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反乱か逃走か

Side

今井視点

 こけしこと紗千は腹違いの兄である臼野孝太郎(うすのこうたろう)に宿直室へ呼びだされた。


「アーチェリー部の現責任者の今井紗千です。要請に応じてきました」


 その一言と共にノックする。そして返事が返ってきたのを確認してからドアを開けた。休憩室も兼ねて作られた広い宿直室を陣取っていた風紀委員たちの消耗ぶりは目に見えて酷かった。インカムを通して生徒会室での話を聞いていたが予想以上に精神を削られたようで皆座卓を囲んでげっそりとしている。


「忙しい所を申し訳ない。そこに座ってくれ」


 角刈りでこんな事態にも制服をきっちり着込んだ風紀委員長のヌシノが座卓の前で空いてた座布団を示す。そこに座って紗千は口を開く。


「臼野さんに呼び出されましたがうちも急いでいますので前置き抜きにお願いします」


 名指しされた臼野が眉毛を歪めるが紗千は敢えて見なかったことにする。


「では単刀直入に言おう。俺自身は生徒会が信用出来なくなった。それに追い打ちを掛ける形で生徒会長までが倒れてしまった。これ以上の乱れは生存に関わると思ってる。だから代わりの人間を立てるか、主導権を奪うしかないと思ってる。だが臼野は反乱なんぞ起こすのは、この状態で人同士で争うのは愚だと説いて反対してる。君がもう一つの選択肢を持っているとも提案してくれた。生徒会長が前々から脱出を計画していたのは知っている。それはいかなるものなのか教えて欲しい」


 ヌシノのが丁寧に頭を下げた。人間同士争わないと言った腹違いの兄の判断は正しいが後半の部分にはイマイチ納得がいかないものを感じる。


「聞いてどうするつもりですか? 元部長のプランを奪うつもりならうちは協力できません。そんなつもりで彼女と居た訳じゃないですし、うちはスパイじゃないですからね」


 紗千は冷たい反応を返す。そして正面からヌシノを探るように見える。端で臼野がホッとしてるのが彼女にはちょっとだけ嬉しかった。


「そんな馬鹿なことはしない。臼野に拒否される。それにこのまま薙澤会計や副生徒会長に従うのが正しいと思えなくなっただけだ。電気も止まり、今日は自衛隊の支援物資も届かない。手を打たなければこのままでは遠からず破綻するだろう。生徒会長の案で汲める部分があるならそれを取り入れたいだけだ」


 薙澤の命令で体育館を燃やすからそんな事になったのだとしか言いようがないがそこで口論しても仕方がない。

 紗千は覚悟を決めた。最悪の場合は手に掛けてでも止めるしかない。それに既にサバゲー愛好会の件で手を汚してしまったのだから──


「部長が考えているのはインターチェンジが使用不可なのと街ざかいを自衛隊に固められたので陸路は諦めてヘリで逃げると言う手段です。レスキュー隊員たちに拾ってもらえる可能性があるのは消防署か病院、或いは研究所やその関連の施設、もしくは自衛隊と連絡をつける方法と聞いています」


「ここを放棄するなんて」


 紗千より二つ上の三年生らしい女生徒の風紀委員が口を挟む。ヌシノの隣に座っているので彼女が腹心なんだろう。


「この人数で立て籠ってどうするの? 体育館の件からうちらはもう全校生徒の2割にも満たないのに……それに、エクセキューショナーを見た後では元部長は正しいと思います」


 数時間前に現れたレウケよりも凶悪な化物を見たら残る気にはならない。できるならもう少し早くアレの存在に気付いていたら状況は変わっていたかもしれないのに──


「連絡手段は?」


 ヌシノは真剣に聞いている。


「消防士が一人でも残っていたら迎えのヘリか無線が使える筈です。それに見よう見まねでうちも少し噛じってますから。後は無線で駄目なら救助用の信号弾が残っていることを祈るだけかと……それと個人的に意見ですけどラジオ局の電波を利用したら電離層の反射で外へ連絡できる時間帯があるかも」


 紗千は思っていたことを付け加えた。ただし、FM最夜は市内中心部にあるのだから賢い選択肢とは言えないかもしれないが。


「生徒会長の考えはよく分かった」


「裏切りよりは脱走の方がマシか」


 ヌシノの言葉が引き金になって各自が感想を漏らす。人間同士争うよりは脱走した方がマシと考えるのはいけないことなのだろうか、少なくとも紗千もマシだと考える。


「よろしいんですか?」


 腹心がヌシノに聞く。


「言っておきますが充分に準備したとしても無事辿り着けるか分かりませんよ。所詮、うちらはただの高校生なんですから。仮に辿り着いても無線が使えなかったり助けが呼べなかったりする可能性はありますから。あと救助のヘリが来ない可能性も」


 紗千は念の為にそう付け加えた。


「それは承知してる。ここを放棄する事態に備えて行動するのは間違いじゃないと思ってるし、避けられるのなら生徒同士でいがみ合いたくない」


 黙っていた臼野が口を挟んだ。眼鏡越しの視線は紗千に対して感謝を表していた。

 紗千はちょっと喜んでる自分に憤りを感じてしまう。


「俺たちも俺たちの身を守ることを考えるべきだ。病院は駄目だったらしいから他の場所へ逃げる為の準備をする。全員武器のチェックとオートマチックの軽自動車と食料の確保。あと脱出ルートのチェックを。あくまで俺たちの分だけだ他から奪ったりするなよ」


 その言葉に風紀委員たちが立ち上がって動き出した。


「今井、ありがとう」


「どういたしまして」


 紗千は腹違いの兄の言葉に投げやりに対応する。少し経ってから考えて意趣返しされて腹を立てるなんて子供だと自己嫌悪に陥りながら──

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