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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第五章 二日目(2)不安
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警察VS感染動物

 学校に帰り着いたあたしたちは灯油を届けた後、勇儀と別れて屋上で脱出ルートを探そうとしていたが昼も近かったので先に食事にすることにした。

 拠点にしているアーチェリー部が占拠している空き教室へと戻る。そこには先に食べていた今井と弟くんと和泉、そして、意外な人物が居た。副生徒会長の田中だった。

 よう。と手を挙げる。誰に対してだろう? 鈴音に対してそんな態度を取ってるようには見えないが──


「鬼の居ぬ間に洗濯か?」


「あんまり婚約者の悪口は言わないでくれるか。それにお前らの分をこいつらに届けに来たんだな」


 そりゃ、すまないと海人が肩を竦めた。


「おかえりなさいませ。元部長に先輩方。副会長が持ってきてくれた配給品がありますのでそれをお食べ下さい」


 今井ちゃんが迎えてくれた。袋に入ったおしぼりと既に温めてあるビーフシチューとライスが保存食品を渡してくれた。椅子に座っておしぼりで手を拭いて説明書の絵を見ると端にご飯を寄せて食べるみたいなのだが面倒なのでビーフシチューをそのまんまご飯にかけて付属のレンゲで食べ始める。昨日の昼を最後にろくな物を食べていないのでありがたい。

 まあ、あんまり好きな組み合わせではないけど温かいだけで美味い。


「それ、一緒くたにして大丈夫?」


 同じくビーフシチューとライスを受け取った兎川は近くにあった机を使ってちゃんと説明書どおりにやっている。意外に女子力の高い奴め。と言うかこいつは元々高いのか。

 あたしは食べながら教室の中を見渡す端では鈴音と弟くんがただいま。おかえりなさいのやり取りを行っていた。たまにどこか余所余所しい印象を受けるのはなんでだろうか。実の姉弟なのに微妙な壁みたいなのを感じる。

 海人は田中と話した後、こっちにやってきてあたしが手にしている器を見ている。


「お前、あんまり余裕ないな」


 海人もちゃんとビーフシチューとライスを分けていた。別にいいじゃん。腹の中に入ってしまえば同じなんだし──あんまり周りの目を省みてない所があたしの疲労度を表してる気がした。

 あたしは真っ先に食べ終わると瞼を瞑って休む。寝るわけじゃないぞ。


「牛になるぞ」


 海人から以前のようにからかう言葉が飛んできたがあたしは反応しなかった。別に怒っていたわけじゃない。疲れてて少しでも休みたかった。

 レウケに襲われるわ、鳩ペンギンに襲われるわ、銃撃されるわ、散々だ。せめて、少しでも昼に眠れたらいいんだけど──


「あ、元部長。今の部長ですが寮からフケて男に会いに行ったようです。しかもそいつの家が市の南西の方みたいです」


 今井の声に鈴音は返事を返さない。

 後はどうでもいい会話ばっかり──あたしの意識が途切れかけた時にノイズ混じりの人の声が聞こえた。多分、ラジオからだ。


『私の所に届いている情報です。動物園から抜けだした肉食獣が暴れているようです。そして、そのライオンや象の対処で警官隊に多数の死者が出た模様です。危険ですので大通りの方には近付かないで下さい』


 その一言に場が凍りついたのを感じたあたしは瞼をあける。全員が硬直して次の言葉を待っている。


『あ、今、情報が入りました。警官隊と凶暴化した肉食獣たちは相打ちのようです。でもご安心下さい。大通りで対処していた警官隊だけのようですからまだ警察の方は残ってらっしゃるので希望をお持ち下さい。でも決して大通りの方には近付かないで下さい』


 DJは慌てて訂正の言葉を付け加えたがそれは逆効果にも思える。この場にいるのはいつものメンバーに田中くらいで良かった。アーチェリー部の面々はまだ抑えが効くだろうけど──他の人間が聞いていたらパニックになるかもしれない。

 兎川はそっかと呟いていた。覚悟してたような諦めたような表情だった。


「大丈夫?」


「あ、うん。ちょっとショックだけど死に別れる覚悟だけはしておけっていつも言われてたから」


 あたしの問いに応える兎川は大丈夫には見えない。むしろ、かなりのダメージを受けてるように見える。


「やることが出来たから平気。落ち込んでる場合じゃない」


 その言葉に不吉な予感を感じるのは何故だろうか。

 また繋がらなくなったのかそこでラジオの音は消えた。弟くんには罪はないけどさすがに前の情報と違い、ショックが大きすぎた。その場の全員が硬直して動かない。


「また会議か?」


「多分、そうなるね。僕は要にこの事を伝えてくるよ」


 海人の問いに田中は教室を出ていった。

 無駄な会議しても絶対に折り合えないと思うんだけどな。特に銃撃と警官隊壊滅の後では鈴音が脱出を諦めるとは思えない。むしろ、より強硬に主張し始めるのは火を見るよりも明らかだろうし──


「纏まると思う?」


 はしゃいでいた数時間前の面影はなくこの5分間で妙に疲れたようなオーラを出している。


「まさか、絶対無理でしょう」


 あたしは鈴音を見てそれから天井を仰ぐ。


「自分もそう思う。だから逃げる準備しておこうか。絶対折れないだろうから」


 兎川は目だけで鈴音を見ていた。

 あたしは生徒会内部の亀裂が決定的な物にならないことだけを祈るしかなかった。だが鈴音が弟くんと話してる姿を見て、女の勘で不可能だと分かってしまっていた。

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