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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第五章 二日目(2)不安
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壁ドン

Sideです

東視点

 東猛にとってこの数ヶ月は屈辱であった。サッカー部員として大成できない出来ないのは小学生の頃から分かっていたが内心を良くするためだけに立候補した生徒会長選挙で落選したのは想定外だったからだ。

 心象も手応えはあったし、能力では対抗馬であった天津鈴音に遅れを取るような状況ではなかった。何より彼女自身が生徒会長の役職に就くことを嫌がっていたのは見抜いていたのだ。

 それでも彼は落選した。考えうる理由は会計に立候補していた薙澤要と書記の山田雄二にとってやる気のない天津鈴音の方が与し易いと判断されたのと確実に並以上の美貌と女子生徒会長と言う点だけで選ばれたとしか思えない。

 それが何よりも東猛と言う人物のプライドを深く傷付けた。その上、この数ヶ月はやり場のない怒りを感じ続けていた。

 天津鈴音に粉をかけていると言われなき中傷もそれを後押ししている。

 丁度、反対側から天津鈴音が一人で廊下を歩いている。嫌味を言ってやるチャンスだと思って声をかける。


「天津、君に話がある」


 天津鈴音の瞳は東をゴミを見るような目で蔑む。本来なら女子たちから黄色い悲鳴か熱を帯びた視線が返ってくる筈だが彼女はそんな物とは無縁で酷薄な対応だった。

 一瞬だけ歩みを止めたが彼女は無視を決め込んで再び歩き出す。他の人間ならショックを受けただろうが東は知っている。この人物の内面にどす黒い泥を内包していることを──


「待てよ! 何故、生徒会長の職を辞退しなかったんだ?」


 所謂、壁ドンと言う形になるが天津鈴音は動じない。むしろ、その瞳はますます嘲笑の色を強めていく。


「断ろうとしても却下されたからに決まってるでしょう。私が好きでやっていると思っているの? それとも貴方に生徒会長の椅子を譲りたくなかったから続けてるとでも言って欲しいの?」


 明らかに煽りの言葉が飛んでくる。本来、天津鈴音と言う人物が持っている爪と牙を隠そうとすらしない。

 東はその言葉に本気で怒りを感じるが理性の全てを動員して抑え込む。


「それに貴方が私に絡んでくると変な噂が助長されるから迷惑よ。貴方が腹いせに噂を流してるんじゃないわよね?」


 怒りを抑えているのは向こうも同じなのかこめかみが動いている。


「他の馬鹿な人間ならともかく僕は天津鈴音ほど腹に何かを溜め込んでいる人間は知らない。そんな君に対してわざわざ自分の首を絞めるような真似はしない。関わるだけ損だ」


 さすがに頭にきたので言い返してやったが更に倍以上の反撃が東へ飛んできた。


「ならさっさと消えなさい。今日の私は物凄く機嫌が悪いの。もし、消えられないのなら消えたくなるようにしてあげましょうか」


 曲がり間違っても生徒会長のような役職に就く人間の言葉ではない。完全に恫喝だ。

 東が言い返そうとしたら天津鈴音と言う女子が取った行動は頭突きだった。咄嗟に飛び退くように離れてそれを避けるがもう少しで鼻か顎に直撃するところだった。


「何の真似だ。危ないじゃないか」


 さすがに東も声を荒げる。だが相手は冷淡に言い返す。まるで凍てつく冷気のように──


「言葉のとおりにしただけよ。それに壁ドンとか言うのは暴行罪に抵触する可能性があるって知ってた?」


 全く悪びれる様子はない。


「ならお前は傷害罪だろう!」


「私が? 私は単に束縛から逃れようとしただけ。額の先にたまたま貴方の顎があっただけ」


 天津鈴音は何を言っているのと言わんばかりの態度を取った。もし、妖怪という物が存在するのであれば目の前の女だと東は確信する。見た目はストライクなのだが中身が最悪すぎる。これは自分の手に負えないと判断する。

 こっちに策はないが向こうにはある。絡まれたと叫べば不利になるのは自分だ。


「揉め事か、大丈夫か?」


 東は記憶の意図を探る。3-Bで女子にアウトドア系男子とか言われている八幡海人だった。彼の乱入がどっちに転ぶか分からないので黙ってみている。


「口論である事は確かね」


 天津鈴音が東から距離を取り、八幡の方へとゆっくりと氷の上を滑るように移動していく。

 男を巧みに盾にするその様子は魔女にしか見えない。と言うか、魔女そのものだ。

 八幡は自分が天津鈴音の前に庇うように立つ。

 東はそんな彼に対して密かに哀れみを抱く。不良グループを一人で撃退したらしいが女を見る目は絶対にないと断じれる。


「大人気なかったよ。僕の責任だ。すまなかった」


 先手を打って低姿勢に出て、東はこの場から立ち去る。だが後ろから襲われても対処できるように聞き耳だけは立てておいた。

 東に対して八幡は何も言わなかった。


「やっぱりドキドキしないのね」


「何の話だ?」


 天津鈴音の言葉に八幡は怪訝な反応を示す。

 とりあえず、東は角を曲がって壁に姿を隠し、顔だけだして二人の様子を伺う。


「ちょっと目を瞑ってくれるかな」


 止せばいいのに八幡は彼女のリクエストを受け入れて瞼を閉じてしまった。


「こうか?」


 その隙を見逃す訳もなく天津鈴音は彼の唇を奪う。と言っても唇と唇が触れる浅いキスだったが──


「こっちの方がドキドキする」


 遠目からでも顔が真っ赤になっていると分かる八幡を天津鈴音が受け止めるように抱きしめている。自分への態度とはまるで違うが嫉妬も怒りも全く感じない。

 何故なら東には八幡が天津鈴音と言う魔女に選ばれた哀れな生け贄にしか見えない。だがそれで自分への矛先が代わるのであればありがたいと考える姿勢を崩すつもりはなかった。

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