、そこには大人数での会議が行える程度の円卓がある大広間が待ち構えていた。
「あ、マメ子おかえり」
「やぁー杏子さん。そんでマメ子っていうのはほんとにやめてくれないかなー」
「マメ子はマメ子やんね」
そして薄紫色の髪をサイドテールに結んだ女性も私たちを待ち構えていた。
彼女は二階に続く階段を下りている最中だったらしく、これから何処かへ向おうとしていたところに出くわしたようだった。
彼女から放たれる言葉には、関西人特有の訛りがあるように聞き取れた。
「この子がマメ子一推しの子なん?」
杏子と呼ばれた女性は私を視界に入れるなり急接近してきた。清んだ桃色の瞳に見つめられ、女性相手なのにも関わらず私の鼓動は加速してしまう。
「別に推してる訳じゃないけどさー」
「ねぇねぇ名前何て言うん?」
「ゆ、ユキですっ」
「ユキ子いうんか!」
「へっ?」
ユキ子とは一体。
ソラさんのこともマメ子と呼んでいたし、杏子さんなりの呼び方なのだろうか。
マメ子......だめだ笑ってしまいそうになる。
「うちのギルドのメンバーは皆個性豊かやし、しんどくなったらすぐうちに言うねんで。マメ子に訴えたるさかいな!」
「えぇ僕ー?」
確かに目の前の二人も実に個性がある。でもその個性は私にとって嫌な部類ではなく、むしろ新鮮というか、春香と一緒にいるだけでは見ることの出来なかったであろうことの一つだと思った。世の中には色々な人がいるということをようやく実感できた気がする。
「杏子さん、これからよろしくお願いします」
「いやぁ敬語なんていれへんて。仲良うやってこや!」
「杏子さん」
「ん?」
「関西弁っていいね」
「せやろ!!?」
自分は関西出身じゃないので杏子のセリフにおかしな部分が必ずあると思います。ご指摘など大歓迎なので感想なりで是非お願いします。
ちなみに杏子のセリフは京都弁変換サイトで変換したものにすこし手を加えております。




