頂点に立った存在(モノ)
あたしと海人はヘリポート専用行きのエレベーターを見つけてアデリーナ・イリイーニシュナ・トルスタヤのIDカードを使って山の頭頂部を切り開いて作ったヘリポートへと辿り着いた。
最夜市を焼き尽くす炎と木の電柱を連想させるお粗末な夜間照明が暗闇を照らす中、ヘリポートの端の植物を押し退けてそいつは王者ライオンのように悠然と四足歩行で姿を表した。
まるで自分こそがこの世の生物の頂点に立つと言わんがばかりに──
頭部は龍。胴体は亀の甲羅のような硬質の皮膚、そこから生えた象のような巨大な脚。最夜市動物園にいた生物でも食べたのか、あたしたちが予想していた姿とはまるで違っている。
そしてその瞳孔は蛇のように縦長だったがあたしには知性が宿っているように見えた。
「ココがタビの、オワリだ。ナナガワにハチマン」
そいつはエクセキューショナーのように喋ってみせた。それを見てあたしは悟る。レウケ、エクセキューショナーと来てこれがその次の進化だと言う事実に。そしてこの声が鮫谷信二だと言うことに──
こけしちゃんが倒した時に処理を怠ったのか。ちゃんと燃やしておいてくれよ。
「最後には獣の姿に辿り着いたのか。まるでウロボロスね。自分の尾を食ってる間抜けなところも。わざわざ殺されに来てくれたんだから約束通りあたしの手で引導を渡してあげる」
あたしと海人は正面と側面に別れ挟み撃ちにする形でウロボロスと対峙する。
「アマツは居ないようだがヤツをオビキヨセルためのエサになってもらう」
やっぱり鈴音を追ってきたエクセキューショナーが鮫谷だったのか。倉庫の爆発では倒しきれなかったか、それとも下手に倒したのが仇になったか。
「お友達はどうしたの。逃げられた? それとも倒されたの?」
あたしは言葉が通じるのを逆手に取って挑発してみる。
「クッタゾ。オレをウミダスタメのカテだ」
ウロボロスは嘲るだけで挑発に乗って来なかった。どこかで高濃度のウィルスを摂取してこうなったのだろうか。
「ハジメルカ? ひ弱なニンゲンよ。だがスグにコロさない。ワガがエサとなる事をたっぷりカミシメ、ヤツの前でクワレルが──」
ウロボロスが喋り終わる前に海人が発砲した。でも見たとおりの硬質な肌の前に散弾は皮膚を貫けずに終わる。
あたしはAKでウロボロスの目を狙う。それも瞼に防がれてコンクリートの上へと落ちた。
「ニンゲンのカラダは不便だな」
憐れむような言葉を吐き捨てウロボロスは襲い掛かってくる。思ったよりは遅いが銃撃を食らっているのにも関わらず、全く効いてない上に動きさえ鈍っていない。
「お前だって人間だったくせに偉そうに!」
ドーベルマンに豆鉄砲で威嚇してるみたいだ。
当然だけどエクセキューショナー以上に手強いし硬い。あたしに迫るウロボロスが前脚の爪を振り下ろしてくる。避けらない一撃ではない。恐らく遊んでるのだろう。
ネズミをいたぶる猫のつもりか。
「獣の分際で!」
AKで牽制しながらあたしはショルダーバックから火炎瓶を取り出し、投げつける。ウロボロスは避けようとすらせずに嘲笑うように呻いている。
火炎瓶を卵でもぶつけられたかの方に平然としている。そこに海人が放った散弾が命中し、その巨躯が炎に包まれる。巫女ですら仰け反って苦しんだコンボを悠然と構えている。
「ドウシタ? それでオワリカ?」
完全に遊ばれてる。あたしたちは所詮【e】耐性があるだけで一介の高校生にすぎないのか。こんな奴に殺される為にここまできたのか。
そんな訳ない。あってたまるか!
何か考えろ。死なない化物なんて居るものか。化物なんて人間に殺される為に存在するんだ。あたしは発砲しながら必死で考えるがヘリポートに使えそうな物なんて置いてない。
最後の火炎瓶をウロボロスに投げ付けた。今度はそれを叩き落とそうと前脚で振り払うがその前に海人のショットガンから放たれた散弾が命中して火の着いた燃料を顔から被る。
初めて効果的なダメージを与えたのか、ウロボロスは顔を振り、転がって火を消そうとする。
今のうちに弾切れしたAKの弾倉を交換しながら、デッドリーポイズンの事を思い出す。だがこいつの皮膚ではデッドリーポイズンを注入する以前の問題だ。
万策尽きてるのか。象仕様の麻酔用ライフルでもあれば──そっか。ヘリポートなんだから給油施設や消火用の機材がある筈。それを利用すれば勝ち目があるかもしれない。
あった。視界の端に消火栓と給油施設。
ウロボロスは顔に、いや目に燃料が入った影響でまだ苦しんでいる。
「海人! 少しだけ時間を稼いで!」
あたしは給油施設に向かって走る。ウロボロスより早く着く事を祈るしかない。
給油施設に辿り着いたがこれを攻撃に使うにはまだ時間が掛かる。給油ホースを取り出して準備する。
「フン。ツマラヌコトヲ」
火を消して立ち上がったウロボロス。時間稼ぎの為にあたしとウロボロスの間に割って入る海人。
「オマエからサキのホウがイイノカ?」
海人は何も答えず、ショットガンを発砲する。
だがウロボロスは多少痛い程度でしかないのか悠然と海人との距離を詰める。そして今まで見せなかった素早い動きで海人の左腕に噛み付いた。噛まれた部分から赤い血が流れ、地面に引きずられるように海人が倒れる。
「海人!」
あたしは叫んだが海人は反応しない。出来ないのか。
「タイセイがあろうとオマエもこれでオシマイダ」
ウロボロスは勝ち誇るように嘲笑った。




