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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第八章 三日目(2)祈りは虚しくて
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時間切れの前に──

Side

鈴音視点

 勇彦の遺体を前に鈴音は複雑な感情に駆られていた。彼の死と遺書の内容のせいである。そこに書いてあったのは姉である自分に対する愛と敵愾心だった。構い過ぎなのは薄々気がついてはいた筈なのに──母に用済みと思われてからの鈴音は姉として必要とされるように振舞っていたが過干渉で同時に疎まれていたと言うのは少なくともショックを受けた。そこまではまだ理解できる。

 でもその告白にホッとしている自分が居ることが彼女を不安定にさせていた。生徒会長に乗り気ではなかったのも進路で迷っていたのも全て弟の為だったのに──天津鈴音と言う人間を形成していた物が次々と音を立てて崩れ落ちるのがハッキリと分かった。

 そこに恐怖があるのは正しい。でも自分の中から湧き上がってくる【何か】に戸惑いを感じるしかなかった。


「大丈夫か」


 今井は仕事の為にこの場を去り、ここに残ってくれた海人が隣りにいる。手入れしてないのに綺麗な眉に触れてみたいと心が踊り、シャツの第一ボタンを外してそこの隙間から覗くその首筋には噛み付きたいとすら思う。弟が忌避していた彼女の性癖の一つだ。勿論、他の誰にも話しては居ないし、この状況ではレウケと間違われかねない。

 勿論、鈴音はヴァンパイア信仰者ではない。ただ自分の痕を残したいだけだ。所有と言う欲求を満たしたい。だが今までそんな相手には出会ったことはなかったが──


「大丈夫。まだ混乱してるだけ」


 弟が死んだのに酷い女だと思われたくないと言う衝動が全身を駆け巡る。だがそれとは別に自分の曝け出したいと言う欲望に駆られてしまう。自分の家で台所の天敵を見て叫んだ時にも感じた打算と那名側とのつまらない小競り合い。

 八幡海人と言う人物に自分の全てを知って欲しいと言う抗しがたい感情。つい数カ月前には弟以外には持ち得なかった他者への気持ち。自身の変化に戸惑いと高揚を感じる。


「ねぇ頼んでもいい?」


 鈴音はいつもの口調なのに感情を隠し切れない自分を必死に隠す。弟の遺体の隣で酷い女だと思う。


「扁桃腺と脈を見て欲しいの」


 鈴音は袖をまくって手首を見せ、第一ボタンを外して首筋を露わにする。肺から吐き出した息が熱いのを感じた。


「海人に見て欲しいの」


 依田と言いかけた海人の言葉を有無を言わせない口調で遮る。以前、蓋を開けてくれる人と称したが間違いではなかったと鈴音は考えた。呼び捨てであることには気付かずに──


「呼び捨てになってるけど」


「私が呼び捨てにしたらいけないの? 那名側は呼び捨てなのに」


 勢いで嫉妬の炎が入り混じった言葉を発してしまった。

 海人は黙って鈴音の首筋に触れて触診の真似事を始める。


「腫れてる気がする。それにちょっと熱いかも」


「根元の方は? もっとちゃんと確認して」


 鈴音は海人の手を取り、せがむ。瞳が濡れて懇願してるのは自身にも分かった。隠しておかなければいけないとは思いつつ曝け出したいので歯止めが利かない。

 海人が赤面しながら更に鈴音の首筋を触る。彼の視線は下に下がって自分の胸元をチラチラ見てるのはバレバレだった。決して悪い気分ではない。那名側や和泉に兎川辺りには余裕で勝ってる。スタイルで太刀打ち出来ないのが居るとしたら会計の薙澤だけだがあいつは除外してもいい。


「どう?」


「多分腫れてる。無理しすぎだ」


 海人は手を離して顔を背ける。


「脈は? ちゃんと確かめて」


 鈴音は右手を差し出し、そう強要する。もし、勇彦がレウケ化しても対処はできる用意はしてる。自分でもそんな風に割り切れるのが嫌になった。


「……脈は早い気がする」


 そっか。と鈴音は答えて本題に移る。


「ついでにもう一つお願いしていい」


 海人は警戒していたのか、俺に出来ることならと前置きをする。


「もうすぐ72時間だけどワクチンが効かなくて最悪の結果が出た時は私を海人の手で殺して」


 例え、死んででも相手を傷付けてでも自分と言う存在、天津鈴音と言う存在で呪縛したいと言う感情に抗いがたい魅力を鈴音は感じてしまう。それは好意を抱いている相手だからこそ余計にそんな風に考えてしまう。


「鈴音は殺せない。俺が必ず助ける。だから諦めるな!」


 鈴音の両肩を掴んでそれを否定した。海人のなんの根拠もない言葉に心の底から喜びを感じる。彼女は本来の意味に暗い悦びも混じっていたのには敢えて気付かないふりをした。


「あくまでもしもの時だから」


 自分が作り笑いではなく最高の笑顔を向けていた事は鈴音も分かっていた。本当に最低だがもうタガが外れてしまって彼女自身にも抑えようがないのは事実だった。

 そして懐に持っていた弟の遺書の最後1行に書いてあったのは兄ちゃんを口説き落として必ず幸せになれと言う一文で終わっていた。

 嫌われても無理やり──そんな風に考えるようになった自分に鈴音は疑問すら抱かなくなっていた。

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