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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第九章 三日目(3)メタモルフォーゼ
55/101

妖蝶は自由に羽ばたく

Side

???視点

 再び、彼女はどこともしれない空間に立っていた。今度は己が影人間として──

 ただ以前、紫色のモヤが掛かっていた世界は紫色の空を移し、地面は蕾を付けた毒々しい赤黒い花に覆われていた。この間とは別のうす気味の悪さを感じる世界。この間のように浮遊しているような感覚はなく地に足がついている。裸足なのも分かる。足元に散乱している繭の切れ端のようなものがある事も──

 そして己の姿もちゃんと認識できたが目だけが酷く痛くて目を開けてられない。だから瞼は閉じたままになっている。

 でも自分と対峙している者の存在はよく分かった。己自身の一番嫌いなところ。抑制的で投げやりな部分。繭に覆われて出てこなければいいのだがそうもいかない。

 完全な私でなければ目覚められないのだから意地でも引っ張りだしてやる。


「自己欺瞞は罪よ」


 彼女は繭に向かって言い放つ。


「貴女に私の事なんて分からない」


 彼女はその言葉に煮えたぎる怒りを感じる。そんなの分からない筈がない。お前は私なんだから。引きこもりの真似なんぞされてはたまらない。


「今更、自分に嘘ついても仕方ないじゃない。サッサと出てきなさい」


「あの子は死んでしまった」


 彼女にはもう一人の自分の嘆きが理解できるからこそこの行動に余計に憤りを感じる。あの子は俯く事など望んでいないのだから。


「良くも悪くも、ね。だからこそ今の私がここにいる。私が存在する。ガタガタ抜かしてないで出てきなさい。貴女だって分かってるでしょう」


 彼女は裸足で繭に蹴りを入れる。硬くはない。なら己がやられたように言葉でヒビを入れるか。


「もう時間は戻らないの。あの子を助けられる時には戻れないの。私もあの子も」


 繭の中身が動いたのが分かった。


「あの女と同じになってもいいじゃない。うす気味の悪い血だけど貴女と私の一部ではある事は確かなんだし、所詮、蛙の子は蛙なんだし」


 拒否するように繭が揺れる。


「自分の欲得のままに生きる。それも生物じゃない。私はね、自分に嘘をつくのに疲れちゃった」


 彼女は繭に向かって囁くように甘言を口にする。


「ねぇ、奪っちゃおうよ。奪えるんだからさ。あの子の代わりではないし、そんな事は思ってないけど私の唯一無二の味方なんだからさ」


 繭が揺れるのを止めた。己と同じ者だから迷っているのは分かった。

 敢えて時間を与えて迷いを増幅させてやる。


「出ておいでよ。生きなければあの子の最後の言葉も無駄になってしまう」


「無駄なんかじゃない! 悲しんでるのが分からないの!」


 繭から己の一部が怒声を響かせながら出てきた。彼女はその声に反射的に耳を両手で覆って体を仰け反らせる。


「やっと出てきた。つまらない押し問答はしないで。あの子は貴女と私がいがみ合っても喜ばない」


 彼女は両手を耳から解放し、ため息を吐く。


「だって! だって! 私のせいじゃない! あの子が! あの子が死んだのは……」


「そうね。あの子は死ななかったかもしれない。でも逆に運命が代わって全員が不意打ちを食らって死んでいたかもしれない。たらればなんて今更意味はないの」


 彼女はもう一人の自分に対して母親のように話しかけた。己には存在しなかった、物語の中でしか見たことのない母を真似て──


「本当にそう思う?」


「勿論、ずっと言ってるようにあの子も喜ばない」


 もう一人の自分が彼女を見た。彼女を通して脳にイメージが流れ込んでくる。自分の姿が映し出された。その目は、眼球があるべき場所は空洞になっていた。普通なら悲鳴を上げる筈だろうが今は自然な事として受け入れる。


「だから私は、私たちは完全な私に移行するべきなの。この古き体を脱ぎ捨てて新しい段階に旅立たなきゃいけないの。それは分かるわよね?」


 彼女の言葉に繭から出てきた方の己が頷く。


「なら帰りましょう。私たちが私になる為に」


 繭から出てきた方が霧散して彼女に吸い込まれてその姿を失う。


「私は貴女。貴女は私」


 彼女の口から別の彼女の声が響く。


「二人で一人であり、一人で複数」


「そう。その通り。やっと分かったのね」


 彼女は安堵の声を漏らす。これで目覚めることが出来る


「うん。彼に対して貴女がどう思っていたのかもよく分かった」


 己の中から発せられた声に苛立ちを隠せない彼女。


「貴女ってやっぱり自分勝手ね」


「余計なお世話よ」


 立場が逆転してしまったのか、もう一つの自分が調子に乗り出す。


「じゃあ、行きましょう。いえ、戻りましょう。現実に……彼は私から逃れられない」


「言われなくても分かってる。その前にあれを思い出さないと」


 と言ったものの彼女にはあれが思い出せない。


「この身体と洞察力があればさ、簡単じゃない。もう誰にも遠慮する事なんてないんだから」 


 人格が統一されたのか、先程までの臆病風に吹かれていたもう一つの存在は消えて嫌な自分だけが彼女に対して窘めるような言葉を紡ぐ。


「それより、思い出さないと出られないじゃない」


「そんなの簡単じゃない。貴女の、私の、私たちの名前は──」


 己の名前を思い出した彼女はこの世界から飛び立った。

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