告白
あたしは風紀委員たちにショットガンの使い方を教えていつもの空き教室へと戻ってきた。
丁度、海人だけがいた。チャンスなのだとは思う。正直、今度こそ死ぬかもしれないのだから言いたいことは言っておくべきだろう。
「風紀委員たちが牛田とか言う人には連絡をつけたから市民病院までの大通りへのルートを掃除してくれるって」
一応、彼らから聞いた情報を知らせておく。インカムを通して聞いてるかもしれないけど──
「生徒会長への罪悪感で行くなら止めた方がいいよ。あれは海人の責任じゃない」
また一々要らないことだけを口走ってる気がする。
「別にそんなつもりはない。そう見えるなら仕方がないのかもしれないが……大地には話してなかったけど何回か鈴音の家に行ったことがあるんだよ。その時に勇彦とは仲良くなってたんだ。俺は小さい頃に両親が死んで一人っ子だからさ。確かに家族みたいに大地をはじめとしてオジサンに天さんが居てくれたけど……男の兄弟は居なかっただろう」
確かに言えてる。父さんは男の子を欲しがってあたしの名前を大地なんて付けてしまったのだから──
「代わりと言ってはいけないが勇彦を弟みたいに思ってたんだよ。俺、それがちょっと嬉しくてな。個人的にも付き合いがあったんだよ。だから助けるために行くだけさ。弟みたいな奴を死なせるわけにはいかないだろう」
説明を理解はした。でも鈴音の弟と言う点に納得がいかないのも確かだ。別の人間の弟ならスッキリ考えられただろうに──
「行く理由は分かったよ」
あたしは病院に行くのを反対するのを止めた。海人の決意は堅いだろうし、それに反対しても感情としてマイナスに取られるだけだ。品評会で勝手に決めつけられていた恋愛脳の非難もお門違いの言葉でもなかったのかもしれない。生存だけを優先するなら止めるべきなのだ。
無事に帰って来れたら御の字。でも誰か1人が犠牲になったら弟くんが助かっても禍根が残るかもしれない。最悪、全滅してしまったらそれは本当に最悪の事態になる。
「なら出来る限り戦闘能力高い面子で行くしかないね」
あたしはため息を吐いた。
今、あたしが手に持っているのはサバゲー愛好会から奪ったレミントンM1100。スリングベルトで右肩から下げてるのは風紀委員から借り受けたレミントンM870。出来る限りの武装をして行くしかない。
「大地、逆の方がいいだろう。左肩を怪我してるお前がポンプアクション式は負担が大きいだろうに」
「あたしが使うのはM1100の方だよ。これは海人の為に借りてきた」
M870の方を手渡す。勿論、ちゃんと使えるかチェック済みだ。いざ撃とうとして銃口が詰まってて暴発であの世行きじゃ話にならない。
「ありがとう」
海人がほんの少しだけ笑ってくれた。あたしにだけに──
「なんか久しぶりに見た気がする」
「何を? そんなにこの3ヶ月間は怒ってるように見えたか」
なんかズレた答えを返されてしまった。
「全然。凄く凹んでるようには見えた」
海人は困った顔で微かに笑い声を漏らす。笑うしかないから笑って誤魔化すと言う感じだ。
いけない。余計な一言を言って告白するタイミングを逸してしまった。そのまま言えばよかったのに──
「とりあえず、心配かけてすまない」
「別に構わないよ。好きな奴の面倒だし」
海人があたしの顔を真正面から見据えた。生きて戻れる保証などないのだからありったけの勇気を振り絞った。
「あたしは、貴方が、いや、八幡海人を女として好きなの」
ちゃんと聞こえるように言った。人も大きな音の邪魔は入ってない。会心の告白だと自負できる。
でも海人の顔は多少喜んでいたがでも目は寂しそうな色を湛えているように思えた。
「聞こえてなかった?」
ボーッとして聞いてなかったとか言うオチじゃないだろうな?
「いや、ちゃんと聞こえてた。一言一句、完璧に間違いなく言える」
海人は重たい雰囲気を出している。口調がおどけてないのは真剣さの表れだ。
「不謹慎だった?」
「まさか……命の危機が掛かってる時なんだ。言いたいことくらい言えばいいと思ってる。でも今すぐには答えられない」
問いには被りを振って否定してくれた。
「それは、鈴音のせい? それとも弟くんの件?」
あたしはそんな言葉を発していた。取り消す気もないし、やっぱり、聞きたくないとかカマトトぶって走り去ったりはしない。言った以上は元には戻れないし、何より答えを知りたいのだから──
「そうかもしれないし、違うかもしれない。とりあえず、今は答えを出せない。だから不愉快かもしれないけど時間をくれ」
分かったと言葉を返すしかなかった。
「ありがとう。すまない」
海人はあたしから視線を逸らしていた。かなり嫌な状況だ。すまないの意味を考えたくない。
「いいけど、死んで答えが返せないとかなしだからね」
あたしは精一杯強がってみせた。これから死地へと赴くのだから気合くらい割増しておかないとどうにかなってしまいそうだった。
海人は困った顔で笑っていた。