発覚
あたしがアーチェリー部に向かっていたらまだはしゃいでる兎川がやってきた。
あ、いた。とこっちを見て手を振る。またろくな用じゃなきゃいいけど。
「外に行く前にした約束を果たしてなかったからその話をしにきた」
顔に出ていたのか、兎川は警戒を解いてくれと言わんがばかりに宥める。
分かった。と短く答えた。ようやくである。下手したら聞かずに死ぬところだった。
「アーチェリー部は入れるのか」
「開いてるでしょう」
二人でアーチェリー部部室へ向かう羽目になった。女二人とか全くもって色気のない話である。長身の女子生徒二人で妄想できる人には美味しいのかもしれないけど──
アーチェリー部に到着して一声掛けてみる。
「はい。開けます。あ、えーと元部長と微妙な仲の人ですか。そっちはイケメン系女子の兎川さんですね。これまた妙な組み合わせで……どうぞ、お入り下さい。お茶はいりますか?」
部長代理のこけしちゃん、今井ちゃんと呼ばれた子が中へ入れてくれた。部室を見渡したら彼女だけだった。見張りに残っていた弟くんも居ない。
「水道水を使ってない出来合いのものなら」
この発言に兎川も頷いた。あたしは適当な位置にあった椅子に腰掛ける。
兎川も話をする性質上近くの椅子に座った。
「冷たいのでいいですか?」
紙コップを取り出し、ペットボトルからほうじ茶を注ぐ。そしてその二つをあたしと兎川に差し出した。
あたしはそれを礼を言って受け取り、目で兎川に促す。
「今回の件、ウィルスが原因みたいだから水道水は飲まない方がいいかも」
「さっき元部長の使いが回ってきました。救助が来るまで持てばいいんですがところでお二人が揃うとなかなか目福でございます。都合上、ここを出て行くわけに行きませんので眺めてても構いませんか」
まるで召使いみたい謙った言い方だった。多分、ふざけてるんだろうけど、あたしは余り笑えない。でも彼女なりに明るく振る舞おうとしてるだけなのかもしれないので黙っている。
こんな状況で明るさを失うのは良い事ではない。
「那名側がいいなら自分は構わないよ」
「中身によらないかな」
あたしは少し思案する。海人と鈴音に何かあったら既成事実化を促してしまうから出来るだけ聞かれたくない。
「別に恋話の類いだから問題ないと思う」
「小生は見ざる聞かざる言わざるなので石だと思って下さい」
なんか怪しいけど信用するしかない。
ノック音がして遮られる。
「すいません。那名側先輩は居らっしゃいますでしょうか」
こけしちゃんが露骨に嫌そうな顔をした。口前で右人差指を立てる。彼女の前で話すなって事か。学園一の人気者でも嫌いな奴が居るんだなと思いながら黙っている。
「はーい。今開けます」
開け放たれると同時に和泉が転がり込んでくる。手には消臭剤と消臭スプレーが握られていた。
あたしは女子寮から持ってきたリュックの鍵を開けて未開封のタンポンを取り出して和泉の方に差し出す。
「本当に申し訳ありません。わたくし、タンポン苦手で出来れば使わずに済めばなって思ってたらこんな事になってしまって……とにかく頑張ってきます。これで失礼致します」
和泉はそれを受け取ってブレザーのポケットに入れた。
あたしは代わりに消臭剤と消臭スプレーを受け取ってそれをリュックの中に入れてしまう。
「あ、うん。頑張って」
そんな言葉にどう答えたらいいんだ。適当に相槌を打って追い払う事にする。
「はい。ありがとうございます」
嵐のごとく、和泉はアーチェリー部を去っていった。
厄介者を追い払えて安堵した今井が再びドアを施錠した。
「嫌いなんだな」
「あいつ、有名なお喋りですから。芍薬と百合が咲いてるようなとこに向日葵が割り込んできたらいい気分じゃないでしょう。自慢の庭園を荒らされたような屈辱でございます」
的確なのか的確じゃないのか微妙な例えに返答をつまらせる。
しかし、和泉の方が2年で先輩なのにえらい言われようである。兎川も咎めるつもりはないようなのであたしも何も言わない。今はそんな事をしている場合ではないのだから。
「とりあえず話してくれる」
兎川が今井を見た。
「どのくらい知ってる」
多分、兎川先輩と同じくらいには。と彼女が返す。
「なら大丈夫か。那名側は6月頃の異変には気付いてたのか」
「当然だけど海人が姉の結婚で振られてド凹みしてるのは知ってるよ」
なるほどと兎川が納得している。おい。お前が話すんじゃないのか?
「さすがにその辺りは知ってるか。あ、それであの話なんだな。自分が聞いた話は──」
兎川はほうじ茶を一口飲んでから語りだした。




