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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
最終章 朝はきたけれど
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さようなら、最夜

 ヘリポートに着陸した自衛隊の武装ヘリから出てきたのはあたしの父親である那名側陸だった。最初の電話を聞いて助けに来てくれたのか。

 あたしたちを見つけた自衛隊員たちは早速手当を始めてくれた。噛まれた海人が撃ち殺される展開とか無いのはありがたいけどウィルスと言うか、【e】の話を聞いているのだろうか。感染しましたじゃ笑えない。

 周りを監視してる自衛隊員たちの配置も完了した事もあって父がこっちにやってきた。


「遅くなってすまないな。八幡くんも無事で何よりだ」


 ヘリの音に負けないように父が声を張り上げた。

 あたしもだけどヘリのシートに腰掛ける海人は沈んでいた。約束した鈴音がいつまで経っても追い付かない事が原因だろう。

 山の麓の方を見れば研究所の敷地内部にも自衛隊員の輸送ヘリコプターが二機着陸し、中隊くらいの規模の兵員が研究所の中へと突入していく。


「鈴音を探しに行く」


 ヘッドホンを被ったままで海人がシートから立ち上がろうとする。


「冷静になれ! その体で何が出来るんだ! 我々が探す。ここにいる生存者は何名だ?」


 海人は押し黙っているが今すぐに飛び出したいくらいの様子だ。

 あたしは口を開く。


「生きてるのは同級生の天津鈴音、そしてここのB2Fのワクチン開発部の研究員の月山多佳子の二名。あとB4Fのコンピュータールームに同級生の兎川朝花の遺体があるから回収してくれないかな」


 嫌そうな顔をされるのを承知であたしは兎川の遺体の回収を頼んだ。

 でも父は分かったと一言告げて無線を片手に指示を飛ばしていた。


「15分で生存者が見つからなかったら撤退だ」


「お父さん、【e】について自衛隊は知ってるの? 何も知らないで突入したら感染者が増えるだけだけど」


「……大地、落ち着いて聞いてくれ。一昨日の22日、いやもう25日だから正確には違うが、最夜から脱出した最夜市市長と我が日本国の首相が面会し、首相は完成していた市長に引っかかれてそのまま治療を受けないで彼は国会議事堂に入った為に感染が拡大してしまってな」


「え? まさか東京と言うか、本州が全滅したの?」


 あたしは思わず大声を上げてしまった。海人はただ黙って父の聞いている。


「私の話を最後まで続きを聞いてくれ。東京は無事だ。だが感染した議員たちを外に出す訳には行かなかった為に我々自衛隊は国会議事堂ごと滅菌処理を行った」


 と言う事はクーデター状態なのか。


「与野党問わず国会議員を含めて500人近くが犠牲になった。そして今は元防衛省大臣だった強硬派の大物議員と若手将校がこの日本国を動かしている。そして私たち自衛隊は製薬会社ティル・ナ・ノーグやその裏に居た結社ノアと言われる連中と協力して事の沈静化にあたっているんだ。彼らが我々自衛隊員に【e】に対するワクチンと抗ウィルス剤を提供してくれた。不愉快だろうが今は我慢してくれ」


 あたしは父の言った意味を理解するのに時間が掛かった。この馬鹿騒ぎを起こした連中の親玉と手を組む羽目になったと言う事実に──


「そんな馬鹿な事って……第一、最夜市長を脱出させて首相に会わせた奴が怪しいに決まってる」


「だが今の我々には彼らの力を借りないと自体を収束できない。……我々自衛隊に早い段階で協力してくれたノアの幹部の女性はガイストと名乗った」


 その一言に海人が反応した。


「ガイストと言うとドイツ語で幽霊か。着物なら左前だな」


 ボソッと独り言のように言った。


「彼女は狐の面を被ってまるで巫女装束のような風体だったそうだが海人くんはどうして分かったんだ?」


「ただの想像です」


 海人はサラリと流したがあたしには分かった。明らかに嘘を吐いていた。


「他に助かった方は居るんですか?」


 それを誤魔化すように言葉を続けた。


「市内の方で何人か拾ったそうだ。だがそれだけだ」


 父が返した答えは絶望的だった。こけしちゃんたちがちゃんと逃げ延びていてくれたら良いけど──

『こちら、アルファチーム。サーバールームで兎川朝花の遺体を発見できず。繰り返す。こちら、アルファチーム。サーバールームで兎川朝花の遺体を発見できず。移動したと思しき血液に因る痕跡があるが床が抜け落ちている為に発見できず。指示を請う。どうぞ』


 一瞬、希望を感じて無線から聞こえた言葉に肩を落とす。でも鈴音が言っていた事を思い出した。きっちりと死亡を確認した訳じゃないのなら生きてると信じるべきだと──

 指揮官らしき人物が何かを言っているがあたしはよく聞いてなかった。


『こちら、ブラボーチーム。ワクチン開発部で目標を発見できず。繰り返す。こちら、ブラボーチーム。ワクチン開発部で目標を発見できず』


 月山多佳子も居ないのか。逃げたのか? ああいうタイプは殺しても死なないだろうしな。なんか裏のルートを持ってそうだったしな。そう思ってポケットの中のデッドリーポイズンが入った拳銃を握りしめた。


『こちら、チャーリーチーム。研究所内を捜索したが天津鈴音を発見できず。繰り返す。こちら、チャーリーチーム。研究所内を捜索したが天津鈴音を発見できず。指示を乞う』


『研究所設備の耐久性が安全基準を下回りました。研究員は速やかに退避して下さい。繰り返します。研究所設備の耐久性が安全基準を下回りました。研究員は速やかに退避して下さい。当研究所は機密保持の為に自壊シークエンスへと移行します。繰り返します。当研究所は機密保持の為に自壊シークエンスへと移行します』


 唐突に音声が響いた。やっぱり自爆装置とかあるのか。


「脱出するぞ。全員を回収してあげろ」


 海人が抗議の声をあげようとして懐に手を突っ込んだ。そして取り出したスマホを見て顔色が変わる。


「ガイストが提供した戦術核で最夜を滅菌する事になってるんだ。急ぐぞ」

 父があたしをヘリに乗るように急かす。


「ええー」


 思わず声を上げていたがあたしは父によって海人の座っていた後部シートへ押し込まれた。そしてあたしたちの乗ったヘリは空高く舞い上がった。眼下には炎に焼かれて悲鳴のように煙をあげる最夜の町並みが見えた。

 それがあたしが見た最夜の最後の姿だった。

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