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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第十章 四日目(1)激動
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巫女(ツスクル)の使命

Side

和泉視点

 和泉はこの4日間ずっと恐怖と飢えに苦しんでいた。本来なら大食いの彼女には配給された食料だけでは少なかったし、レウケたちと戦うには本来の彼女は向いていなかった。

 だが同級生も先輩も和泉の本心には気が付かなかったし、彼女を戦闘要員として借りだしてしまった事に対して罪悪感も感じてなかった。別にその事を恨んでいる訳ではない。先陣を切って戦えることに誇らしくすら思っていたのだが病院で幼子のドライアドと遭遇した瞬間に緊張の糸が切れてしまった。

 幼い頃に事故で亡くなった近所の子にソックリだったからだ。自分を慕ってくれたその子を射つ事は和泉にはどうしてもできなかった。

 那名側には射てと言われたし、その判断は当然正しかっただろう。彼女の指示通りにしていれば和弓を失うこともなく今陥っている地獄の苦しみを味わうこともなかった。

 しかし、和泉にとってはもう済んだ事だ。もうすぐこの痛みも恐怖も消えることが分かったから──

 みんなに教えてあげればいい。怖いことは何もないのだと。そうこの現象に恐怖する必要がないのだと教えてあげなければ──

 でも今の和泉は酷く空腹だった。寝ているのにも関わらずお腹の虫が大合唱しているのが何故か分かる。


「臼野さんが呼んでるから」


 保健室のドアが開いてその隙間から武装した風紀委員たちが顔を出す。


「そう。すぐに行く」


 外から聞こえた声は風紀委員の声でそれに応えて今井が服を整えながら椅子から立ち上がって、この保健室から離れようとする。

 駄目行かないでここに居てと和泉は言おうとしたが声が上手く出ない。


「ここは任せていいですか?」


「行ってきな」


 パンダのように目の下にクマを作った依田が送り出す。

 今井は風紀委員たちと共に保健室から離れていった。

 行ってしまったと和泉は残念がる。

 和泉はベッドの上から起き上がろうと試みるが別人の体になったように上手く起き上がれない。

 再び声を出そうとするがやはりうまくいかない。


「助かると良いんだけどねぇ」


 依田が和泉の方を見る。

 もう大丈夫なんですけどと反論しようとするがやはり上手くいかない。まるで他人の体のようだと和泉は思う。まるで引っくり返った亀だ。そして手足を動かそうとするがやはり上手くいかない。

 有名な小説の蟲になった人みたいに体が動かない。そうやってもがいていると鼻にいや嗅覚に美味しい匂いが漂ってくる。例えるなら焼き立てパン、香ばしく焼けた肉の匂い。

 和泉は自分の口内に涎が溢れてくるのを感じた。近くにあるのに気付かないなんて自分は今まで何をしてたんだろうと思わずには居られない。

 ベッドから這い上がろうとしていつもとは違う方向に力を込めてみる。ようやく右手の指が動く。

 和泉はその事の単純さに笑い声を漏らそうとするが声は出ない。当然だ。今までと体の動かし方が違うのだから同じ方法で動く訳がないのだ。少し考えたら分かりそうな事だ。

 何故なら和泉はもう人間ではないのだから──

 そして恐怖心が消えた理由もいい匂いの理由も察しがついた。実に簡単な事である。今まで怪物と怯えていた相手の一部は既に和泉にとっては味方であり、人間は食料なのだから。

 先程、今井に行くなと言いたかった理由もそれである。


「タベタラ、アタシのことサケなくなるかな」


 ようやく声の出し方が分かった和泉はベッドから起き上がる。

 その様子を見て依田が化物を見るような怯えた目で和泉を見る。不思議と嫌な感じはしない。むしろこれこそが正常であり自然な反応だと彼女は理解していた。


「オイしそう」


 人間だった少女は口から高濃度のウィルスを含んだ涎が溢れ出たのを省みることなく恩師に襲いかかった。

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