裏門
裏門には既に生徒が何人かが集まって防御を固めていた。よく見たら彼らは風紀委員の生徒だ。
薙澤の指示だろうけどみんな高揚してるのか現実感が薄いのか逃げずにそろぞれ武器を手に持っていた。
流石に箒は止めた方がいいと思うけど。
なんか揉めてるのか、風紀委員の生徒と不良グループたちと口論になっていた。
「別に俺らが勝手に行くだけだろう。お前らに咎められる筋合いはないね」
そう冷めた態度で言い放ったのは白井健だ。
「何を揉めてるの」
「お、生徒会長様じゃねぇか。こいつらに言ってくれよ。俺たちはホームセンターに物資を漁りに行きたいだけなんだ」
耳の派手なピアスと手のアクセサリーとヘラヘラ態度が癪に障る。
助けを求めるように風紀委員のリーダーがあたしたちを見た。
だが彼らの期待とは違う言葉が出てきた。
「行かせてやれば? ここで口論してるよりも好きにさせてあげなさい」
ここでトラブルを起こして目立つよりはマシだと判断したのだろうか。風紀委員の生徒は絶句している。
「さすが、団地妻生徒会長殿は堅物共と違って話が分かる。そっちの優男とよろしくやってくれ」
その言葉に鈴音から怒気のようなオーラが見えた。一瞬で周囲の空気が5℃くらい下がったように思う。
あたしからは背中を向けているので見えないがその怒りの凄まじさは海人が両手を上げてお手上げのポーズを取っている事から分かった。
白井も感じ取ったのか、行くぞと取り巻きどもを引き連れて裏門を開けて出て行った。
少なくともあたしから見える範囲にレウケってるのは居ない。
「まさかレウケたちが始末してくれるなんて考えてないだろうな?」
先程から無言だった兎川が口を挟む。お前はなんて事を言うんだか。
まあ、海人の悪口にはあたしも頭に来ないでもないから言いたいことは分かる。
海人以外の全員がビクッと体を震わせて生徒会長を見る。なんか海人だけ反応しないのが嫌な感じだけど──
「アンデッドと言うか、レウケと言うべきなのか、もし、あれが音に反応するのならここで口論して集まってこられたら厄介だと思わない? なら好きなようにやらせた方がいいと判断しただけ。彼らだってこの非常時に勝手な行動を取ったらどうなるかは自分で理解しているでしょう。もしもの時は自分たちで責任を取るわ。保証はしないけど」
二つの意味で風紀委員たちが震えている。依田先生が水晶体が濁ってるとか言ってたな。
しかし、それは半分は兎川の言葉を肯定してると思われかねない発言だぞ。
「音か。確かに厄介だ」
腕組みしていた兎川があたしたちの後ろに対して手招きする。
振り返れば、兎川を慕ってる連中がこっちに来ていた。
視線を戻すと海人と鈴音が何故か嫌そうな顔をしている。あたしにはその理由が分からない。一体何なんだ?
もう一度、後ろを振り返るとレウケではなく男子生徒数人が兎川のファンクラブの後ろからこっちに向かってきていた。
サッカー部の連中で一人は見覚えがあった。確か東猛で去年に鈴音と生徒会長の座を争ったサッカー部主将だったかな。
それなら鈴音が嫌がるのは分かるけど同時に海人が嫌な顔をする理由が分からない。
海人よりもイケメンではあるんだろうけどあたしもイマイチ好きになれない。
「自分たちでここを固めるから貴方たちは休んでて」
兎川の言葉に風紀委員の生徒たちが安堵の溜息を吐く。彼らは校舎の方へと消えていった。
「君たちも寮へ行くんだろう。僕らも一緒に行くよ」
鈴音は東の声に反応しない。彼女の家が寮と同じ方向なのか知らないあたしには何も言えない。
裏門の向こう側を監視していた。
「八幡君、君からも何とか言ってくれないか」
海人は東を見て無表情で沈黙を保ったまんまだ。それに東は大げさに肩を竦めてみせる。
そんなやり取りにまたしてもあたしは要らない事を言ってしまった。
「襲ったの?」
「違うわ!」
東が怒声をあげる。しまった。今のは確実にあたしのミスだ。レウケたちが音で反応するなら本当に間抜けな煽りだった。
こっちを鬼のような形相で睨みつける鈴音と本当に呆れてる海人。
「あ、ごめんなさい。要らない茶化しだった」
別に気にしない。と東が告げるが明らかに怒っていた。特に鈴音の方は持っていたコンパウンドボウであたしを狙いかねないくらいに赤い怒りのオーラが蜃気楼のように見えた気がする。
そして、その他大勢の視線の痛いこと。
うぅぅ。自爆し過ぎだろう。あたし。
あああああ、穴があったら入りたい。馬鹿男子が女子に向かってあの日かと聞くようなレベルの大失態。
何故か兎川が寄ってきて耳元で言った。
「責任をもって自分が教えるから後でな、失言女王」
兎川のフォローがなんか悲しい。黒曜石のような漆黒の瞳は哀れみを湛えていたのが余計に。
つーかフラグ立てるなよ。フラグ立てられたらあたしはあんたの話を聞けない可能性があるじゃないか。
なんであたしだけ蚊帳の外なんだよ。何があったか知りたいじゃないの。
「那名側先輩。ミスは誰にでもありますから」
和泉ちゃんがフォロー入れてくれたが気分は重い。大和撫子が天使に見えてくるのだから相当参ってる気がする。多分、あたしにとってこの子はそういう子じゃない。
この気遣いか学園一の人気者なんだろうか。
ありがとうね。彼女の左手を両手で握って感謝を表すが反応は薄い。は、はぁ。と返すだけだ。
「ここで押し問答してても時間の無駄だから行くわよ」
鈴音は裏門から側溝にかかる鉄筋の橋を渡り道路に出た。
あたしは慌てて後を追う。この場から移動してしまえば少なくとも兎川とその取り巻きからの視線からは逃れられるのだ。
「でもあなたにしては上出来だったかもね」
鈴音は追いついたあたしの肩を叩きながらほんの少しだけ笑う。それは今日一番不吉な言葉だった。
どういう意味ですか? 余計に気になるんですが。と大声で叫べたら良かったんだろうけど──今言ったら確実に不興を買う。
次は本気で矢那名側とかになるかもしれないので黙っていることにした。
あたしが無事に帰って、兎川が無事ならそれで問題ないのだから。
声がしたので後ろを振り返ると和泉のファンらしき5人が武器を持って追いかけてきた。どうやら押し問答が良くなかったらしい。
那名側は要らんことばっかり言ってる気がしてきます
これも幼馴染み属性キャラのサガか