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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第七章 三日目(1)絶望は希望から始まる
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処刑人登場

 3日目は東の来訪で目が醒めた。と言うか叩き起こされた。寒いのに──


「喜べ。例のレポートが解読できたぞ」


 あたしは目をこすりながら災害用の寝袋から出てリュックの中にしまいこんだ。周りを見れば東がうるさかったせいかほぼ全員目をこすりながら起きていた。目をこすってないのは海人と鈴音。多分、見張りだったのだろうけどなんか面白くない。

 とりあえず、東の話を聞こうとして何人かの携帯電話が鳴った。


『大変なんです。校庭になんか変なのが来て。とりあえず、助けて下さい』


 誰か分からないけど助けを求める声だった。変なのって何なんだ? レウケじゃないのか?


「那名側、持っててくれ」


 東はあたしにタブレットを渡して飛び出していった。あたしに渡すなよ。前衛なんだし。


「これお願い」


 適当に、近くに居た鈴音に渡すが嫌な表情をする。でも無視してタブレットを渡して手早く火炎瓶を作って東の後を追う。動物なら火で怯むかもしれない。

 持って上がってきていた運動靴に履き替えてインカムを付け、消防斧とスティックを持って二階から校庭に降りるために教室を飛び出した。

 二階から校庭を見てあたしは唖然となった。それはレウケではない。背丈は人間と変わらないが塞がれた瞼に耳と鼻がない、悪趣味な色素の抜け落ちた白い顔、抜け落ちた頭部の髪、ナイフを連想させる異様に伸びた爪。悪趣味な【パペット】みたいだった。須藤が着てたような服を着ていたから余計にそう思ったのかもしれない。

 近くに居た男子生徒が木刀で殴りかかった。悪趣味な【パペット】の頭に正確に振り下ろされるが全く効いてない。

 【パペット】が笑ったと思った瞬間、男子生徒が人形みたいに舞い上がって赤い何かを撒き散らしている。血ではない。多分、内蔵だ。ここからでも彼が致命傷を負ったのはすぐに分かった。

 あたしは通路を覆うトタン屋根に飛び乗って上から様子を伺う。


「海人、聞こえる? レウケじゃない人型のヤバいのが居る。ドラグノフ狙撃銃と弓で接近させずに倒した方がいいかも」


『分かった。すぐに行くからそれまで手を出すな』


 インカムを通して伝わったのか、海人がすぐに返事をした。

 その場で注意を引かないように見張っているが校舎から出て来た東が手製の槍を手に走りだす。無茶だって。


「無茶よ! やめなさい!」


 思わず叫んでしまった。【パペット】がまた笑ったように見える。そして東の槍がその胸に突き刺さった。だがそれは【パペット】の胸を浅く傷付けただけに過ぎなかった。耐久力の面で人間と殆ど変わりなかったレウケとは別物だった。

 あたしはジッポライターを取り出して火炎瓶に火を点け【パペット】に向かって投げる。奴は炎に包まれるが殆ど意に介してない。殆ど効いてない。

 最悪でも東が逃げる時間くらいは作れると思ったのだが──


「東、離れて!」


 だが彼にしては動きが鈍い。昨日の怪我のせいか。このままでは東がやられる。白井の姿とダブった。


「このクソぉ!」


 勝手に体が動く。トタン屋根から勢いをつけて飛び降り、こちらに背を向けた【パペット】の頭にスティックを振り下ろしていた。レウケならなら必殺の一撃である一撃を受けても【パペット】が平然としている。しかもスティックは一撃に耐え切れずに半ばからへし折れてしまった。

 あたしは地面を蹴って転がるように離れる。胴体があった位置を薙ぐように【パペット】の右腕が通過していく。同時に額に脂汗が滲み出る。左肩をかすめただけなのにこの痛み。左手は痺れて使えない。

 しかも校門の方から堀と塀を超えて、【パペット】がもう一体現れた。そいつは獲物を確認するかのようにゆっくりと辺りを見回している。


「早く来てくれないかな。真面目にヤバいんだけど」


 あたしは素早く立ち上がってベルトに挟んでいた消防斧を右手で構えた。【パペット】はその口に蔑むような冷笑の形を作ってこっちを向いている。人語を介してるのか。


「那名側! お前だけでも逃げろ!」


 刃のなくなった槍を構えて東が急かす。


「無茶言うな!」


 突撃しておいてそんな事を言うな。背中を向けた時点で襲われるのは分かりきっている。

 そんな思考を汲みとったのか【パペット】は反転、あたしではなく東に走り寄った。怪我で反応が遅れた彼の腹部に奴の蹴りがめり込む。

 東はサッカーボールのように地面を転がって血を吐いた。

 助けに行こうとするも【パペット】がこっちに向き直って嘲笑っている。クソ! 次はあたしの番と言いたいのか。

 その時、銃声が響いて【パペット】が初めて仰け反り、悲鳴を上げた。

『命中。右肩』

 兎川の声が言い終わる前に金属の矢と木製の矢が化物の左踵と右大腿部を射抜く。だが奴はそれでも倒れない。


「離れて!」


 あたしは【パペット】から距離を取った瞬間、一斉に矢が飛来して奴の胸を貫く。でもまだ動いてる。

 再び、銃声が響いて【パペット】は口から血を吐いた。いや正確には口の中に命中したのだろう。それで奴は動かなくなった。


「オマエガ…ワタシヲ……コロシタ」


 どこかで聞き覚えのある、いや間違いなく須藤の声だった。2日前に鈴音によって葬られた筈なのに──背筋が凍ったのを感じる。地獄から蘇ったとでも言うのだろうか。


『命中。頭部』


 インカムから兎川の声が響く。もう一体の【パペット】もドラグノフ狙撃銃から撃ちだされた銃弾とアーチェリー部と弓道部の弓矢による集中攻撃を受け、絶命した。途中から現れた3体目も同様に。

 だがあたしは【パペット】が言い残した言葉と須藤だった声にショックを隠し切れない。


「ねぇ、海人。最初に倒した奴が……須藤の声で喋ってた」


 あたしは救いを求めるように彼に話しかけていた。異性として好きな彼に。


『すぐ行くから待っててくれ』


 その声を聞きながらあたしは校庭を見渡す。風紀委員の連中も何人か倒れていた。そして東は──駆け寄ろうと思ったが結果を知りたくなかった。多分、彼はもう──

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