通行止め
北の大通りは抜けれたがその更に北の小さな交差点のど真ん中で大型トラックと乗用車が事故を起こした形跡があり、ワゴン車での通行は不可能だった。形跡があったというのは真っ黒になったアスファルト舗装と大型トラックと乗用車らしき焼け焦げた鉄の塊が二つ残っているだけだったからだ。タイヤも燃え尽き、ホイールも溶けて本当に邪魔な鉄の塊にしか見えない。ワゴン車で押しても引っ張っても動かないだろう。
こんな何にもない交差点で事故るなよと愚痴りたくはなる。レウケとかに焦って事故を起こしたのか、レウケになって事故を起こしたのか分からないけど──
勇儀が戻って他のルートを探そうとしたが地図を見た海人がそれを止めさせた為にワゴン車はバックドアだけが路地に入ったままの状態になっていた。
「地図を見たらここが一番広い道なんだ。多分、ワゴン車だと擦っても入れないかも」
選択肢をミスった気がする。ワゴン車しかオートマチックなかったし、マウンテンバイクでもあれば良かったんだけど全員分は乗らないし、白井は持って帰ってきてなかったからな。
「歩くしか道はないな。研究所まで後どのくらいあるんだ?」
「多分、2km前後」
海人は定規を持って地図とにらめっこしてる。普段なら問題ない距離だ。普段なら──
「ちょっと待ってて」
鈴音がドアを開けて車外へ飛び出していく。そして走って勢いを着けた後、出っ張りを掴み、忍者みたいに信号機を登っていった。ジャングルジムを登るじゃないのに本当に軽々と頂点まで辿り着く。
「まるで忍者みたいだ」
「さすがにその一言はダサいかも」
兎川に窘められてしまった。外国人なら褒め言葉なんだけどな。
「あ、ヤバい」
ショットガンを持って海人はワゴン車を飛び出して電柱の下に周囲を警戒し始める。フォローするのを忘れてたのはあたしたちも同じだ。AKを持ってあたしも飛び出した。
「スカートの中を覗くのかと思った」
「お前な……」
遅れてきた兎川はドラグノフ狙撃銃じゃなくてロシア製っぽいオートマチック拳銃を持っていた。当然、彼女の相棒はスリングベルトで肩から下げていたが。
そして平然と兎川は上を見上げて鈴音のスカートの中を覗いているように見える。
「それよりその拳銃はいつ拾ったの?」
「病院で倒れてた兵士から頂戴した」
目聡い奴だなと感心しなくもない。そんなやり取りをしてる間に鈴音が電柱から降りてきた。途中から飛び降りて平気なのは身体能力が向上してるせいか。
「どうだった?」
「黒以外よく分からなかった」
鈴音が手を出す前に海人が軽く兎川を蹴るような仕草をする。笑っていいのか良くないのか心中複雑。
「頼むからチャチャ入れないでくれ」
「チャラけてないと心が持たないんだ。そこら辺は許して・た・も・れ」
公家っぽい仕草をする兎川の返答にあたしを含めた三人はスルーする事で一致したようだった。
「上からざっと見たけどどこも通れない。あと南からレウケが大勢来てる。多分、ワゴン車のエンジン音に反応したんだと思う」
視界の隅で微妙に流されたのが面白くなかったのか兎川がちょっといじけてた。無視しなくていいじゃないかとかブツブツ言っている。なら普通にしておいてくれ。美貌が台無しだ。ま、そういう素を出しても大丈夫なくらいあたしたちには気を許してると言えなくもないけど。
「ワゴン車を捨てていくしか無いのね。なら早くするか」
あたしはワゴン車の運転席に駆け寄ってガラスをノックするような仕草をする。ワンテンポ遅れてパワーウィンドウが作動して窓の一部が開く。
「どうしますか? 別の道を探しに戻りますか?」
「戻りません。ここから歩いて行きますので準備して下さい。もう少し前進して下さい。あとエンジンは掛けたままで」
歩きですか。と勇儀がぼやいていた。サイドブレーキを引いてギアをニュートラルへ入れた。
他のメンバーもワゴン車から必要な物を取り出し始める。あたしも自分のリュックを取り出す。既に殆どの物を使い果たし、入ってるのは僅かばかりの食料と水、それに弾薬しかない。
「あんな身体能力があったら化物の相手とか楽なんだろうな」
近くに立っていた兎川が鈴音の方を見てボソっと呟いた。なんか危険な雰囲気が漂ってる気がする。
「でも人間やめてまで手に入れるような物じゃないから」
あたしにだけ聞こえるように言ったのは否定して欲しいんだと思った。
「……そんな風に言える那名側がちょっと羨ましいな。まだ戻れるって事だし」
「馬鹿な真似はやめときなよ」
分かってるからと兎川は言ってあたしから離れて行った。
全員が荷物を取り出した。後は急いで研究所へ向かって行くだけだ。
「先生、最後に車を動かして路地を塞いで下さい」
海人が提案する。後ろから来るらしいレウケへのバリケードとして使い、道路を封鎖するのか。
「八幡くんがやってもいいんですよ」
忙しそうに荷物の中を覗いてる勇儀がそう返す。
海人は黙ってワゴン車の運転席に乗り込んで動かし始める。
ワゴン車の車体がゆっくりと路地に栓をするように収まり、そして海人が出れる分だけスペースを運転席側に残して彼はワゴン車から降りようとする。
ワゴンの正面に立っていた鈴音が運転席側に駆け寄る。
「海人、鍵は抜いて上の所に、ギアはニュートラルに戻しちゃ駄目。R? リターンに入れて」
鈴音は強化された聴覚のお陰で海人がいつも通りにしてしまったのに気付いたのか。
「鈴音の言うとおりにして。ニュートラルにしたらレウケに押されてバリケードとして役に立たない。あと鍵はダッシュボードの中に」
これで誰かが通っても邪魔にはならない筈。人ならダッシュボードや運転席の周囲を調べるだろうし。
海人が降りてきて鈴音から自分の荷物を受け取る。
「レウケの群れが結構近付いてきてるから急いで」
鈴音は先頭に立って手招きした。




