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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第八章 三日目(2)祈りは虚しくて
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巣窟

 仕方ないのであたしたちはこの3階にやってきた階段を目指す。妙に遠く感じる。補助電源も一向に作動しないし蛍光灯の光も戻らない。


「あれがドライアド? ツスクル?」


「そんなの何でもいいよ」


 前から変なのが来ている。レウケやエクセキューショナーより走る速度は速いかもしれない。

 馬の蹄のような音がする。これがケンタウロスとか言うのか。本当に神話に出てくる馬人間みたいな感じだった。ただ神話と違うのは腕が4つあった事だけか。

 あたしは拳銃を両手で構えて走りながら撃つ。だがケンタウロスはちょっと怯むだけで効果が薄い。


「端っこに」


 その言葉に反射的に壁に沿うように避ける。矢と銃声が響いてケンタウロスの前脚に、銃弾は胸に当たる。それでようやく動きが鈍くなった。

 あたしはその隙を狙って中腰でケンタウロスの顔面を狙う。だが外れて首に当たる。それなのに奴はあんまり効いた様子がない。

 銃声が響いた。奴の口らしき部分から血が吹き出す。兎川のドラグノフ狙撃銃か。更に銃声。同時に鼻の辺りに相当する部分に命中してケンタウロスとやらはようやく崩れ落ちた。

 あたしたちはそいつの隣を駆け抜ける。まだ生きてて襲いかかってくるとかありませんように──


「ドコ、タベモノドコ」


 奥から、上がってきた階段の方からカタコトの声が聞こえてくる。相手なんかしてられるか!


「こっちだ」


 最後尾居た海人が左の渡り廊下の入り口で手招きした。


「八幡先輩、そっちは玄関じゃないですよ」


「別館の裏口から出るんだ」


 泣きそうな和泉の抗議に海人は焦った口調で言った。確かに人がいなそうな別館から逃げた方が化物たちは少ないかもしれない。

 一旦戻って前後が逆転したのであたしはしんがりに回る。

 前は海人が見てくれていると信じてあたしは後ろを気にしながら走った。

 ブザーが鳴ったせいか、いっぱい集まってきてる。しかもどうやって入りこんだのか、雌ライオンが1匹追ってきてる。警官隊と相打ちになったんじゃないのか。

 雌ライオンはレウケや花柄に見間違えるように花に寄生された白衣のドライアドを押しのけながらこっちに迫ってくる。


「海人! ライオンが来る!」


 振り向かずに走れ。と声が聞こえた。とりあえず、海人を信じて全力で走る。後ろから足音が聞こえてくた。こんなの逃げきれるか。でも何か考えがあるだろうと信じて走る。

 間に合え。角を曲がるとした瞬間に和泉に思い切り引っ張られた。同時に海人が何か二つを渡り廊下に向かって投げる。

 一瞬の間の後に爆発が起きて渡り廊下が炎と爆風に満たされる。そして橋とがを折れ曲がったりする時に軋みと音が響いて僅かな間の後に轟音が響く。

 さっきのガスマスク軍人から手榴弾でも拝借してたのか。

 あたしは和泉から離れて壁から顔を出して覗いてみる。さっきまで走っていた渡り廊下は消失して雌ライオンは焦げて破片に串刺しにされながらも地上に叩きつけられていたがまだ微かに動いていた。他は爆発で吹っ飛んだのか姿は見えなかった。

 でも爆破したのだから音で化物が集まってくるからこんなのを覗いてる暇はない。


「行くわよ」


 あたしは慌てて後を追い、階段を駆け降りていく。

 踊り場に立つ鈴音がコンパウンドボウをこっちに向けていて一瞬止まる。金属の矢があたしの隣を過ぎて階段を降りようとしていたパジャマ姿の女性患者らしきドライアドの心臓を貫く。

 踊り場に飛び降りてショットガンに持ち替えて発砲。ドライアドの顔の中心に穴を開ける。


「撃つわけないでしょう。行くわよ」


 鈴音が怒ったように叫ぶ。

 あたしは図星だったので何も言わずに駆け下りた。

 2階のフロアで海人が先頭に左の壁沿いで兎川がフォローする位置に右にいる和泉はさっきから動きが悪い。反対に意地でも弟を助けたいのか妙に動きのいい鈴音があたしの少し前でコンパウンドボウを構えている。


「リロード」


 海人が叫ぶ。弾切れでマガジン交換。援護しないと──拳銃に持ち替えて構えた。2階には敵らしい姿はない。そのまま、全員で階段を使い、駆け抜けるように1階まで降りる。

 すぐ右に裏口が見えた。日光が見える。


「助かった」


「タスケテ。オネエチャン、タスケテ」


 その幼い声に和泉が振り返った。こんな状況でただの子供が生き残ってるわけがない。あたしは反射的に嫌な予感がしてその声の主を、頭部に花を実らせたパジャマ姿の子供を撃った。2発撃った所で弾が切れた。

 和泉は想定してなかったのか呆気にとられている。

 リロードと叫びながらあたしは拳銃のマガジンを入れ替えた。頼むから何も起こるな!

 海人と兎川は出口の方に集中して動けない。鈴音はあたしが仕留め損ねた幼女ドライアドの頭を射抜く。


「和泉、動け! それは人間じゃない!」


 あたしは残っていたアルコールランプを幼女ドライアドに投げて直撃させる。そして銃撃。その銃弾の熱で彼女は燃え上がって辺りを照らす。その陰になって見えない位置にもう1体、よく似た花を実らせたよくにた幼女のドライアドが居た。

 ようやく反応した和泉が後ろに佇んでいた弓を構え、矢を打とうとする。でもそれは──幼女ドライアドの右手から水鉄砲のように飛んできた液体に和弓を破壊され、和泉の右半身にそれがかかった。

 床に転がって苦しむ和泉。

 あたしは発砲し、鈴音が射抜く。和泉を攻撃したドライアドらしきものは床に崩れ落ち、燃え上がってる幼女ドライアドの方へ転がって火に投げ込まれた枯れ木のように燃え広がった。


「今のうちに」


 手が空いた兎川が和泉を起き上がらせて抱えるように引きずって外へ出そうとする。


「鈴音! 先へ行って!」


 あたしはそう言って奥を警戒する。運ぶまでの少しでも時間を稼がないと──


「早く来い!」


 海人が裏口を開けて待っていた。和泉は兎川を手伝った鈴音のお陰で既に外に出ている。あたしは後ろを見ずに全力で走って裏口から病院を出た。

 同時に海人が裏口を閉めて手に持っていたスコップを取っ手に突っ込んで閂代わりにする。近くの鉢植えには穴が空いていた。ここから取ったのだろう。

 スリップ音がしてワゴン車がバックしながらこっちにやってきた。運転席には勇儀らしい人物が見える。あたしたちの眼前で乱暴に止まった。やるじゃない。この人を褒めたくなった。


「和泉は? 先生開けて」


 あたしはガチャっと音がしたと同時にバックドアを上にあげて開ける。


「様子がおかしいわ。急いで乗せて。あれはウィルスの入った液体だったのよ」


 兎川がワゴン車に押しこむように和泉を荷台へ押し込み、彼女も乗り込んだ。それを見届けてからあたしはバックドアを思い切り閉めた。


「急げ」


 後部のドアを開いて待ってる海人の声が切羽詰まってる。助手席に急ぎながら周りを見渡すとレウケたち集まってきてた。

 あたしは滑りこむように助手席に乗り込む同時に鈴音を押し込んだ海人が後部シートに乗り込む。


「出して! 出して! 出して!」


 あたしの声に反応して勇儀はこの間とは比べ物にならない速度でワゴン車を加速させて市立病院から抜けだした。


「ナイスタイミングでした」


「逃げてきただけです」


 勇儀の返答に絶句する。前言を撤回したい。


「先輩、なんか体が熱いです。助けて」


 和泉が泣きそうな声で助けを求めるがあたしたちには何も出来なかった。ただ学園に戻ることを除いては──


「もう少しだけ我慢してくれ。自分たちが助ける」


 兎川は悲痛な声で和泉を落ち着かせようとしていた。

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