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旅立ち

 飛行機であたしは都内にある姉の那名側天(なながわそら)の家に来ていた。


「あんた、雰囲気変わったね」


 姉は玄関で出迎えてくれた。あの事件前と変わりないように見えるのがホッとする。最初に海人を取った人物なのだからそんなに和むべきでもないんだろうけど──


(そら)姉ちゃんは変わらないね」


「そんな事ないよ。あんたに耐性があるって分かってから私まで血液検査よ。それで【e】耐性あるって分かってテンヤワンヤ。四ヶ月前までは何コレ的な目で見てた旦那の親戚がさ眼の色変えて私のとこに来んのよ。本当に迷惑だったわ。結婚失敗したかなとか思ったり」


 居間に通してくれた姉は相変わらず、自分の事を機関銃の如く話しだす。


「そりゃムカつくね」


 そんな姉の姿が妙に懐かしくて嬉しくなった。


「今日はさ、一言言いたくて来たんだ」


 そこまで言ってあたしは言いあぐねた。危険が振りかかるのは自分だけではないと言う事実は認識してるからこそ余計に──


「戦争するんでしょう? それでこそ私の妹じゃない。私たちの事なんか気にせずにどんと行って来い」


 え。と声が漏れた。姉はあたしの考えくらいとっくに見抜いていたのか。


「そんなのあんたの姉なんだからとっくにお見通しよ。戦争しようと憲法改正されようと今回の件みたいに結果的に自衛隊が結果的に政権奪還した今の状況ですらも全面肯定できる私だけど一つだけ腹が立って仕方がない事があってね……何だと思う」


 姉の問いにあたしはちょっと引きながら首を横に振る。さすがに超強硬派姉は引かせてくれた。メイク次第であたしよりも若く見えるからギャップで余計に引く。


「あのガイストってオバサンに好きにされるのは不愉快でしょう。ああいうのを利用するのも政治だけどさ。でもあいつ私より少し若そうだったけどね」


 自分の年齢差し置いて少し若そうなのをオバサンとか姉ながら酷い奴である。


「見た事あるの?」


「最夜の件が起きてる最中に自衛隊の基地に居たのよ。変な奴だなって思ったらお偉いさんがヘコヘコしてたのよ。黒髪の青い目で狐の面を被って巫女装束みたいなのに幽霊みたいに左前で着てさ、あたしは日本の事分かっちゃてますアピール? ちょっとムカつかねぇ?」


 姉はまたしてもまくし立てている。


「姉ちゃん、ガイストってドイツ語で幽霊の事」


 辛うじてそれだけ言えた。


「ふーん。一応、理解はしてたのね、あいつ。それでもムカつくけど……とにかく私も父さんもあんたの事なんてわかってるんだから好きなように暴れてらっしゃい。あの女ぶん殴るなら大歓迎だ。それに私だって最夜にちょっと関わりあるんだから最夜の仇を討ってきなさい。つーか、仇討つまで戻ってきちゃ駄目よ。あ、そういう気概でって意味ね。それと海人くんがさ、あんたにすまないって謝っておいてくれってメールが来てた。自分で謝れって返してやったから」


 姉はあたしの味方なのかよく分からない反応を返した。


「いや、謝らなくてもいいから殴らせるように伝えておいて。あたしのメールにも電話にも出ないんだ」


「別の女に取られたのか」


 あたしの反応に姉は神妙な顔付きになった。


「姉ちゃんと正反対の人妻っぽい感じの奴に、ね」


 そっかと姉はちょっと安心したような表情をする。お前は誰の味方なんだと言いたくなるがあたしの幸せも海人の幸せも願ってるだけだろう。


「あ、あと私の連絡にも応じてないから海人に伝えるのは無理かもしれない。一応、手伝ってくれそうな人に渡りを付けておいたから」


 海人の件を言ってから姉は名刺を取り出した。あたしはそれを受け取るその名刺は今の日本で一番偉い人となってる男だった。


「その人ならノアを探るのを手伝ってくれるでしょう。政治的にイニシアチブを取られっぱなしという訳にも行かないだろうし、それに今回の件で分かった事らしいけどノアも一枚岩ではないみたい」


「分かった。会ってみる。いざって時は撃って逃げるかも。でもよくコネ作れたね」


 姉は苦笑してた。


「最夜の英雄の娘で最夜の帰還者の姉だからね。簡単だったよ」


 全部あたし絡みだったのか。


「じゃあ、行ってくるよ。ちゃんと戻ってくるから死んだりしないでよ」


「ほいほい。善処いたしますよ」


 姉は最夜事件前と変わらぬノリで返事を返す。

 あたしは名刺をポケットに入れて玄関へと歩き出した。


「ペイバックタイムの開始だ」

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