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ブラインドソード(盲目の剣)  作者: 雛月いお
ソロプレイヤー脱出
13/29

努力と決意と連携と友達と

「天候は変わらないんだ」


「.....仕方ないですよ」


私たちは再び嵐の海岸に立っていた。

このクエストでの天候は暴風雨でどうやら固定らしい。メインターゲットの攻撃パターンに黒雲からの雷撃がある為、運営も下手に天候を変えることは出来ないのだろう。チアにとっては天候までもが敵というわけだ。

チアは自身が雷を怖がる理由を過去のトラウマのせいだと言っていた。しかもそのトラウマは私が想像していたよりもずっと重く、人の命が係わるものらしい。それを考えると、前回半ば無理矢理雷雨の中を歩き回ったのは間違った選択だったのかもしれない。嵐の海岸に降り立った時点でカルガスクへ引き返すという選択肢をあの時の私に与えたいものだ。


「行きましょうお姉さん」


チアは私の前を歩き始めた。後悔する私とは対照的に、チアの目は確かな決意を宿していた。

チアは実の姉がいたとも話していた。そして私のことを何故かは知らないがお姉さんと呼ぶ。チアの姉と私とで何か共通点があるのだろうか。少なくとも、チアがお姉さんと慕う私が目の前で雷撃を理由に死んだ。これはトラウマをはっきりと再起させるには十分すぎる材料となったはずだ。


もう二度と私自身がチアを苦しめる理由にはなりたくはない。


「早いとこ終わらせようか」


私は例の岩場へと足を向かわせた。

絶対に死んでなるものか、そう決心しながら。





ーーーーーーーーーー






階段状の岩を登り切ると同時に、本日一番の激しい雷が轟音と共に光った。


反射的に両目を覆った右腕を下げると、既にチアをターゲットとして認識した雷狼が跳躍攻撃の準備を終えたところだった。


「チア!!」


私は腰に下げたツイングラディウスを勢いよく抜くのと同時にチアの目の前へ飛び出た。自分でも中々良い反応速度だと思ったのだが、相変わらず雷狼の跳躍速度は凄まじい速さを誇っており、私の短剣が雷狼の爪と接触するのは間一髪といったところだ。


一つレベルが上がる際に、攻撃力や防御力、素早さなど、各ステータスを上昇することの出来るステータスポイントが一ポイント貰える。各ステータスへ均等にポイントを振っていくのが主流ではあるが、今回私はポイント全てを攻撃力と素早さの二つに等分し、防御力には一切加算値が無い状態である。もちろん魔力にも一切分配していない。


コンセプトは敵と競り合っても上手、もしくは互角を取れる攻撃力。そして敵の攻撃をかすりもしない速さで動き回ることが出来る素早さ。この二つだ。


その甲斐あってこの狼を一時的に振り払えそうだ。


「《グロル》」


「!?」


チアのスキルを詠唱する単語が呟かれた。すると雷狼の鼻を中心に紫色の魔方陣が展開されたと思いきや、突如なにか強い引力のような力で雷狼は吹き飛んだ。あまりに一瞬の出来事で私は驚いたが、今のがチアの言う自分で身を守る手段の一つであろうと推測した。あれほど詠唱から発動までが早ければ、魔法職が身を守る手段としては申し分ないだろう。同時に私は、たった今発動されたスキルがチアの持つスキルの中で最も護身用として優れているのではないかと感じた。


「一分です」


「え?」


「シュナイデンが発動してない時の護身用だったんですよあれ。次の使用可能状態まで一分なので、それまで私のこと守ってくださいね」


チアもまさか開幕で秘術を使うことになるとは予想していなかったらしく、苦笑い気味に私へ頼みごとをする。しかしこんな予想外で逆風な状況でも苦笑いを浮かべる余裕があるのは、自分を守ると発言した私のことをよぽど信用しているからだろう。


「任せてよ、むしろ本望だね」


私が遠くで遠吠えしている雷狼に向き直るのに対し、チアは持っていた杖を地面に突き立てた。


「《全てを断ち切る神剣の力、今ここに召喚す》いきますよ、お姉さん」


チアの呼び賭けで地面に紅く巨大な魔方陣が展開される。私はその上を徐々に速度を上げつつ駆け抜けていった。上空では雷狼の遠吠えに応えるかのように、私たちの頭上で群生していた黒雲が青白い雷を纏う雷雲へと進化を遂げていた。


「《シュナイデン》!!」


地面に広がる紅い魔方陣は輝きを増しその効果を発揮し始める。


雷狼が地面を叩き付けると、雷狼の周囲広範囲の地面に青白い光が点々と現れる。私は見覚えのあるその予備兆候に一切怯むことは無かった。


兆候から発生までが恐ろしく早いこの攻撃、今の私なら避けつつ近づくことが可能なはずだ。


「すごい...」


現実では一般人にはとても真似出来ないような俊敏な動きで降り注ぐ雷撃を回避していった。この数日を経て迷いのない動きになった私を見てかチアが呟く。一本の矢のように猪突猛進じみた私の動きには中途半端に素早さを高めただけでは足りなかったのだ。捨て身ともとれるステータスの振り方をしたことにより、一本の矢は一発の弾丸へと更なる威力と鋭さを持つことが出来た。


弾丸は弓矢では狩ることの出来ない獲物を狩ることが出来る。


「こんにちは狼さん」


狼と対面した一瞬に短い言葉を吐き捨てる。そして狼の背後を狙うべくそののまま走り抜けようとしたが、私は両方の手に握った短剣を逆手持ち、それを狼の胴体に突き刺して自身の速度を落とした。狼の脇腹を切り開くような攻撃には私の体重も重なってより強力なものとなっていた。


狼は突然加わった斬痛に仰け反ったが、直ぐに私に背後を取られている現状を変えるべく旋回しながら振り向き、遠心力の混じった爪で私を攻撃した。


私は右手の短剣だけを逆手持ちにしたまま左手に握られた短剣を正しく持ち直す。


振り下ろされた狼の爪を左手の短剣で滑らせ受け流すと、向かい合った狼の右側へ体ごとスライドし、背中から体を捻った勢いで狼の背中に右手の短剣を思いっきり刺した。


「《フォルガン》」


チアの魔術によって突き刺した短剣を中心に紅い魔方陣が描かれる。これを追撃で発動するスキルだと察した私はその場で回転し、短剣に向かって踵を蹴り込んだ。


「ちょっ、チア!?」


追撃スキルが付与された短剣は新たな力が加わったことでその真価を発揮した。私の踵の衝撃をきっかけに、真っ赤な光をまき散らした大爆発を起こしたのだ。狼が吹き飛ぶとか短剣が狼を貫通するとかそういう芸を期待していた私はあまりの出来事にチアを見つめる、殺す気だったのかと問い詰めるような眼差しで。

対するチアは意地悪そうな笑みを浮かべて「失礼しました」なんて手を合わせていた。


背骨が大爆発を起こした狼は地面に叩き付けられたまま早く起き上がろうとはしなかった。変にリアルなこのゲームで体の内部が大爆発を起こしたのだ、そう簡単に立ち上がることは出来ないだろう。


私は狼に突き刺さったままの短剣を手元に戻すべく一度装備を外した。


連携攻撃(笑)で消耗した狼は立ち上がるり、怒りの火が灯された目で私を睨みつけた。怒りのこもった遠吠えが嵐の海岸に響くと、狼の元へ一発落雷が起こる。そこから現れた狼の毛は逆立ち、青白い雷を体中に宿した、まるで別の生き物のような凶暴さを誇っていた。先程までの凛とした美しさはどこへやら。


一瞬、狼が私の視界から姿を消した。


「後ろです!」


「はいよっと」


振り向いた私は凶暴な獣が意外と近い位置に存在していたことに驚きつつも、次々に繰り出される爪による攻撃を受け流したり避けたりしていく。狼の腕には、受け流した際に短剣によって付けられた浅い切り傷が着々と増えていた。その一つ一つがシュナイデンの効果で立派なダメージとなっている事実は見ただけでは理解できないだろう。しかし同時に狼の周囲で降り注ぐ雷撃が私を襲い続け、次第に激しさを増していくそれに明確且つ膨大なダメージを与えることが困難極まりなかった。


「《グロル》」


私が攻めあぐねている様子を見てチアが動いた瞬間だった。スキル発動によって発動した紫色の魔方陣は狼の頭上に現れ、狼を再び地面に叩き付けるという凄まじい効果を発揮した。本来護身用で使われるスキルは工夫次第で戦況を変える強力な一手となると言うことか。チアも考えたな。


「《プロテクション》!!」


狼が叩き付けられるのとほぼ同じタイミングで、上空から降り注ぐ雷撃を遮るように障壁が張られた。レベルが上がったチアの障壁は雷撃に屈することは無く、役割を完璧に果たしていた。これによって私を邪魔するものが何一つなくなった。


チアは私の次の一撃で全てを終わらせるつもりなのだろう。


私は瞬時に装備をフルスターリソードに切り替え、現れた透明感ある剣を握りしめ叫んだ。


「《グリューエン》!!」



近頃更新が遅れてしまい申し訳ないです。

忙しいもので思うように小説が書けず悩んでいます。

そんなわけですが、今後とも読んでいただければ幸いです。

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