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蒼底の殻人  作者: じむ
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始まりの邂逅

 画面がタイトルを写しだし、時刻は朝のニュースを告げていた。


『今日一番のニュースです。

連続する"ハーフ狩り"事件、奇跡の未遂です。

昨日未明、ハーフの少年がすむ一家に何者かが侵入、3人家族のうち2人を殺害しました。しかし、警察組織が駆けつけたことにより犯人は逃走を余儀なくされ、その迅速な対応によってハーフの少年の命が助かりました。初めてハーフ狩りを"未遂"に留めたのは快挙であると、報道各社が大々的に報じています。

 ……そんな今回の事件、駆けつけたのは新設された組織でした。

ハーフについて、そしてこの新生組織"SPO(ステンダリア・プロテクト・オルガニゼーション)"について、今日はお越しいただいた海空共存党の人間種、ヴァラ大臣から、ご説明いただきます』


『どうも』


『本日はお越しいただき、ありがとうございます。さて、今回立ちあげられて間もなく出動し、少年を保護したSPOという組織、どういった組織なんでしょう?』


『そうですね。まずはほんの少し、ハーフの原点、始まりとも言える我々の、共存の歴史からお話ししましょうか。


 今となっては遥か昔、地上の人類の行った海底の最深部探索中に、海の底で我々と同じような文明を築き上げていた海底の人類、"殻人"と接触、両人類で初のコンタクトを果たしました。

そしてそれから幾度も交流を重ねた結果、地上と海の人類の共存社会……通称「ステンダリア」が誕生したのです。

彼らの持つ莫大なエネルギー効率を誇る資源"底輝石"を使った技術によって地上はこれまでより大きな豊かさを得、

人間の地上での技術と資源によって殻人に地上での安全と生活を与えることで、両種族は共に文明を著しく発展させていき、現在の社会が成り立ちました。』


『今の我々の社会はお互いの存在がなければ成り立たなかった物であるといえますね』


『その通り。しかし、現在はその世界は三つに分かたれてしまっているわけなのですが、ね。


 失礼、話を戻しましょうか

さて、そうして出来た我々の共存社会で近年、生まれ出したのが、今回の事件の中心、両人類の混在である"ハーフ"です。

共存の象徴、奇跡の申し子である彼らがなぜ狙われるのか。それにはいくつかの理由が推測されます。

ひとつは、彼らが非常に希少である、ということ。ハーフの存在が生まれたとされる年数はたったの十五年前程ですから、未だに彼らへの法律も人間の部分と殻人の部分、どちらに線引きするのか議論の絶えない程に不安定なものです。これが非常に、法の網の隙間を縫って行われる卑劣な裏取引において、犯罪の対象とするには都合がいいわけです。


 さらには人間に近い基本的な身体的特徴でありながら、殻人の優れた能力と強靭さを持っていると来たら、そういった連中には垂涎の的と成り得るのでしょう。事実として誘拐事件等は、ハーフの特徴や希少性を売り物にする残忍なものが多くありますね。


……しかし、そういった目的をもった誘拐などではない事件が、最近起き始めた』


『今回の、ハーフを狙った殺傷事件ですね』


『そうです。これには誘拐などと違い何の生産性もなく、通り魔的に行われている。ハーフという存在が希少なため、快楽目的である可能性もありますが……ともかく、そういった事がここ頻繁に起き始めている。誠に遺憾なことです。


──そこで、この問題に対処すべく新しく設立されたのが、今回の話の本題である、SPOですね』


『ここまで長いご説明、ありがとうございます。では、そのSPOとは、どう言ったことが目的の組織なのでしょう?』


『SPOが目的とするものは、P、プロテクトの名前の通り、守るという点ですね。

 今回のような凶悪犯罪が増え続ける中、警察組織のみでは回らない、間に合わない事件が増えてきました。そこでそれらの凶悪犯罪に立ち向かうべく政府が立ち上げたのが、未然の犯罪の防止や予防、そして力のない者を守ることに特化したチームです。

警察と違うところは、被害者やその関係者の護衛、超長期的な保護が可能であるということ。今回の少年も、この長期的な保護対象になりますね。

もちろん、犯罪者の確保や制圧、情報収集など、一般の警察組織がしている活動も行えます。要するに、警察に足りない所を求めて作られた、精鋭ぞろいの小規模な警察ですね』


『成程。では、純粋に犯罪の抑止力が増える、ということでしょうか』


『はい。その第一歩として、彼らは今回、ハーフ狩りをその機動力をもって首の皮一枚で防いで見せた。これは大変大きな一歩であり、彼らへの期待は、大いに持てることでしょう』


「じゃねーわタコ助」


プツリと。

電源が切られた。


「あ、なにすんだてめ」


リモコンを手に見ていたニュースが消されたことに、それまでテレビを見ていた青年が抗議を上げる。

それにかぶせるように、否、かき消すように大きな抗議が返ってきた。


「なんすかアレぇ!!もっとあったでしょうもっと!!」


「何がだ」


「評価ですよ!!快挙なんでしょ?ハーフを守ったのは快挙なんでしょう??じゃあもっと褒めて!!讃えて!!ついでになんか奢って!!!ちやほやしてもいいんじゃあないでしょうかああっはああああん!?!?」


実に。

実にうるさい。

ここがただのマンションの生活共同スペースならば今すぐ叩き出されそうな勢いでもって、少女が跳ねまわり、劇団めいたジェスチャーとともに叫び散らす。


「……おちついて」


それに瓜二つの少女が歩み寄り、暴れまわる手を器用に掻い潜りながらポンと背をたたいて嗜めた。

それに自分もローテーブルに置かれた新聞や雑誌を顎で示して見せる。


「そうだ落ち着け。報道各社が大々的に報じてるっつったろうが。それに、SPOは設立したばかりだ。よくわからん奴をほめるわけねぇだろ。まず説明からだ」


「だわーあー……そうはいってもこんなに誰お前感が強い扱いされたらさーあー……」


「仕方ねえだろ。むしろ大した事してねえのに快挙って言われる方がラッキーで、本当に評価されるのはこれからだ。出だしとしてはまずまずなんだし文句言うなよ」


「うーん、褒める前に情報開示を要求というのも、世知辛い世の中ではあるけど。結果論であったとしても、まずは少しはほめてくれてもいいんじゃないかな」


ついにはソファにうずくまり始めた煩い少女に説明を投げていると、朗らかな笑いとともに横槍がはいる。


「ああ、お早うございます。今起きたんですか」


「うん、彼女のおかげでね」


好青年のような爽やかさと知性を持った男性は、騒音発生機を指さして答えながらテーブルの席に着いた。


「それに今日は"彼"が来る日だし。いつもよりも余裕を持って起きなければ、出迎えるにも締まらないでしょ?」


余裕たっぷりに、優雅にモーニングコーヒーを淹れ始める。

そんな彼に一言、物申す。


「……それはいいんすけど、シャツがボタン一個ずれてるし、下半身パジャマだし、寝癖が皇帝ペンギンの眉毛みたいになってます」


「……ふむ。困ったね。どれから手をつけるべきか」


「まずは豆をいれてないまま挽いてるその無意味な回転をやめて、寝癖を直してきてください。自分が淹れとくんで」


「ううん、しかし君の手を煩わせるわけにも」


「いえ、強いて言うなら今がそれなんで」


「それはすまない。何かお詫びにできることはあるかな」


「寝癖直しと着替えですかね」


「そうかい?じゃあ失礼して」


「……すんません、訂正します。貴方の寝癖直しと着替えです。自分は済ませてあるのでシャツのボタンをはずさないでください」


「そうかい?」


「行ってらっしゃい」


「うん、行ってきます」


全く会話が成立しない彼に、冷静であることを務めて返す。

なんとか追い払うことに成功した、と思ったがつかの間。


「せーんぱーいキッチン行くならあたしすくらんぼぅえっぐ」


「自分でやれ馬鹿」


「あ、今馬鹿って言った。かちーんときたむかーっときた。まったくもってあのチンピラったらもー冗談の通じない御仁よのぅ、かわいい妹よ?」


「……私が姉」


「ああもううるせえお前ら……」


頭を抱えそうになりながら、青年は重い腰をどうしても上げることができずに天井を仰ぎ見る。

と。

そんな中、インターフォンが鳴った。


「「「「あ」」」」


四人の声が混ざり合う。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「さて、話した通り、君の身柄は我々SPOが長期的に保護することになる。何か質問はあるかな?」


車が滑るように追い越していく景色を眺めていると、ハンプバックが聞いてくる。

今、シアはハンプバックの手配した車に乗り込み、これから自分が長期間保護されることになるSPOの本拠地に向かっている道中である。

SPOについての説明を受けて、シアは少し遠慮がちに質問を投げかける。


「保護していただける期間は、最大でどの程度の物なんでしょうか。自分には、その……両親以外に身寄りがないので」


「ああ、その点においては心配いらないよ。期間は今のところ設けられていない。それに、君に行き先が出来たのであればその時はそちらから申請してくれれば保護状態はいつでも破棄できるし、逆に期間が設けられて、その時にまだ身寄りがない状態であればこちらで衣食住や働き口の方でサポートもできる」


「……そうですか。ありがとうございます」


「いえいえ。仕事じゃなくても、それくらいはするさ」


何から何までという言葉が浮かんで、シアは頭を下げる。それにハンプバックはにこやかに首を振った。

と。


「おっと、着いたようだね」


都市の中心部といえる場所、その一画で車が止まる。

促された方を見てみると、そこには巨大な建物があった。


「……大きいですね」


「だろう?ここは我々の居住エリア、商業施設のある商業エリア、移動手段としてつかわれるステーションエリアとわかれている。

 居住エリアは我々SPO専用の居住区画しかないから、民間人は君のようなケース以外は使えない。しかし商業エリアとステーションエリアは民間の人々も大型商業施設として利用が出来るよ。君も荷物やらの整理が終わったら行ってみるといい。娯楽までばっちりだ。

そうそう、我々SPO専用の区画。これがまたかっこいいんだ。すごいだろ?」


思わずもれた声に、自慢げに返される。

その声になんとなく子供じみたものを感じて、シアは少しこの男に年齢の壁を越えた親近感を覚えた。

そんなシアに見られていることを思い出したように、ハンプバックはハッとして咳払いをひとつ。


「……うん。さ、行こうか。今日は色々と紹介したいメンバーがいるからね。そのまま居住エリアのSPO専用区画に先に行くことになる」


「わかりました」


そのまま車を降りて、シア達は荷物を片手に建物の内部と入る。

入口のゲートで手続きを済ませ、各エリアに枝分かれしている広大なロビーを居住区へと抜ける。

専用エレベーターに乗ってハンプバックが手帳のような端末をセンサーにかざすと、エレベーターはどこを押すまでもなく居住区画のSPO専用区画へ移動した。

到着し、シアが案内されたのは少し大きめのマンションのような建物であった。

大きなひとつの建物に、小さな建物がいくつか枝分かれしている。

ハンプバックが、インターフォンを押す。

――ほぼ同時に、中からなにか大きな物が倒れ、転げるような音が聞こえてきた。

思わずハンプバックを見るシアに、ハンプバックは溜息で返した。


「……あー。ひとつ言っておこう。これから会ってもらううちの連中は少し、いや、うん、変わっている奴が多くてね。しかしもちろん悪人はいないから、気さくに接してほしい」


「……はい」


何とも言えない表情のまま、とりあえず了承しておく。

……音がやんだ。

多少の静寂の後、ドアの鍵が開き、シアは促されるがままに中に入った。

と。

四人の視線がこちらに殺到したことに気づいて、思わず動きを止める。


「……あ、えっと……」


突然目の前に四人も並んでいたことに驚いたまま、バッグとスーツケースを持ち、玄関ホールと思われる大理石の床に立ち尽くす。


「お、うわさのシア・ダラインくん。年上感あるけど同い年かな?」


「……たぶん」


「おい絡むな、困ってるだろうが」


「まぁまぁ、いいじゃないか。変にお堅いよりは」


「その超綺麗な服どっから出したんですか」


そんなシアを前に、各々関心を向け、口にする四人。


「何やってたんだお前ら……まあいい。揃ってるな。結構結構」


そこに、ハンプバックが顔を出し、シアを通り過ぎて四人の中央に立った。

そして一言。


「――さて、ようこそ。SPOの本拠地へ」


……これが、少年シア・ダラインと、SPOのメンバーとの初の邂逅であった。


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