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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第十五章 夜明け前がもっとも暗い
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光は闇に沈んで

 あたしと兎川はルートを確認してエレベーターを動かしてB4Fへと降りてきた。周囲にレウケの姿はない。こういう場合、ゲームとかだったら強力な敵が居たりするのだがさすがにそういうのは無かったか。

 先程から建物全体が地震の揺れてきてる。限界が来てるのだろうか。


「どうしてここへ?」


「より多くの証拠とティル・ナ・ノーグや結社とか言うのと戦うなら情報が欲しい」


 思い詰めた表情をしていたがよりに寄ってそんな決意をしてるとは思わなかった。


「無茶すぎない?」


「でも死んでいったパパとママの仇を討ちたい。今思いつくのはこれくらいしかない」


 あたしが何を言っても兎川の決意は変わらなそうだ。

 あたしと兎川は周囲の安全を確認しながらコンピュータルームへ続く廊下を出来るだけ音を立てないようにして移動する。幸いコンピュータルームに至るまでレウケなどの化物に遭遇せずに済んだ。

 それを幸いとあたしと兎川はコンピュータルームに入り込む。データを管理してるサーバーらしき機械が部屋を埋め尽くすように整列しており視界が悪い。

 機材の影にレウケが居たら危険だと思った。なのにはやる気持ちを抑えきれないのか、兎川は言われたとおり17番と書かれたサーバーを探している。


「兎川、無警戒過ぎない?」


 あたしは部屋の構造をチェックしながら先に敵が居ないかを調べる。こういう時こそ尚の事、警戒しないと。


「そうかもしれない」


 返事は返ってくるが兎川の姿は先を進んでいく。証拠を掴んでティル・ナ・ノーグを告発すれば両親の仇を討てると考えてるのだろうか。あたしにはそんなに事が単純だとは思えない。仮にティル・ナ・ノーグを潰したとしても結社が存在する限り別の企業が引き継ぐだけじゃないのかと思ってしまう。それに仮に結社を潰しても別の組織が【e】を研究し始めたら元の木阿弥にしかならない気がする。なら組織を潰して回るよりも【e】を使えない兵器にするしかないと個人的に思う。


「兎川、無茶しない方が──」


 あたしは反射的に足を止めてショットガンを構える。床にヒビを入れるようかのような振動が足元から伝わってくる。そして微かに聞こえた蹄の音! ケンタウロスか。クソ。海人も鈴音も居ないのに──それに二人でやるにも兎川の姿が見えない。

 このタイミングではぐれてしまった。

 あたしは近くにあった消火器を調べる。古いけど液体窒素入り消火器。これで冷やして殺せるか。他に敵が居なけりゃいいけど。

 サーバーの壁に隠れながら辺りを伺う。何としても先に見つけなければ、駄目ならあたしが発砲して囮になるしかない。

 コソコソと隠れながら機材を壁にしつつ、周囲を伺う。ショットガンと消火器を持っての移動では鏡も使えない。鈴音の索敵能力に頼りきってたツケが回ってきた。その上、ケンタウロスとは病院の遭遇戦で戦っただけなのが痛い。あそこで戦った経験から恐らく走って逃げきれないだろう。戦うしかない。


「兎川」


 小さな声で呼んでみるが反応がない。


「兎川」


 ちょっとだけ大きな声で再び呼んでみるが反応はない。

 こうなったら発砲して奴の注意をあたしに引き付けるしかない。


「那名側、見つけたぞ」


 兎川は気付いてないのか、大きな声で叫んだ。最悪。先に発砲すべきだった。


「ケンタウロスだ!」


 今更、発砲しても遅い。あたしがケンタウロスよりも先に兎川を見つけるしかない。サーバー機器の林をこまめに移動しながら彼女の姿を探す。


「どこだよ! 兎川!」


「こっちだ! 気配なんかしないぞ」


 音が反響するせいか、焦っているせいか、兎川の位置が把握できない。この部屋はそんなに広くない筈なのに。

 通りすぎようとした瞬間、別の入口付近のサーバー機器付近で屈んで蓋を解放している兎川が見えた。見つけた喜びが上回って警戒心が薄れてる。近くまで寄って助けないと──

 兎川は立ち上がって月山が仕掛けたらしいUSBメモリを手にしていた。

 あたしは兎川に駆け寄ろうと走った。彼女がサーバー機器の蓋を閉めた瞬間、そいつはそこに居た。ケンタウロスが。

 恐らく足音を消しながら忍び寄っていたのだろう。


「離れろ!」


 あたしが叫ぶと同時にケンタウロスが前脚を兎川に向けて振り下ろす。彼女はそれを持ち前の運動神経で反応しバックステップで回避する。そして咄嗟に取り出した拳銃で応戦する。ドラグノフ狙撃銃では対応できないと思ったのだろう。

 だがケンタウロスはその攻撃に因るダメージを諸共せずに兎川に駆け寄り、手前で反転。後ろ脚で蹴りあげる。多分狙いは腹部。食らったら致命傷だろう。

 バックステップ直後でまだ空中に滞空してた兎川にそれを避ける手段はない。でも彼女はその蹴りを無理やり左膝を曲げて腹部への蹴りを受ける。

 兎川の悲鳴と共に鈍く嫌な音がコンピュータルーム内に響く。多分、足の骨が砕けた音に他ならない。

 こっちに飛んでくる兎川の体を受け止める事を諦めて反射的にサーバー機器を盾に隠れる。彼女はサーバー機器にピンボールのように何度跳ねて壁にぶつかって止まった。死んでは居ないけど意識を失ってるように見えた。ドラグノフ狙撃銃と拳銃は落としたのか何処かへ転がっていった。

 それに怒って機器から飛び出す。

 あたしは声にならない声を上げ、左手の全体の筋肉が悲鳴を上げるのも無視してあらん限りの力を込めて液体窒素入りの消火器をケンタウロスに投げ付けた。

 兎川を負傷させて油断していたケンタウロスが驚愕の表情を浮かべたような気がする。

 放たれた消火器は信じられない勢いでケンタウロスに迫る。あたしは左腕を台にしてショットガンを構える。奴の近くに消火器が来た瞬間に発砲。散弾は消火器に命中して中身をケンタウロスに撒き散らす。

 白い煙を上げて液体窒素はケンタウロスを凍結させる。勿論、その隙を逃す気はない。あたしは奴に歩きながら近付いて発砲。凍結した頭部や胸部に向けて狙いを定める。狙った部分に散弾が命中して肉と血を撒き散らす。それを弾切れまで繰り返した。

 あたしが我に返った時にはケンタウロスは絶命してモノ言わぬ屍と化していた。

 兎川に駆け寄ろうとした時に火災感知器が作動してる事に気がつく。発砲した散弾が当たって誤作動したのか。防火シャッターが作動してコンピュータルームを閉鎖しようとしている。

 急いでここから出ないと消火システムで窒息するかも。さっき無茶したせいで左手が言う事を聞かない上に激しい痛みが走る。さっきの無茶のせいで校庭にてエクセキューショナーと交戦した時の傷がぶり返したのか。

 あたしがこの部屋から出るだけの事は簡単だ。近くにある出入り口から出ればいいだけなのだから──

 でも兎川を運ぶとなると防火シャッターが閉まるまでには無理だ。


「来るなぁ! 自分を置いて逃げろぉ!」


 意識を取り戻した兎川が叫んだ。彼女の左膝下から白い物が見えた気がする。それは骨かもしれない。開放骨折してるのなら手術しないと助からない。でも医者も居ない。設備もないここでは致命傷だ。確か開放骨折を放置したら致死率100%だった筈。


「いいから行けぇぇっぇぇっぇ!」


 痛みを堪え表情に苦痛を浮かべながらも兎川が叫ぶ。

 あたしは彼女の意思を汲みとってコンピュータルームを出た。

 そこから声は聞こえなかったけど兎川の唇は読めた。那名側のせいじゃないと、そしてあたしに心配を掛けまいとする最後の努力なのか彼女は歳相応の少女として微笑んでいた。

 それを阻むように防火シャッターが無情にも閉まった。


「兎川ぁ!」


 あたしはコンピュータルームの前で崩れ落ちた。止めたら良かった。ここに来るのを止めていたら──後悔は涙となって溢れだした。大事な、大事な戦友をここに来て失ってしまった。

 でもあたしは涙で歪む視線の中、左腕で無理やり涙を拭いて元来た方へと歩き出した。ここで立ち止まっていたら兎川に合わせる顔がない。きっと馬鹿野郎って怒鳴られるだろうから──

 それにもしかしたら防火シャッターを開けられるかもしれない。

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