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蒼底の殻人  作者: じむ
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裏と決意と、お願いと

「――ハーフ狩り事件。

ここ数カ月の間から現在に至るまで起こっている、ハーフとその親族の連続殺人事件の通称だ。

ハーフが生まれてから十数年、人身売買や臓器売買を目的としてのハーフを狙った事件は多く存在していた。

しかし、このハーフ狩り事件は殺害を目的としており、自宅などでの殺害でも家が荒れている以外、金品等の強盗は一切行われていない事から、その一切の動機、目的が不明。

このため専門家や世間の間では様々な憶測が飛び交い、現在はハーフの希少性に目を付けた快楽殺人ということになっている。

……これが、"表向き"。だけど、実際は違う。

ハーフ狩りは、単なる快楽殺人の類ではないんだ」


「ニュースの報道は嘘だってことですか?」


シアのそんな言葉に、ハンプバックは苦笑した。


「そういう説があるって言い回しで言ってるから、嘘ともいえないな。実際、はっきり言えることなんてあまりないからね。さっき表向きの話って言ったのは、そういう風に、表に言える範囲での話ってことなのさ。

……そして、これから話すのが我々が公にしていない、本当のハーフ狩りの話」


他言は無用だよ、と指を立てて口元に充てたハンプバックに、シアは頷いた。


「……その話は、ハーフ狩り事件への捜査を難航させているときに、"セントラルシグ"からの協力者の内密な依頼と一緒に、俺の耳に入ってきたんだ」


セントラルシグ。

この共存社会を支える行政機関の名前が出てきたことに、シアは内心驚いた。

ハーフ狩り事件の、公にされていない情報が、それほど大きな話であるということだからだ。

そしてハンプバックの口から出た言葉は、たしかに、突拍子もないものであった。


「――曰く、ハーフ狩りを行っている人間は、この共存社会の人間ではない、とね」


シアは最初、その言葉の意味がわからず、首を傾げた。


「共存社会の人間じゃないって……それじゃあ、一体だれが?」


この共存社会に生きている以上、何処の国、何処の都市にいても住民は等しく共存社会の人間と定義されるだろう。

その質問に、ハンプバックはすぐに答えなかった。


「……ダライン君は、歴史は得意かな」


「……人並みにはできます」


「なら、この共存社会の成り立ちについて、"三界分裂"については覚えているかな」


「……はい」


シアは、急な話題の変化に戸惑いつつも頷いた。

そして、すぐに合点がいって表情を固まらせた。


――人間と殻人が共存を目指した時、共存社会をよしとしない人々がいた。

地上に最初から生きてきた人類のみが、この地上に生きているべきだとする思想の地上の人類と、殻人こそが地上に生きるべきだとする思想の海の人類である。

やがて彼らの思想は争いを生み、共存社会からの独立を招いた。

人間至上主義である人類はその思想に賛同する国や都市に移住し、そこから空に新たな大地を作り上げ、

殻人至上主義である殻人達は海を支配し、殻人のみの新たな社会を築き上げた。

そして彼らは"天界人"と"底界人"の二つの種族となり、三つの社会は互いに不干渉とすることを誓う"三界同盟"を結び、現在に至る。

それが、三界分裂と呼ばれる歴史である。


……その話をされて、その先の答えに行きつくのは至極当然であった。

誰がこのハーフ狩りを引き起こしているのか。

ハッとして顔を上げる。


「……まさか」


「そうだ。共存社会の外から来た人間が、この事件を起こしている。

その動機は未だ掴めていないが、その情報だけはたしかなようだ」


その言葉に、シアは現実味が感じることが出来ずに頭を振った。

天界人、底界人。

ニュースなどでたびたび報じられることはある。

底界人の海賊行為や、天界人が空から落としたとされる物による被害など、あまりいい話は聞かなかった。

ただ、会ったこともない、会ったとしても自分たちと同じ見た目だからわかるはずもない人類の、見えない侵略行為のようなその行為。

なぜ?

ただただ疑問がわき、実感がわかずに呆然とする。


と、その手が掴まれて、シアは我に返った。

ハンプバックが、しっかりとその手を握っていた。


「そこで俺たちが設立された。その動機と、君達ハーフの保護。そしてその犯人のこれ以上のハーフ狩り事件の阻止、逮捕。

これが、ハーフ狩りの真実と、ハンプバックがSPOを設立した本当の理由だ。

安心してくれ」


その眼は強い意志と、温かさに満ちていたように感じた。

そしてその温かさに、シアは何とも言い難い波のような不安が静まっていく。


「――君は、俺たちが守る」


力強く言われたその言葉に、シアは頷いた。

それを見て、ハンプバックは引き締めた表情を崩して笑う。


「……まぁ、俺たちもまだまだ手がかりさえつかめてないんだけどね」


「うわっ、かっこわるい!!それ言ったら台無しですよリーダー!ハイダメ!!終わってるう!!」


「……これはひどい」


その言葉に双子……フィーリアとセファが、素直で容赦のない一言を浴びせた。

ハンプバックがうぐ、と唸る。


「そうはいっても、過度な期待をされて失望されるよりは、はるかにいいだろう……」


「あ、あー。保険てやつですか。大事ですよね」


「そうだねえ。ただでさえやる気を出した時のハンプは空回りするポンコツだからねえ」


弱々しい反論に、さらにウォーガとシュアから言葉かかぶせられた。

ウォーガの言葉は、その様子から察するにおそらくフォローのつもりで言ったんだろう事が窺える……窺えるのだが、言葉選びが致命的に逆効果な気がする。そしてシュアの方は気さくな軽い罵倒であった。

唸り声が先ほどよりきつそうだな、とシアは思った。


「お、お前らひどい!おれだってちょっと小物っぽいこと言ったなと思ったよ!だけどお前、だからって手がかり0の状態でそんな気易く全部任せろとか言えないだろ!?」


「いやあ、にしても言い方ってもんがありますよーだんなー?」


「……俺たちが守る!の直後にそんな情けないこと言ったら、むしろ信用しづらい」


「マジかよ……」


いよいよ反論の余地もなく、ハンプバックはうなだれた。

と、そんな五人をよそにして、シアは一人、黙って俯いている。

その様子に、ハンプバックはうなだれるのを一旦やめて声をかけた。


「……ん、どうした、ダライン君」


「あ、いえ……」


質問に、シアはすぐに答えなかった。

しかし、すぐにSPOの面々に向き直ると、口を開いた。


「あの、ひとつお願いがあります」


「お」


その言葉に全員が耳を傾ける。


「なんだい?俺たちに出来ることなら、可能な限り実現しよう」


「未だにそこはかとなく小物っぽいリーダーの発言はともかく、どしたのシア君。お姉さんにお任せあれ!!」


「……同い年らしいし、お姉さんではないと思うけれど。遠慮なく言ってほしい」


「小物っぽいとか言うな気にしてんだから。んで、なんだ?俺も出来ることなら力貸すぜ」


「うん。たまには頼られるのもいいね。言ってごらん?」


それぞれの反応に頷いて、シアは口を開いた。

……結論から言うと、その発言は、五人の望んでいたものとは少し違った。


「その……僕も、皆さんのお手伝いが、したい……です」


最初はその言葉の意味がわからず、メンバー達は顔を見合わせる。

そしてすぐに気がついた。

その一言は、シアがまず少しだけ、自分達に心を開いてくれた証なのだと。

その、小さな前進が、ハンプバックたちにはとても大きな喜びになったようである。


「もちろんだとも!」


大きく何度も頷くハンプバックと、笑顔を浮かべるメンバー達に、シアははじめて、笑った


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