サバゲー愛好会と揉め事
その後、校舎内部と校舎の周りを兎川と今井たちと一周りして安全を確認した後、空き教室に戻ってきて何やら揉めてるのを見つけた。
渡せ。渡さないの言い合いをしている。
海人と鈴音が誰か対峙している。なんか見覚えがあると思えば自称サバゲー愛好会の鮫谷とそのお馬鹿な仲間たちだった。何故、そう言われてるかと言うと非常に馬鹿な問題ばかり起こして周囲に迷惑をかけて不良たちにすら呆れられているくらいだ。
具体的に言うと今サバゲーでは自然に優しい弾を使うのが常識になっているのにも関わらず、それを破ってプラスチック製の弾を使ったり、人が通りそうな所に的を置いて通行人に怪我させたり、その他諸々悪名には事欠かない連中なのだ。
しかし、今まで何をしていたんだろうか。真っ先に暴れて暴徒化しそうな集団なのに──あたしはこいつらが嫌いだ。何故、寄りにも寄ってあたしが大好きな鮫の文字を持っているのか。本当に不愉快である。
「とにかく渡せ」
「悪いけど断固として断る。例え、尖った鉛筆でも貴方たちには渡したりしない」
鮫谷の要求に鈴音は毅然と言い放った。
「お前たちが持っていても仕方ない。俺たちサバゲー愛好会が一番上手く使えるんだ」
「冗談きついな。その寄越せとか言ってるものの名称も分からないのにか?」
海人が挑発するようにせせら笑う。勿論、ワザとだ。自分が幾らもっとも許せないタイプの連中だからってこの非常時に喧嘩を売らないで欲しい。
意見が同じなのか、鈴音の背中に怒りの文字が書いてあるかに見えるほど肩が震えていた。
「ドラなんとかだ」
「便利な道具を出してくれる狸は居ないぞ」
一部から笑いが漏れたが鮫谷は侮辱と受け取ったようだ。海人に掴みかかるが逆に掴みかかった右手を取られ、腕の関節を逆方向に捻れ上げられて悲鳴を上げる。
さすがにあたしの父から自衛手段を習っただけのことはあるのか。
「で、これは何が原因? 自分には理由が分からないのだけど」
「それはわたくしの取り巻きがライフル銃ですか? それを拾ったことを教えてしまったようで──」
兎川の疑問に和泉が答えた。やっぱり、あの取り巻きたちなんか連れて行くんじゃなかった。もっとも彼女たちに追いつく時間を与えてしまったのはあたしにも原因があるのだけど──
スティックを握りしめながら唇を噛む。海人の行動にサバゲー愛好会は全員武器を持っていた。大した事のない奴らだがこの状況で怪我をするのはどう考えても賢くない。
接近戦で頼れそうなのはあたしを勘定に入れて海人と兎川しか居ない。3人でサバゲー愛好会の全員を相手にして無傷で立ちまわるのは辛い。その上、彼らを傷付けずにとか絶望的だ。
催涙スプレーでも作っておけばよかった。
その上、鮫谷の後ろから白井とその仲間たちがやってきた。最悪のタイミングだ。もし白井が鮫谷と組んだら鈴音が恐れていた自体が起こる。
「白井、手伝ってくれ」
鮫谷の要求に白井は海人と鈴音とそして何故かあたしを見て考え込んでいる。なんかあいつと因縁あったけ──
「生徒会長と伊達男の邪魔をする気はねぇよ。ただ通れないからどいてくれ。ああ、あとそこの腰抜け野郎おめぇもだ。腕ねじりあげられてるマヌケ。お前のことだ」
その言葉は明らかな拒否だった。
「天津生徒会長、お取り込みのところを失礼します。話したいことがあるのでサッサと終わらせて生徒会室に来て頂けますか?」
鏡を出してチラッとだけ後ろを確認すると赤眼鏡を直す薙澤会計と副会長の田中と取り巻きたちが武器を手にしていた。
流れは決まった。サバゲー愛好会は戦意を喪失している。
いけ。二度と揉め事は起こす。分かったか。と海人が言って鮫谷を突き飛ばして放つ。
だが鮫谷は事もあろうに海人に殴りかかった。本当に懲りない奴である。
しかし、迎え撃ったのは予想外の人物だった。鈴音の左ストレートがカウンター気味にモロに顔面に直撃していた。その衝撃で歯が何本か飛んでいった。
だが鈴音もその反動で手を傷めたのか、指の付け根からは赤い血が垂れている。彼女が感染してたらウィルスを貰ったことになるし、鮫谷がウィルスに感染していたらその逆もありえる。
どちらにとっても損でしかない出来事だった。
慌ててサバゲー愛好会はその一撃でフラフラになっている鮫谷を抱えながら白井たちのグループを恐る恐る突っ切りながら逃げ出した。
覚えてろよ。と言ったのだろうか──よく聞こえなかった。
あたしは海人と鈴音に近寄って無事を確認する。さっきの怪我だけみたいだった。
それを見届けると薙澤と田中も取り巻きを引き連れて生徒会室の方へと歩いて行く。
鈴音はゴミを見るような目でそれを黙って見送る。
「すまない。助かった。礼を言うよ」
「お前の為じゃねぇよ。どいてくれ」
白井はまたあたしの方を見てる。本当に心当たりがない。
海人は鈴音の手をとって教室へと入っていく。治療の為と分かっているので追求しない。
何故か白井はあたしの隣を通り抜けるまで出来るだけ気付かれないようにしながらこっちを見ていた。バレバレだけどね。
「なんかあった?」
「思い出せない」
あたしは首を傾げる。全く思い出せない。だがそれより教室の中を覗く方が重要だ。
「海人君、今度、無謀なことをやらかしたら私が絶対に許さないから」
表情こそ穏やかだったが鈴音は完全に怒ってた。右手の親指と人差し指で海人の頬をつねっている。
「は、反省します」
海人は鈴音の左手にに消毒スプレーを傷口に噴きかけながら肩を竦めている。さすがにあたしも文句言っておくべきだった。
「こんな時なんだから無謀な行動は謹んでよ。それにインカムで連絡してくれたらいいのに」
左手に包帯を巻かれている鈴音が黙って聞いている。
あたしの海人への説教は5分くらい続くのであった。