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(名称)それ要る?

 こうなった以上、頼るべきは──軍人だ。あたしは懐にしまっていたガラゲーを取り出した。

 短縮ダイヤルから父の陸に掛けた。確率は酷いけど掛かってくれることを祈るしかない。

 頼むよ。奇跡よ、起これ!


「大地か?」


 きた! 天よりきた蜘蛛の糸! あとは手繰り寄せろ!


「お父さん? 最夜で緊急事態、助けて」


 折角掛かったのに無情にも全部言い終わる前にプープープーと切れてしまった。

 ぬわわわわわぁぁぁぁぁっぁぁぁ! 凹む。多分言いたいことは伝わったと思うけどそれでも凹む。

 髪を掻き毟りながら頭を抱える。

 出来ることなら地面を転がりたかったが辺りは【何か】から出た血で汚染されてる可能性があるでそれをするのは自殺行為だ。

 カンダタかよ。神も仏もありゃしない。海で遭難した人が通過した船に気付いてもらえなかった時の心境である。

 次はいつ掛かるのか。


「ナイス判断。出るまで掛け続けてくれ」


 あたしの言葉から状況を判断したのか海人は励ますように肩を叩いて鈴音の方へと歩いて行った。

 二重に凹むぞ。

 校舎の方を見ると依田先生とその護衛が体育館の方へ向かい、長身で風紀委員長を思わせる真紅のフレームの眼鏡にロングヘアの女子生徒と彼女の腰巾着のような便りなさそうなリスを思わせる男子生徒が取り巻きを連れてこっちへ歩いてくる。

 生徒会会計の薙澤要なぎさわかなめと生徒会副会長の田中大輝(たなかだいき)だ。

 二人の背丈は殆ど同じくらいなのに薙澤の方が大きく見えるのは漂う雰囲気のせいか。

 それにしても遅い登場である。どこで道草を食っていたのか。

 未だに茫然自失状態の兎川の横をすり抜けてあたしたちと普通に喋れる距離で止まる。


「重役出勤だったのね」


 思わず嫌味の一言がこぼれ出た。


 薙澤が肩を上下に動かして一呼吸する。


「生徒会長、説明して頂けますか?」


 普通に無視されてしまった。馬鹿な嫌味だったので仕方ない。

 仕方ないので短縮ダイヤルで再び父に掛け続けるが反応しない。

 アンテナは立っているのだが何かがおかしい。

 根本的に繋がらないのだ。妨害電波か。

 そんな事を何度か繰り返してるうちに灰色のワゴン車がおっかなびっくりな挙動でこっちに向かってくる。

 須田のワゴン車だろうがマニュアル車に慣れてない勇儀先生が運転してるせいだろう。見てるこっちが怖い。

 正直な話、あたしが運転した方がマシなんじゃないだろうか。

 転がってる死体を避けながら運転してるせいだと分かった。そんなの別にいいのに。轢いて問題があるわけじゃないし。

 その場の全員が見送る中、ワゴン車は校門について入り口を塞ごうとするが運転手側を門側にしてしまった事に気付いて向きを変えて反対側に止めて勇儀先生がワゴン車から降りてくる。


「私の説明は以上よ。これ以上に説明のしようがない」


 気を抜いていたら生徒会長の報告は終わっていた。

 その場に居たのだから内容なんかどうでもいいけど立場が逆じゃないとも思わなくもない。

 実際に体験したのは鈴音の方なのだから仕方ないが──


「とりあえず、着替えるなりなんなりして下さい。その血の着いた格好だとみんなが落ち着きません。あとこっちはこっちで立て篭もる用意と遺体を一箇所に固めておきます。精神的によろしくはないでしょうし」


「念の為に燃やしておいた方がいいかもしれないわね」


 こうしたやり取りを見ていると不仲には見えない。単に事務的な会話なだけだろうか?

「燃やすつもりなら火炎瓶とか作れなくもないけど」


 余計な事だとは思ったが口が開いていた。

 海人が手招きする。発言するならこっち来て話せと言いそうな目付きだった。

 しょうがないので話の輪に加わる。


「大地の言うとおりかもな、臭いがどうこうとか言ってる場合じゃなさそうだ」


「死ぬよりはマシだろうね」


 男子二人が口を開く。二人共やや疲れたように見えた。


「ところでこの現象と言うか病気と言うかなんと呼べばいいのでしょう」


「生きる屍とかゾンビとか」


 書記の言葉に副会長が答える。薙澤が副会長の方を見ると彼は黙った。完全に立場が逆である。さっきのやり取りと言い、薙澤が生徒会長なんじゃないかとは思う。

 毎回の事だけど。


「そもそもゾンビはブードゥー教で罪を犯した人間に薬を盛って労働力として働かせていたものであってバケモノじゃない。俺らで言う懲役刑だ。土の中に埋まってたからと言って死体が蘇るわけでもないし、今回のは死んでたからな」


 副生徒会長を哀れに思ったのか、海人がウンチクを混じえた助け舟を出す。

 レウケ。ボソッと鈴音が呟く。聞き慣れない単語だった。


「首から血を流してたのが生きてると──」


「八幡さん、もういいですからそこら辺で」


 海人の狙い通り薙澤の注意がそれたようだった。


「八幡君、説明ありがとう」

 今度は海人が標的になりかねないのを悟ったのか、間髪をいれずに鈴音がそこで打ち切る。あたしが割って入っても状況が悪化するか薙澤にスルーするされるだけなのでここは生徒会長殿に任せるしかない。


「レウケ。アイヌ語で曲がるか。確かに自然の法則からはかけ離れてる。正しく現状を表してるし、いい案かもね」


 いつの間にか立ち直った兎川が口を挟んだ。腰のベルトには予備なのか折りたたみ式シャベル。その手には金属製のシャベルが握られていた。

 運動神経と体力、そしてフィジカルのある彼女なら使いこなせるだろう。

 と言うか、さっきまで茫然自失状態だったのにどうやって持ってきた。倉庫まで走って行って戻ってきたのか。


「ならアンデッドでもレウケでもいいわ。好きに呼んで頂戴。大事なのは其処じゃないでしょう」


 呆れる薙澤が肩を竦める。


「お言葉ですが生徒会長殿。名称を統一しておけば言葉のあやふやさで伝達ミスが減ると思いますが、特にこんな一刻を争うような非常事態では」


 兎川の視線は赤眼鏡の少女を見据えたままだ。無理やり解釈しても海人の前に立ってる鈴音には向いていない時点で嫌味しか聞こえない。

 まさに一触即発である。


「それに普段使わない言語と言うかこの場合は単語だがを使う方がみんな異常が起きた時に分かりやすいと思うんだが」


 海人が慌てて会話に割り込んだ。薙澤と兎川の空気が悪くなったを察してだ。

礼受(れうけ)駅」


「行ったことないし」

 またしても要らないツッコミを入れてしまった。あたしにだけ分かるように親指を立てニヤリとする兎川と無表情で眼鏡を直す薙澤。

 他の連中は成り行きを見守っている。

 先に折れたのは薙澤だった。

「なら勝手にして下さい。会長、対策会議は2時間後の15時でいいですか?」

 その言葉に鈴音が頷く。

 腕時計を見るとまだ13時だった。もうここに5時間くらい居るような気分になっていた。


「行きましょう、副会長。では八幡さん我々はこれで失礼しますので会長を頼みます」


 何故か海人にそう告げる。

 ああ。任せろと海人は親指を立てる。

「貴方たちは予定通り三人一組で行動して各クラスに警戒と伝達を。原因が分からない以上、返り血を浴びない、噛まれない事を最優先に」


取り巻きの男子生徒たちに告げて薙澤は田中を連れて校舎の方へ歩いて行く。立場が逆にしか見えないぞ。

 そしてあたしたちだけがその場に残された。

 書記の山田の事は忘れ去られてるし。なんか言われるかと思った。追求されたいわけじゃないけど。

 それにしても薙澤の海人への態度はなんなんだ? あたしが感知しないところで何が起きてる?

舞台が北海道なのでそれにちなんでこう呼ぶ事にしました

しかし兎川さんの描写をミスったせいで高速で行って戻ってこれる謎の人に

これはこれで味か?

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