せめて安らぎを
巫女は勇儀の言葉に怒り狂っているのか、今までにない勢いで水弾を連発してくる。あたしたちの位置が分かってないのか辺り構わず水弾を撒き散らす。
金属音や鈍い音が響く。殆どがタンクに当たってるんだろうが嫌な予感しかしない。タンクから大量に水が流れ出してる音がする。幾ら大量の水でウィルスの濃度が下がってもこの部屋が水没する事になったらTHE ENDだろう。
「タスケられなかったクセニ! タスケテ欲しいトキニ!」
これはあたしたちに向けた言葉かもしれない。でも今は迷ってる場合じゃない。
「あたしたちが憎い? なら掛かってきなさい。相手してあげる」
あたしは攻撃の隙を見計らって巫女が居ると思しき方向のタンクへと隠れながら移動する。
「チガウ! センパイたちはワルクナイ。ただサビシイ」
水弾攻撃が止んだ。
「ワタクシだけこんなスガタ」
それは巫女ではなく、和泉葉子としての言葉だった。でもあたしは巫女の居る方向に進む。彼女を元の姿に戻す事は出来ないのだから──なら悪夢を終わらせてあげるしかない。
「憎むなら私を恨めばいい。勇ちゃんを助けたいと思ったせいで貴女が犠牲になった」
鈴音の声が聞こえた。近くで聞こえると言う事は彼女も前進してる。
「ウラムなんて……ただサビシイ」
その言葉にあたしはハッとなった。多分、輸血部と同じように罠だ。
「罠だ。逃げて!」
あたしは叫びながら急いで手前へと走った。次の瞬間にさっきまで立っていた位置に水弾が直撃し、タンクが大きく凹み、水が漏れ始める。
最初からあたしたちとマトモに戦うよりもこの部屋ごと水没させて溺れさせるつもりなのか。
あたしは急いでその水の漏れた範囲から逃げ出そうとジャンプする。
「サスガ、センパイ。スルドイ」
泳いで移動していたのか、イルカのショーみたいに水から飛び出すようにあたしの左手後方から現れた巫女。その両足は触手と言うか根というか、それがホースのように水に浸かっている。水弾の撃ち放題はこれのお陰か。
「デモコレでオワリ」
巫女がゆっくりとあたしに向けて右手を差し出す。間に合わない。仮に撃ってもこっちの攻撃は致命傷にならない。
「止めて! 貴女はそんな子じゃないでしょう! 和泉葉子さん!」
近くのタンクに飛び移りながら勇儀が叫んだ。
「ジャマするナ!」
巫女は苛立ちげに水弾を撃つ。その撃ち出された水弾が勇儀の乗っていたタンクに直撃する。彼女はタンクの崩壊に巻き込まれて姿を消す。落ちたのだろうか。
あたしはその間にタンクの影に隠れて、巫女の死角に隠れようとする。
「ニガサナイ」
巫女が逃すまいと追ってきた。同時に鈴音が投げた火炎瓶が飛んでくる。
「ムダ!」
迎撃しようとする巫女に向けてAKの銃口を向けて引き金を引いた。多少は効果があったのか、巫女はその銃弾を受け、奇妙な踊りを踊る。そこに火炎瓶が直撃して燃え上がった。
巫女は炎を消そうとゆらゆらとうごめく。
「今度こそ」
「いやまだ!」
あたしの声を鈴音が遮る。
「キカナイよ」
巫女は言うと同時に再び水中へと姿を消した。その身を焦がしていた炎はアッサリと消えた。ゲームや映画みたいにグレネードランチャーとかRPG-7とか落ちてないのか。火力が足りなすぎる。
「弾は?」
「もう残ってない」
あたしはAKをスリングベルトに任せ、ブレザーのポケットから拳銃を取り出す。
「どうする?」
「私が聞きたいわ」
鈴音は新しい火炎瓶をショルダーバッグから取り出す。二人共、この場で巫女を相手にする場合に無いよりマシな武器でしかない。
「アヅイ! イダイ! イタイ! カラダがアツイよぉ!」
突如して巫女が水から飛び出してきた。水面を見ると先程までの色とは違い、何かの薬品が混じっているのか紫に変色していく。
鈴音は持っていた火炎瓶を投げつける。三度、巫女は炎に包まれるがそれでもまだ動いてた。多分、水分を体内に豊富に取り込んでいるせいだろう。
あたしもマガジンに入ってる分を巫女に全弾撃ち込むが効果は薄い。
「鈴音、左に避けろ!」
誰かの声が反射的に聞こえて鈴音がその通りに避けた瞬間、銃声が響く。そして、巫女の額に穴が空いた。もう一度、銃声が響いて彼女の胸のど真ん中に穴が空く。心臓に当たる位置。
それでも巫女は笑みを浮かべ動いていた。駄目かもしれない。
別の銃声が響いて巫女を目標に天井から鉄板が落ちた。轟音を響かせる中、右腕らしき肉片が舞う。そして、巫女は鉄板落下の衝撃で外れた床と共に水面に飲み込まれ、下流へと消える。
あたしの目には巫女は腕を吹き飛ばされ、その身を鉄板と床に挟まれて潰されたように見えた。
「倒してないよね」
「少なくとも二度と遭遇しない事を祈るわ」
この場にへたり込みたかったがここが水没し始めていたし、巫女の放った高濃度ウィルスがあるのでここを早く出なければ──
「二人とも大丈夫か?」
勇儀に肩を貸しながら海人が現れた。
海人は平気みたいだが勇儀は足を引きずり顔色が悪い。
「助かったよ。自分じゃ仕留めきれなかったし」
ドラグノフ狙撃銃を握りしめた兎川も合流する。
『ウィルスを殺す為の薬剤が上手くいったようね。そこは閉鎖するから急いで』
月山と名乗った女の声がスピーカーから響いた。巫女が急に水から飛び出たのはそのせいか。
「急ごう」
あたしたちは水かさが増す中を急いでタンクだらけの部屋を出た。靴が多少濡れるくらいで済んだのは幸運だった。




