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寮探索

 男子寮と女子寮は学園から徒歩で7分もしない位置に建っていた。実際に校舎の3階から見えるくらいである。でも辺りを警戒しながら進むとかなり遠くにあるように思う。

 こんな事は初めてだ。

 途中でレウケってる連中に遭遇したが鈴音と和泉の二人の弓術で苦もなく彼らを葬り去り、あたしたちは彼女たちに接近されないように務めるだけで楽に女子寮の前まで移動できた。

 コンドミニアムを改修して作った寮は学生寮にしてはかなり広くて豪華な作りではある。各部屋の家電は殆ど撤去されて冷蔵庫しかなくて一部屋に最大3人で住む相部屋だけど──ちなみに男子寮は隣の敷地だ。

 しかし、生きてる人間はまだ見てない。この状況下で暴徒と化している可能性もあるので遭遇することが幸運なのかは今のあたしには判断しかねる。

 レウケを知らない人間から見たらあたしたちはヤバい連中だし、知らない人間が説明を求めた場合、一々説明してられない。

 逆に状況を知ってる連中なら武器を奪おうとするかもしれない。どう考えても今は損しかしない気がする。


「家はいいの?」


「生徒会長の家は向こうで通り道だから気にするな」


 疑問には海人が答えた。ちょっとだけ裏門で揉めてた理由が見えてきたかも。


「俺たちは男子寮の方に行くが君はどうする?」


 東が海人を見た。それにつられるように鈴音も海人を見る。勝手に其処で三角関係やらないで欲しい。


「別に取ったりしない。男子は手慣れてないのしか居なくて心もとないから戦力を貸して欲しいだけだ」


「俺も自分の部屋に戻る必要があるからそれは構わない」


 不承不承で鈴音が頷いた。なんで海人を借りるのに彼女の許可がいるのだ。不愉快だぞ。


「海人に何かあったらあたしが許さないから」


「そっちの趣味はない」


 東は笑いを誘ってその一言をかわす。

 海人は東と共に隣の男子寮に向かっていった。


「那名側さん、ドアを開けるのお願いします」


 不機嫌そうな鈴音が告げる。コンパウンドボウを使っているから校庭で使ってる金属バットは置いてきてるから仕方ないけど、何だか酷く不公平な感じがする。

 断るとさっきの件も含めて怒られそうだから何も言い返さないけど。

 カードキーを取り出してリーダー部分にかざして電子ロックを解除して門とドアを開ける。どうやらまだ電気は来ているようだ。

 ずっと電力が着てればいいんですけど。弓を左手に持って右手にマイナスドライバーを持つ和泉が不安そうに言った。

 そういえば、寮は電気が来てないと閉じ込められる可能性があるのか。立て篭もれないな。何でも電気に頼るもんじゃない。

 あたしは左右を確認しながら門を開けてドアに近付く。人の気配はない。後ろを見てみんなの準備が整ってるの確かめてドアを開け放つ。

 誰もいない。


「下の階からテキパキと行きましょう」


 和泉の言葉に全員依存はなかった。



 何度かやり取りを繰り返してあたしの部屋に着いた。安全を確認してから非常時用備えてあったリュックの中を確認してから生理用品の予備と布テープを放り込むように入れ込んですぐに部屋から出る。


「早いですね。着替えなくていいんですか?」


 呆れる鈴音を尻目に和泉が落ち着かない様子で問う。さっきからずっと辺りを見渡してる。怖いのは分かるけど。


「この中に一通り入ってるから」


「なるほど、ただの変な人じゃないんですね」


 余計な一言が飛んできた。


「和泉、余計なことは言わなくていいから行くよ」


 他の連中が出てきたのを確認してから鈴音は元きた廊下と階段を戻り始める。

 あたしたちの足跡だけが響く。普段ならもう少し生活音がするはずなのに──

 全員押し黙ったままだ。空気が重い。

 ゆっくりと2階にたどり着く。

 その時、空き缶が転がるような音がした。多分下からだ。


「生徒会長、下がって」


 あたしは階段に居る鈴音の横をすり抜けて金属バットを正眼の構えに構える。人間だった場合、頭をかち割ったら洒落にならないからまずは突きで様子を見るしかない。


「寮長さんですか」


 和泉がわざと呼びかける。

 反応はない。


「寮長さんですか」


 反応はない。勿論、火事場泥棒の可能性はあるが。

 代わりに聞こえてきたのは微妙な足音。普通の人間が歩く音じゃない。

 階段の上り口に現れたの子猫だった。管理人が飼っていた愛猫かな。それを見て、ほぼ全員が安堵の声を漏らす。猫がバケモノじゃないという保証はないのに。

 モンスター映画なら小さな動物が変化したりすることはよくあることなのだから。

 だが、あたしの懸念を笑うように管理人の愛猫は見えない位置へ去っていった。

 あたしは安堵する気にはなれず、ゆっくりと階段を降りる。

 考えたくないけど何か居る。多分、レウケってる人間が。

 左手を上げて後続を止めて一歩一歩階段を降りて死角になって部分に近付く。

 問題はどっちにから確認するか。ルームの真ん中に階段があるのを恨むことになるとは思わなかった。

 子猫が去った方向と逆から──

 覗こうとした途端、先端を出していた金属バットを掴まれた。

 寮の管理人のオバサンさんだった。そこまではいい。問題は眼球は虚ろに曇り、口はガチャガチャと鳴らしてレウケってあたしを餌だと認識してることだ。

 クソ! あたしの方が遥かに体格が良いのに振りほどけない。蹴りを入れてみるが不完全な体勢からでは効果がないし、金属バットを手放すのは論外だ。予備の武器は無いのだ。

 1階フロアにも武器になりそうなものはない。 

 こうも密着してたら周りの援護は期待できないだろうし、あたしの死亡フラグか。恨むぞ、兎川。人の死亡フラグ勝手に立てて!

 足元を狙って蹴りを入れるが転倒する気配はない。

 一か八かで金属バットを手放すか。

 迷ってたらレウケ管理人に武器を奪われてしまった。慌てて後ろに下がる。だが後ろからも呻き声が聞こえた。パジャマ姿の女子が居る。勿論、レウケってた。

 挟み打ちである。その上、金属バットは玄関の方へ転がっていってしまった。

 迷ってる暇はなかった。管理人を迂回してバットを回収して反撃するしか生きる手段はない。

 走って管理人の脇をくぐり抜けようとしたらある理由とフローリングのせいで滑った。もう一つはバットの転がった方に私服姿のレウケってた不良女子がもう一人居た。

 あ、これは死ぬ。管理人の両腕が伸びてくる。その手は爪が剥がれ、血が滴って酷く汚れていた。掴まれただけでもこれはアウトっぽい。

 走馬灯なんか流れやしない。

 なんとか両手両足を使って離れようとするが焦って上手くいかない。まるで蜘蛛の巣に引っかかった虫みたいに動かない。

 せめて──

 そう思った瞬間、木で出来た矢が管理人の頭部を貫き、その体は床に転がった。


「大丈夫ですか」


 和泉が階段の半ばより下に立っていた。那須与一みたいだ。


「左右にもう一体づついる!」


 あたしはそれには答えず、警告を発する。パジャマの子と私服の子がこっちに向かってくる。

 私服の方が倒れた。頭部に金属製の屋が刺さっていた。

 そのレウケが死んでるのを確認して金属バットを回収する。

 奥の同時に和泉がパジャマの子を射抜いた。ちゃんと顔の真ん中を矢で貫いていた。


「出るわよ」


 異論なんかない。玄関までにある個室のドアから出来るだけ体を離しながらドアに到着。警戒する余裕もなく開け放つ。

 ドアの外に居たらアウトだったろうが誰も居なかった。


「急いで急いで急いで」


 全員転がるように飛び出したのを確認してからあたしはドアを思い切り締めた。同時にカチッと鍵の閉まる音がする。寮で最後に見た光景は声に反応したのか複数のレウケってた女子生徒たちだった。

 神様! 仏様! 全自動ロック様バンザイ!

 そして門を開けて近くに敵が居ないのを確認して全員を手招きする。


「こんな寮は二度とごめんだ。誰が何と言おうと絶対に帰らない」


 全員が外を出たのを確かめて門を締めて鍵を掛けた。


「同感ですね」


「言えてる」


 和泉と着いてきた女子の誰かぼやいた。

 あたしも含めて道路に座り込んでる。ただ一人を除いて。


「ちょっとこれを持ってて」


 鈴音がコンパウンドボウを下級生の一人に渡し、スプレー缶をよく振ってから門に何やら書いている。大きな☓の字だ。

 危険って事ね。


「なんであんなにいっぱい寮にいるの?」


「那名側先輩、インフルエンザの流行ですよ」


 そんな通知あったけ? 馬鹿は風邪ひかない事を言われそうだが思い出せない。

 なんか音がしたので男子寮の方を見ると何人かが怪我をしたのか血を流していた。肩を貸してるのは東。

 全員出たのか海人が慌てて門を締める。

 あたしが彼らに駆け寄るのと同時に後を追ってきた鈴音が男子寮の中の方に向けてコンパウンドボウを構えた。


「何があったの?」


「分かってるだろう? 奴らさ、そのせいで何人か怪我をしてしまった」


 東の答えを聞きつつ、海人を見る。彼は視線に気づくと首を横に振る。大丈夫だったようだ。


「彼が居なきゃヤバかったよ。さすが生徒会長の懐刀」


 あたしはその言葉に不機嫌になる。鈴音の後ろ姿を見るとほんの少しだけ嬉しそうに見えた。それも彼女自身が褒められるよりも。

 うがぁ! 露骨なおべんちゃらじゃないか。噛み付いてやりたいけど先程の借りがあるので何にも言えない。


「俺は彼らを連れて学校に戻るよ。とりあえず、依田に見せるしかない」


「119番は通じるのかな」


 辺りを警戒しながらキョロキョロしてる和泉がやってきた。この様子だけ見てると小動物を連想する。


「いや、110番も試したが回線がパンクして通じない。恐らく何処もこんな状況だろうし医者が足りてるとは思えない」


 東の言葉には賛同するしかなかった。しかもレウケってた患者が運ばれていたら病院は真っ先に壊滅しててもおかしくない。

 ちょっとの怪我でも命取りになりかねない。


「お前たちは大丈夫なのか?」


「こっちは何とか。あたしがピンチに陥っただけだし」


 ならいい。と海人は簡単に返した。信用されてるのか心配されてないのかどっちなんだろう。でもどっちにしろ、あんまり嬉しくないぞ。

 下級生の一人が鈴音の真似をして×印を男子寮の門に書く。これで寮には立て篭もれないか。

 それを見る余裕もなく東とサッカー部の連中は学校の方へと戻っていった。


「そこまでの義理はないよ」


 あたしの視線に気づくと海人が肩を竦める。


「じゃあ、生徒会長の家に急ごうぜ」


 鈴音は縦に首を振った。だからその態度は何なんだよ。不公平じゃないって言えたらいいな。あれ? あたし、段々立場が弱くなってるぞ

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