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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第十章 四日目(1)激動
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覚醒

 あたしは寒さで我に返って慌てて目を覚ました。残っていた食料をみんなで分けた後の記憶がない。日光が差し込んでいるから4日目の朝なんだろう。

 辺りを見渡してみると海人も看病疲れなのか寝ている。何故かタオルケットが掛けられていた。でも肝心の看病してた鈴音が居ない。あたしは急いでマミー型の寝袋から抜け出す。

 レウケ化したのかと思って教室内を見渡してみる。だがこけしちゃんはこの場に居らず、寝ているのか反応しない兎川の姿があるだけで──床に落ちた影を見てそれを辿った。

 そこにはカーテンの一部を開けて二重窓から外を覗き見ている鈴音が佇んでいた。その後姿はいつものように髪を纏めておらず、陽光を浴びて黒髪が陽炎の如く揺れている。

 変異したのかもしれないとあたしはブレザーのポケットの中の拳銃を握る。声を掛けるべきか躊躇っている間に向こうが口を開いた。


「私はレウケじゃないよ。そんな物を確かめもせず向けようとするなんて酷いんじゃないの?」


 冷や汗が流れでた。鈴音はずっと背を向けたままでこちらの様子を見ることなど出来ないはずなのに──しかも音を殆ど立てていないにも関わらずあっちはこちらの動きは把握してる。いや、ハッタリなのだろうか。

 鈴音はカーテンを離してこっちに向き直った。ルビーのように真紅の瞳があたしを見る。こいつ、こんな瞳の色だったけ? 得体の知れない不安が湧き上がってくる。


「貴女は誰?」


 あたしは不吉な予感にかられて、そんな問いをしてしまう。不思議と馬鹿な問いだとは思わなかった。むしろ、絶対にしなければいけない問いだと確信する。


「朝から冗談? 天津鈴音に決まってるじゃない。寝てる時に頭でも打ったの?」


 鈴音は鴇色の唇を笑いの形に変える。何故かあたしには理解できなかった。むしろ、目の前の女が天津鈴音と言う皮を被ったエイリアンだと言われた方がしっくり来る。殆どこの数日しか知らないがこいつはこんな人間だっただろうか。妙な差異を感じる。


「みんな生きてるのよね?」


「とっくに72時間過ぎて変異してないのなら生きてる筈だけど、どうして私に聞くの? 耳を澄ませば聞こえるでしょう? この教室にいる人間はちゃんと呼吸音がしてるじゃない。でもレウケ以外は呼吸してる可能性があるのか知らないけど」


 鈴音が返した言葉に戸惑う。密着でもしない限り呼吸音なんかあたしには聞こえるわけがない。こいつは何を言ってるんだ?


「ところで今何時? 朝みたいだけど」


「5時回ったところ」


 あたしが腕時計を見た隙に鈴音は海人の元まで近寄っていた。3メートルもない距離だが移動する様子が見えなかった。


「海人。海人」


 鈴音が妙に慈悲の込められた声色で海人を揺さぶって起こそうとしている。いつもなら嫉妬が上回る筈なのだが今は得体の知れない彼女に警戒する。


「……平気なのか?」


「お陰さまで。看病ありがとう。生まれ変わったかのように絶好調だから……でも目は痛いかな。なんかヒリヒリする」


 海人の質問に答える鈴音の返答にある意味で納得する。生まれ変わったと言われたらそうなのかもしれない。ただ、今までの鈴音と違う。あたしは彼女を人間以外の物だと認識してしまう。

 レウケやエクセキューショナーにドライアドにケンタウロス。人間をそんな物に変異させるウィルスなら助かったとしても人間に変化をもたらすのかもしれない。でもこの不安は一体何なんだろうか?

 海人はあたしの心中を知らないで安堵したような表情を浮かべていた。

 鈴音は自分の荷物から目薬らしきものを取り出して目にさしている。


「本当に大丈夫なのよね?」


「貴女もくどい人ね。大丈夫よ」


 あたしと鈴音の視線がぶつかる。苛つきよりも胸騒ぎを覚えて仕方ない。


「髪型が違うから雰囲気が違って見えるだけじゃないのか?」


 海人が宥めようとしているのか、的外れな事を言う。


「かもしれないわね。じゃあ、髪型を戻しましょうか」


「……別にそのままでもいいかも」


 海人が余計な事を言ったと思えば、鈴音は露骨に嬉しそうな表情をしている。でもこっちへ向き直って口を開いた。


「もし、貴女の言うとおり私が別人になっていたのなら72時間が変異のリミットを超えて人間である貴女も別人になっている可能性はあるんじゃないの? 私だけが責められる筋じゃないわ」


 カウンターパンチが飛んできた。確かにその通りなんだけど納得がいかない。海人があたしを咎めるような視線で見ているような気がする。


「人間としての自我を保っているのだから貴女と私は同じじゃないの?」


 返事に困っていると追い打ちがきた。やっぱり今までの鈴音とは違う。今までの彼女なら追い打ちは飛んでこなかった。


「そこら辺にしときなよ。それに朝から痴話喧嘩は見たくない」


 起き上がって介入してきた兎川を見る鈴音の瞳は何の感情も持ち合わせていないように見えた。今までの彼女なら絶対にしなかった冷たい視線を見て震えを感じる。


「自分もそう思うから今は様子を見よう」


 兎川は鈴音から唇が見えない位置で、あたしの耳元で囁く。

 その筈だったのに鈴音は一瞬だけ眉毛を歪めて不快感を表していた。もしかしたら彼女は人間のまま──

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