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幼馴染みは爆死するのが定め  作者: 明日今日
第二章 対策
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感染実験

 生徒会室を出ようとしたところを鈴音に呼び止められてあたしは科学準備室にやってきた。同じく呼び止められた兎川も同行してる。

 なんでこいつと抱き合わせなんだ。


「何をするつもりなの?」


「私たちがまず真っ先に確かめなければいけない事」


 その言葉の意味を聞こうとしたらレインコートを纏い、ゴーグルとマスクをした二人の人物がやってきた。

 何となくだけど海人と和泉かな。


「在庫の話は後回しでいいから言われたものを持ってきてくれた?」


「こんなので何するんですか?」


 和泉がこんなもんで何するんだと言わんがばかりの態度でクーラーボックスを鈴音に見せる。中身に関してはなんか嫌な予感しかしない。

 海人らしいレインコートの男がレインコートとゴーグルとビニール手袋とマスクを差し出す。それら一式を受け取った鈴音は制服の上からレインコートを着てゴーグルとビニール手袋とマスクを身につける。


「二人は離れて見ててもらった方がいいから」


 鈴音は和泉が科学準備室を開けるのを横目にそう言った。

 部屋の中に入った海人がビニールシートを広げ、和泉からクーラーボックスを受け取る。

 その間に鈴音は実験用マウスが入った檻と解剖用のメスをどっからか取り出してシートの上に載せた。


「これから感染してレウケるまでの時間を確かめてみるから」


 そういう実験ならクーラーボックスに入ってるのはろくなモンじゃない。つーかすぐに発症するのだろうか。ただしやってみないと分からないので黙ってみていることにする。


「とりあえず始めて」


 背中を負傷してる兎川は他人事ではないので焦ってるように見えた。


「代わろうか?」


 申し出る海人に鈴音は首を横に振って断る。

 クーラーボックスの蓋を開けてジッパー付きのビニール袋を取り出す。その中には人の手が入っていた。確かに和泉じゃなくても嫌がるだろう。そんな和泉はスマホでその様子を嫌そうに撮影してる。


「開始するわね」


 鈴音がビニール袋から手を取り出して解剖用メスで切ってその刃に血を塗る。まるでバターをバターナイフで掬うみたいにやってるので気持ち悪い。

 そして彼女はそのメスを檻の天井から差し込む形で実験用マウスの背中を浅く切ったのを確認して檻から離れて様子を見る。

 その場の全員が見守る中、マウスは反応しない。血液感染じゃない?

 数秒の沈黙が流れるが誰も反応しない。あたしたちの生死を分けるのだから。

 異変は起きた。

 それまで反応しなかったマウスの全身が震えだし、いきなり檻を破壊する勢いで暴れだした。ヤバい、これ、檻を突き破って出てくる。

 鈴音がメスで止めを刺そうとするが余りに暴れるせいで檻は科学準備室を駆けまわり、メスで攻撃しようとすれば自分が怪我をするのがオチだろう。


「貸してくれ」


 兎川は海人の言葉に杖代わりにしていたシャベルを投げる。

 受け取った海人はマウスが広げた檻の隙間からシャベルを全力で突き刺した。──マウスの首はシャベルに切断され、部屋の隅へと転がっていく。


「今日で一番ビビった」


 兎川が終わったのを見届けてから感想を述べた。

 撮れた?とあたしは和泉に聞いてみた。彼女は赤べこのようにコクコクと頷いてみせた。


「人間にもっとも近い豚じゃないにしても哺乳類のネズミでこれか」


 どこからかビニール袋を取り出した鈴音は転がったマウスの首を包む。生徒会長殿は意外にオタっぽい事を知ってるな。本棚から見てやっぱりオタク要素あるのかね。


「とりあえずウィルス性で変異まで時間が掛かったのは数秒か。切られたのに反応しなかったのは痛みを感じなかった?」


 誰よりも真剣な声の兎川。今一番やばいのは兎川と鈴音なのだからどうしても真剣になるよね。


「痛感覚が無くなるとか昔の中国映画に出てきたキョンシーだな」


 借りたシャベルに付いた血を拭き取りながら海人がボヤく。キョンシー?と和泉に聞かれて、中国の伝承にある歩く死人と答えている。


「でもそれなら痛みを感じてる間は人間だということだよね」


 あたしはそんな事を口にしていた。むーまた無意識に口が動いてる。


「なるほど、じゃあ、自分はまだ大丈夫だな」


 兎川は小躍りして飛び上がりそうな勢いだった。つーか、嬉しいのは分かるけどあたしに抱きつくな。そんな趣味はない。誤解されたら困るので海人の前でやめてくれ。

 仕方ないので背中の傷口近くに軽く触れてやる。

 慌てて兎川が離れて涙目であたしを睨む。


「痛いじゃないか!」


「あ、ゴメンナサイ」


 勿論、本心ではない。他の3人が察していたのかちょっと笑いを堪えているように見えた。


「と、とりあえずみんなに知らせてくる」


 大はしゃぎで科学準備室を出ていこうとする兎川。海人が引き止めてシャベルを返す。

 シャベルを受け取った兎川は兎のごとく走っていった。素は男っぽくないんだなとその後姿を見てつまらない事を思っていた。

 気になったのでスマホを構えたままの和泉に向き直る。


「いつまで撮ってるの?」


「……大丈夫ですよ。さっきの動画とは切り離してますから」


 あたしは無言で拳を和泉の頭頂部にグリグリ押し付けた。


「あ、ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。わたくしの魂のアーカイブだけに留めておきますから」


「留めんでいいわ! 消しとけ! 消しとけ!」


 和泉は渋々動画を消すような動作をしていた。スマホの事は分からないから本当に消したかは分からないけど。

 こいつが人気者なのは理解できない。面倒くさい奴だな。


「那名側さん、薙澤書記と副会長が呼んでます。なんでも火炎瓶の件でどうのこのとか」


 入り口のところで生徒会の庶務らしき女子生徒が首だけだしてあたしを呼んでいた。


 校庭で言った余計な一言のツケを払う事になったか。


「準備するから空き瓶だけ用意して5分後に校庭で待ってて」


 彼女は頷いて去っていく。

 あたしは科学準備室の棚からアルコールランプの燃料が入った缶を取り出す。


「と言う訳で行ってくるわ」


 海人のいってらっしゃいを受けてあたしは科学準備室を出た。

 荷物を置いてきたアーチェリー部に寄ってこないといけない。必要な事だけど気分は重い。

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