襲撃
あたしは立ち直ったとは言いがたいけど落ち着いたと判断されたみたいで休憩室での休憩を終えた。浄水施設を通り抜けてティル・ナ・ノーグが借りている倉庫への通路に入り込んだ。今はT字路を進んでる。
勇儀は顔色が悪い。疲れているのか、感染したのか──海人が肩を貸す事で歩いているような状態だ。しかも何故か左側からじゃないと肩を借りようとしないのが気になる。
あたしと海人は拳銃とショットガンを交換した。風紀委員たちにショットガンを返さなければ弾切れAKを打撃武器の代わりに持ち歩く必要はなかったんだけど今更嘆いても仕方ない。
唐突に鈴音がイヤーマフを外した。既に見慣れてた光景になった。敵がいると言う事だ。
「居る。エクセキューショナーが」
鈴音のその一言に全員が露骨に嫌な反応を返す。最近戦ってないがあいつを相手にするのは校庭のトラウマがあるから嫌なんだろう。
「ニ体。右の通路の奥の扉に居てこっちに向かってきてる。あと正面の扉の向こうにレウケがいっぱい」
更に嫌な事実を告げる。つまり、エクセキューショナーと戦わざるおえないと言う事だ。
「そんなに自分たちを逃したくないのか。と言うか、天津を、か」
兎川が獲物のドラグノフ狙撃銃を握りしめながら苦笑する。
「取り敢えず、何かで正面の扉を塞ぐわ。右から近付いてきてるエクセキューショナーを不意打ちでお願い」
鈴音がイヤーマフを付け直しながら辺りを見渡す。その視線の先に金属製の棒があった。彼女はそれを拾って出来るだけ音の出ないように走って行って正面の扉の取っ手に閂のように金属製の棒を突っ込んだ。
それがいつまで持つかは分からないけど少なくともエクセキューショナーと戦ってる最中にいきなり乱入されるのだけは防ぎたい。
あたしと兎川でT字路の分かれ道の手前と奥に隠れてエクセキューショナーを待ち伏せする。兎川は中腰でドラグノフ狙撃銃の銃身とスコープを出して扉に向ける。今の装備では同時にニ体は殺せないだろうからせめて一体に減らしておきたい。
「あと3m。もう15秒以内にあの扉を開けると思う」
戻ってきた鈴音が兎川の後ろで言った。その手には久しぶりにコンパウンドボウが握られている。
あたしはハンドシグナルで自分が右を狙うと合図を出す。多分、やらなくても分かってると思うけど。海人は勇儀に肩を貸してあたしの後ろで待機してる。
右手でショットガンを持ち、左手で鏡を出して奥の扉を伺う。
バタンと言う音と共にエクセキューショナーが二体姿を現す。同時に銃声が響く。奥側のエクセキューショナーの鼻に穴が開いて断末魔を上げる。残っていたエクセキューショナーが怒りの咆哮を上げ、こっちに向かってきた。
あたしは壁から身を乗り出してショットガンを発砲。敵の足止めを試みた。だがエクセキューショナーは両手で顔と心臓を庇うようにして突進してくる。
更にもう一回発砲するがそれでもエクセキューショナーの勢いは止まらない。対弾性能を獲得してるのか。
「那名側、焦るな。こっちに任せて」
兎川に言われてあたしは気が付く。知らないうちに前進して射角を塞いでいた。これでは兎川と鈴音が撃てない。慌てて後ろに下がって二人が攻撃できるようにする。
その瞬間に金属の矢がエクセキューショナーの右膝に突き刺さる。悲鳴と共に奴の両手が下がった。そこを見逃すことなく兎川が正確な狙撃で喉を撃ち抜く。
エクセキューショナーは耐えられず、床に転がるがその勢いは殺せず、床を滑るようにしてそのままあたしの方に突っ込んでくる。
あたしは想定してなくて固まってしまう。
「大地!」
海人に襟首を引っ張られて壁の後ろに隠れる。全くいいとこ無しである。
勢いのままに床を滑ってきたエクセキューショナーは壁にぶつかってめり込む。まだ生きていた。
あたしはショットガンをエクセキューショナーの顔に向けて発砲。その頭部を算段で穴だらけにして息の根を止める。
「那名側さんはまだ動けるような状態じゃ……」
瞼が閉じそうな勇儀がそう発言する。反射的に睨んでしまったがそれすらも彼女は気に留めてる余裕が無いように見えた。
「先生の言う事はもっともかも知れないけど今は先を急ごう。あっちの扉からレウケが来ても困る」
兎川が自身の背中側にある扉を気にする。銃声に反応したのか、ガンガンと扉を叩く音がする。あんまり長くは持たないだろう。
「御免」
あたしはショットガンの安全装置を掛けて引き金から指を外す。暴発は二度と御免だ。
「歩けますか?」
鈴音はあたしよりも海人が肩を貸している勇儀に声を掛けた。面白く無いという空気は漂ってるように思える。
「何とか大丈夫です。最悪の場合は置いて行って下さい」
勇儀は意外な事を口にした。
「大丈夫ですよ、勇儀先生。言われなくても置いて行きますから」
鈴音は冷たく言いながら次の言葉を放った。
「巫女と戦った時に水弾かそれに汚染されたものに触りましたか?」
鈴音と勇儀以外の全員の表情が強張ったのが分かった。勿論、あたしも──




