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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第十五章 夜明け前がもっとも暗い
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そして発端と終焉の地へ

 日が沈みかけた頃、あたしたち四人は研究所の門まで辿り着いた。研究所は詰め所と庭の向こうに山に、建物に山を増設したような感じだった。本当は逆なんだろうけど。

 長かった。学園の仲間も敵対した者たちも既に亡く、ここまでの出来事が遥か昔のような感覚に陥る。


『ようこそ、でも研究所内部は危険だからわたしのところまで油断しないでね』


 スピーカーから声が聞こえると同時に門が開いた。


「今更、賽の目を動かす訳にはいかないんだから行こう」


 海人は覚悟を決めたように敷地内に入っていった。それに続くようにあたしたちは研究所内の敷地に入る。同時に門がすぐに閉じた。


『とりあえず、ワクチン開発部へ来てもらえるかな。B2Fだから』


 月山はそう一方的に言って切ってしまった。


「人の心情を推し量る事が出来ないんだな」


 海人はそう分析してため息を吐いた。



 あたしたちは月山の指示に従い、化物たちには遭遇せずにB2Fのワクチン開発部へと辿り着いた。電子ロックを解除した扉の向こうに以前送られてきた画像と同じく白衣を来た三十路くらいでヨレヨレの白衣を着た女性が車椅子に座って居た。

 そして赤いメッシュの女性が倒れており、既に事切れていた。そしてその近くには拳銃のベレッタ92Fと赤い液体が残っている注射器が落ちている。

 それに全員の表情が強張った。死体なんかあったら当然の反応ではある。鈴音はその遺体に近寄って目を閉じてやっていた。


「あ、死体片付けられなくて御免なさいね。こっちも色々あってね……」


「どういう事か説明して欲しい」


 ベレッタを拾った兎川がそれを月山に向ける。


「そこの天津の婆の娘は分かってると思うけどそいつの名前は物部。簡単に言うと物部がスパイでね、あたしを殺して研究成果を奪おうとしたんだけどその研究成果を運ぶ為に自分に注射したのよ。そしたら中身に適応出来なくて死んじゃったのよ。それだけの話」


 月山はカレーを作るのを失敗したみたいな感じで話す。そこに罪悪感などは見られない。


「中身は? なんだったの?」


「それはわたしよりも貴女の方が本質的に分かるんじゃないのかな」


 兎川の質問に月山は鈴音を見た。特に下品な視線でも何でもないが彼女は反射的に海人の影に身を隠す。その様子が酷く妙だった。


「貴女は猛毒なのね。普通の人間でもレウケでもエクセキューショナーでもない貴女は一体なんなの? 凄く気持ち悪い。この部屋に一緒に居るだけで嫌な気分にさせられる」


「おお、酷いな。わたしはそこまで言われるような物になったのか」


 殆ど罵倒にしか聞こえない言葉を神の祝福のような感じで受け取る月山はあたしから見ても確かに気持ち悪い。その在り方は研究者としての知的好奇心を満たす為だけに生きてるんだろうと推測できる。


「なるほど。【e】と適応した人間にもそういう風に感じるのね。ありがたい発見だわ。だからわたしはレウケ共に襲われなかったのか。やっぱり科学は実践あるのみか」


 月山は一人で納得している。


「自分には分からない。ちゃんと説明しなさい」


 兎川は会話の意味が分からなくてイライラしてる。


「彼女が言ったでしょう。わたしは猛毒だと。わたしの血液は【e】の効果を使って脚を治そうと試みた。その過程で【e】と抗ウィルス剤を投与した。でも結果は失敗に終わり。対【e】生物に対して強烈な猛毒を、デッドリーポイズンを精製するようになった」


 月山は右手の袖をまくって肘窩を見せた。そこだけ異常に変色し、人間とは思えない醜い肌をしている。皮下で何かが蠢いたりしたらそれこそ化物と見間違うだろう。


「それが今回の原因なのか!」


「違うに決まってるじゃない。わたしがこの体になったのは夏の間だもの」


 兎川は怒りで拳銃を持つ手が震えるが月山は気にしたような様子がない。良くも悪くも研修者然としている。


「今月の18日に起きた出来事は単純よ。ここである研究員がウィルスとワクチンを奪った。彼は名前をニコライ・アレクセーエヴィチ・トルストイと名乗っていたけど本名かどうかは分からない。彼が起こした逃走への時間稼ぎが思惑とは違う方向に行ってしまってね。本来ならこの研究所が全滅するだけで済んだのでしょうけど【e】を散布する時間がズレたせいで最夜市全体へ拡がってしまった。そしてアイスホッケー会場から病院や動物園に広まって今に至るだけの話よ。納得した?」


 本当に他人事のように月山が語る。間近でアウトブレイクが起きたにも関わらず、まるで伝聞を語り継ぐかのようだ。


「そいつは今どこに居る? それとどうして時間がズレたの?」


「ニコライなら最夜から脱出してるんじゃないかしら。時間がズレた原因はわたしがやった実験で研究所全体の電力が落ちた。それを再起動するのに時間が掛かって設定がズレたと推察されるわ。それでみんなが土日で家に帰る前に仕掛けが発動して研究員のほぼ全員が感染してしまった」


 その返答に兎川が震えていた。その震えが伝わって人差し指が反射的に拳銃の引き金を引こうとする。だが弾は発射されなかった。撃鉄の間に親指を差し込んでそれを止めたのは鈴音だ。海人が隣から拳銃を取り上げて安全装置をかけて発砲出来ないようにして返す為に差し出す。

 受け取った兎川はブレザーのポケットに拳銃を押し込んだ。


「殺すのはこの人の話を全部聞いてからでも遅くない。それにデッドリーポイズンが本当なら少なくとも化物たちに対抗するのに非常に有効な武器になるからここで殺すのは止めた方がいい。殺してしまったら私たちは対抗手段を失う」


 その言葉はかなり不愉快そうに聞こえた。

 対称的に月山は微笑んでいた。

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