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暗号

 最夜が巡航ミサイルと核攻撃で地上から消滅して二週間経った。

 検査やら何やらで退院を長引かされ、ようやく退院できるようになったあたしは北海道の某所にある自衛隊の病院に来ていた。海人の入院してる病院である。

 早速、海人の病室を尋ねた。個室で名札も掛かっているが肝心の本人が居ない。

 ベッドの周りも片付いている。もしかして殺されたんじゃないだろうな。


「ここに入院していた人はどうしたんですか? もしかして亡くなったとか──

 廊下を歩いていた女性看護師に慌てて声を掛ける。さり気に美人なのが面白くない。


「ちゃんと生きてますよ。それが今朝見たら居なくて私たちも探しているんです。勝手に抜けだしたみたいで」


 慌てて何処かへ去って行った。

 もし、海人が本当に姿を消すつもりなら既にこんな所には居ないだろう。最夜から出る前の態度もおかしかったし、その時点から何かを考えていたと見るべきだ。

 あまり良くないけど海人のスマホのSIMカードは調べておいた。クローン携帯を使えばメール内容くらいは読み取れるかもしれない。──電波法に抵触するけど今の日本に住むあたしには仕方ない行為なので見逃してもらうしかない。今のあたしは恋する乙女じゃなくて失恋した敗残兵だけど。

 あたしは海人の寝ていたであろうベッドに腰掛けて背負っていたリュックからモバイルノートを取り出す。あんまりやりたくはないけど以前ネット上のハッカーに教えてもらったとおりにキーボードを叩いてSIMカードを偽装し、メールの内容を閲覧できるように工作する。

 そしてそのSIMカードを自分の、この間、最夜を出てから貰ったスマホに自分のSIMカードと交換してそれを差し込んで海人の携帯のようにネット回線を繋いでセキュリティーを誤魔化す。


「さて出てこいランプの妖精。……入れた」


 海人がスマホでやり取りしていたと思しきメールを探す。最夜から出る直前の9月25日前後のメールをチェックする。見慣れない携帯番号からのメールが1件あった。


「これかな。えーと」


 [今、山を超えて最夜を無事に出た。でもちょっと厄介な事になってる。これからの連絡はショートメールでその度に番号が変わると思う]と書かれていた。

 鈴音らしきメールはこれだけだ。後は暗号めいたメールが残っているだけだ。

 それ以降のメールを探してみるが本当に暗号文みたいなメールしかない。

 そのうちの1つを開けてみる。昨日の日付になってるメールで[武蔵坊弁慶は源義経を探してる]と書かれた差出人プルート・テイルと書かれている。送信されたメールの中に[了解。静御前は後を追ってモンゴルへ行く]差出人は海人ではなくネプチューン・シザーズと書かれていた。

 頭を捻ってみる。一つの可能性を思い出してモバイルノートで最夜学園高等学校の生徒会名簿を調べる。調べなきゃいけないのは天津鈴音の生年月日。

 ようやく辿り着いた鈴音のプロフィールに記載されていた生年月日。彼女は11月の蠍座。

 研究所ではぐれた天津鈴音は生きていた。このセンスから考えて誰かが彼女になりすました可能性は低い。限りなく0と言っていいだろう。


「プルート・テイルは冥王星と星座の組み合わせか。それに合わせて海人が蟹座でネプチューン・シザーズか」


 離れててもネット上でイチャッてると思うと腹が立つけど当人たちはそれどころじゃないだろうな。

 あたしは自分のスマホから偽造したSIMカードを抜いて自分の携帯のSIMカードを戻す。


「多分、ノア絡みだろうな」


 聞かれてないか見回した後、呟いた。海人のベッド周辺に盗聴器が仕掛けられてる可能性もあるがこのスマホに備え付けられてる盗聴器探索アプリには反応はない。

 このままやられっぱなしで引き下がれる訳がない。世界的結社相手に無謀すぎるけど一太刀くらい浴びせてやらないとあたしの気が済まない。腹は決まっていた。

 あたしはベッドから立ち上がる。既に海人を鈴音に奪われ、親友も戦友も失ったあたしには命以外には父と姉しか居ない。その二人を危険に晒す事になるだろうけど黙っては居られない。

 上着のポケット中に突っ込んでいた拳銃のSIG SAUER P229を握りしめる。失った以上に背負った物がある。月山には文句言っても通じなさそうだけどノアの連中を放っておく気にはならなかった。

 最夜で散っていった和泉や兎川の仇を討とうと言う訳じゃないけど腹が立って仕方がない。


「まずは都内に行かないと駄目か」


 病室を出てスマホで東京行きのチケットが取れるかどうかコネを使って試してみた。自衛隊関係のツテでなんとかなった。


「最後になるかもしれないから顔だけは見せておくか」


 あたしは空港へと向かって歩き出した。

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