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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第九章 三日目(3)メタモルフォーゼ
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兎川の傷

 空き教室で寝ている鈴音に悪戦苦闘しながらも抗ウィルス剤を投与した後に兎川が話しかけてきた。


「那名側、頼みたいことがあるんだが……」


 あたしが待っていると兎川が続きを話しだす。


「もう頼めそうなのがお前くらいしか居ないから背中の傷を見て欲しいんだ。構わないか?」


「そのくらいならお安い御用だけど」


 兎川が鈴音を看病してる海人の方を気にしてる。背中の傷なんだから当然見られたくないだろう。ここに海人と鈴音を二人にしていくのは不安だが仕方ない。


「隣を使いましょう。道具あるんだったけ?」


「いや、全然ない。確保できなかった」


 あたしの質問に兎川が首を横に振る。保健室にもなさそうだし、自前のを使うしかないか。


「仕方ないな。体で払ってもらうか」


「自分、初めてなんだ。優しくしてたもれ」


 兎川が顔を背けて手で顔を隠すような仕草をする。今なんとなく思ったけどこいつ元々根がフリーダムなのだろうか。それとも見た目とは違ってお姫様みたいな扱いして欲しいのか。


「はいはい。出来る限り優しくしてやるよ」


 破れかぶれなのであたしも男っぽく返してやった。そして空き教室の隅に置いていたリュックを掴んでジッパーを開いて中身を確かめる。代用品くらいはあるのでそれを使うか。


「ちょっと行ってくるよ」


「分かった」


 行くよ。と兎川に告げてドアを開け、一応廊下の確認だけして隣の教室のドアを開ける。当然ながら誰も居ない。なんか妙に寂しく感じる。それはあたしたちが居る空き教室もそうなんだけど──

 外を見ると雨が降ってきていた。

 サッサと始めようと告げて椅子を適当に掴んで並べる。

 兎川は椅子を掴んで背もたれを横にずらしてブレザーを脱いで近くにあった机の上に、次に脱いだカッターシャツもその上に丁寧に畳んで置く。

 あたしは兎川の後ろの椅子に座って傷を確かめようとする。だがガーゼはブラジャーの紐の裏側に隠れていた。しかもかなり大きめの傷らしい。こんな状態でよくズレなかったと思わなくもない。肌の艶やかさはあたしと同じくらいか。


「あ、ブラ紐の裏なんだ。ちょっと待ってくれ」


 兎川はブラ紐をずらし、両手で胸の辺りを抑えている。カーゼの中央は血で染まって赤くなっていた。


「痛かったらごめんよ」


 前置きだけして巻きつけてある包帯をテープを剥がしに掛かる。兎川が呻くがあたしは何も言わずに続けてガーゼを剥がせるか触って調べてみる。一応まだ固まりきってないから剥がせそうだけど──

 あたしは取り外した包帯を机の上に乗せる。


「結構痛いんだけど」


「痛いだけマシじゃない? それよりこのガーゼ外した方がいい?」


 あたしの問いに兎川は少し考えている。


「ムズムズしてるし取れるなら取って欲しいんだけど頼める?」


「了解」


 一応、血が出た時用にリュックからレモンエッセンスや生理用ナプキンにテープを取り出して近くの机に置く。

 さすがに治ってるところのかさぶたまで引っぺがしたら最悪な状態になりかねないので慎重に進めていくが兎川が苦痛に声を上げる。別に痛くしてるわけじゃないのだけど──

 ようやく剥がし終えると結構広い範囲の縦に走った川の字みたいな傷だった。まだ出血してるようなのであたしはレモンエッセンスを開封する。


「ちょっと前傾姿勢取ってくれる。あと止血するから痛むよ」


 体を前に倒す兎川を確認してレモンエッセンスを傷口に垂らす。


「むー! むぅぅ。かなり痛いんだけど」


 兎川が珍しく泣き言を言う。本当に痛いんだろう。あたしも初めてやった時は涙目になったし。


「レモン汁で傷口の細胞を縮めてるんだから痛いに決まってる。もう少しで終わるから耐えて」


 あたしは三本の線を塞ぐようにレモンエッセンスを垂らしていく。それが終わったら未開封の生理用ナプキンを一つ開封してカーゼの代わりとして傷口を覆うように貼り、テープを手で切ってズレないように固定して巻いてあった包帯を付けてあったのと同じように巻きつけていく。


「そういえば、初日に鈴音と話してたのは何だったの? あいつが凄く嫌そうな顔してたけど」


 兎川の反応が鈍い。


「単に生徒会長の弟くんとお近づきになろうとして拒否されただけの話だ」


 露骨に不味い話題を出してしまった。沈黙の意味はこれか。


「ショタコンだったのか」


 通りで鈴音が関係ないと言い放ってたのか──

 あたしはこの空気を追い出すためにワザとそんな風に言った。


「男も女も若い方が好きだろう。自分もそうなだけだ」


 そこまでキッパリ言い放たれると何も言えないのであたしは黙って包帯をキッチリ巻いていく。


「こんな傷でよく大丈夫だったな」


「必死だった……それだけの話だ」


 あたしはそれ以上は追求せずに巻き終わったよと一言だけ告げた。

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