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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

キャットウォーク 猫のミケの足取り

作者: まひろ

ようやく書き終わったハロウィン様に起こしていたもの…しかしハロウィンは既に大分過ぎているしハロウィン要素皆無な作品……つまり唯の読み切りと化した。

多分なご都合主義で突き進んでいく物語りです、なのでありえねーというような事は多いのでご理解ください。

それでは拙い作品ですが楽しんでいただけたのなら幸いです。

 私がこの世に生を受けたとき、私には兄姉の数が6と母がいました。


 私は末の子として生まれた。


 成長は遅く兄弟姉妹の中で一番弱い。


 ある時を境に母には見向きもされなくなった。


 悲しかった、寂しかった、だから必死にアピールした……私はここにいるよって。


 だけど何も変わらなかった。


 ある日体調を崩した。


 家族はそんな私にやはり見向きもしなかった。


 次の日、目が覚めたらそこに家族はいなくなっていた。


 私はただ一人そこにポツンといた。


 私は家族に捨てられた。


 私はお荷物で、何も出来ず、家族にとって要らない子だったのだろう。


 私はこのまま何も出来ずに寂しく死ぬのだろう。


 寒かった……凍えそうだった。


 私の意識は闇に包まれていった。


 それからどれ位たったのだろうか……体が突然宙に浮いた、そして何かに温かく包まれた。


 口の中に甘い液が少しずつ入ってくる……おいしい。


 私は目を開けてみた。


 私の目の前には大きな顔があった。


「ミー……」


 突然の事に威嚇しようとしたが体は動かないし弱々しい鳴き声しか出せなかった。


「安心して、ここには貴方を虐める存在はいないわ」


 私は見たこともない存在に優しく抱えられていた。


 私は私を抱えている存在に助けられたようだ。


 私は何故か涙が溢れ止まらず泣き続けた。





 私を助けた者の存在は人間と言う種族らしい、そして世界は殆どが人間が支配している物のようだ。


 そして私を助けた人間の少女は『ユエル』と呼ばれて反応をする、どうやらそれが女の子の名前のようだ。


 そしてそんな女の子は私の事を……


『ミケー、ご飯だよ~』


 私の事をミケと呼ぶようになった。 どうやら女の子にとって私は『ミケ』らしい。 そして私には名前と言う物は無い、だから私は『ミケ』と言う名を貰おう。


『ミケ可愛い……』


 女の子の笑顔はとても落ち着く……私は何時しか『ユエル』が大好きになっていた。


 そんな穏やかな生活の中わかっていった事もある。


 まず『ユエル』についてだけどどうやら人間の中でもかなり格上のようだ。


 殆どの人間がユエルに傅き頭を垂れるのである。


 殆どの人間はユエルに無条件に降伏しているのだ。


 そんなユアルと対等な存在は今のところ2人しかいない。


 ユエルより大分歳を取っている男女の(つがい)だ。


 この2名はどうやらユエルの親のようだ。


 私の大好きな人はそんな人間社会の頂点に君臨しているらしい……まぁ私には関係無いことだけど。


 そんな穏やかな生活が二年ほど経つ頃状況に変化が生じた。


 ユエルが、私の御主人が目の前にいる男の子に頭を垂れている!誰だこのクソガキは!


 この後色んな所で情報を集めた結果、クソガキはオウジやらデンカなどと呼ばれている。


 そして時折アルファなどとも呼ばれている。


 御主人はこのオウジをアルファサマと呼んでいるので恐らく……いや、確定でアルファサマという名前なのだろう。


 しかし私にとってはこんな奴はクソガキで十分だ。


 それよりも問題なのはこのクソガキが御主人のコンヤクシャと呼ばれる者であることだ。


 このコンヤクシャの意味なのだがどうやら将来を約束した番の事らしい……私の御主人がこんなクソガキと番に?


 許すまじ!!


 本当に御主人に相応しいか私が見極めてやる!!


 決行は今日!敵は客室にあり!!



「ナ〜!!」(決闘にゃクソガキ)


『おや、これはユエル嬢の飼っているミケと言う名の猫だったかな、何処から迷い込んだんだい?』


 そう言うとクソガキは私を持ち上げやがった。


「フニャー!!」(何する正々堂々勝負しろー!!)


『うん、可愛いよね』


 そう言いながらこのクソガキは私の顎の下を刺激してきた。


「にゃ!?にゃにゃにゃにゃにゃ〜!!!」(なぁ!?やめるのだ、そこは、そこは、あ〜!!!)



「にゃ〜」(完敗です……認め無い訳には行かないか)


 私はクソガキの……元い、アルファサマの膝の上でぐったりしていた。


『アルファ様本日は……ミケ!?そんなところで何しているの!?アルファ様ミケが大変失礼を……』


『気にし無いで、僕が自分でミケと遊んでいただけだから』


「ナ〜」(御主人、アルファサマなら御主人任せられそうだぞ)


『もう!ミケは人の気も知ら無いで……』


 この事がきっかけかどうかは分からない、しかしこの時を境に御主人とアルファサマは互いの仲を深めていった。


 御主人の笑顔は増えていった。 御主人が幸せでこんな時間が続くのなら悪くないと思った。





 御主人と出合ってからそろそろ10年位になる。 最近尻尾の付け根がムズムズする何なのだろうか? まぁ分からないので気にしない。


 それよりも大事件が起きた!


 御主人は今年で15歳になるのだがそれに伴いガクエンのリョウと呼ばれる場所で生活するためにこの家から出て行ってしまうらしい。 私も御主人についていこうと思ったのだがリョウはペットキンシで私は入れないらしく連れて行ってもらえないらしい……ペットキンシってにゃんだ!?


 結局私は御主人のいるガクエンやリョウには連れて行ってもらえずこの家で留守番する事となるらしい……くぅぅ、アルファサマ御主人のことは任せたぞ!!


 そんな事があって数ヵ月後……私自身に変化があった。


 急な発熱、嘔吐それに伴う体調不良の継続……最近の体のガタから思った、私の寿命か……


 そして私の余りの状態に御主人はこの家に向かっているらしい、御主人に捨てられたわけでは無いことに安堵しながらこのような姿を御主人に見せるつもりも無かった。


 だから私は御主人がこの家に着く前にこの家から出ることにした。


 さよなら御主人。





 誰もいない森の中まで移動してきた。


 今まで飼い猫だった私がよくここまでこられたと思う。


 今私のいるところは国を跨いだ森の中の何処か……そしてここなら誰にも見つからないだろう。


 何故ならこの森は魔物の主と呼ばれる化け物がすんでおり周辺の街の人間は恐れてこの森に近づかないからだ。


 そして私はここで最後を迎えようと静かに目を閉じた。


 それから……夢を見た。


 鉄筋コンクリートのビル群、高速で動く鉄の箱……あらゆる場所に張り巡らされ綺麗に舗装されている石の道路、忙しなく歩く人々……そしてそんな中に私はいた。


 私には妻子がいた……しかし私はそんな妻子に顧みることなく仕事優先の毎日だった。


 妻はある時自殺した……末期癌の余命2ヶ月の宣告に私との今までの結婚生活……先の見え無い恐怖に絶望しての行動だった。


 子は私を憎んだ……妻を気に掛けなかった私を。


 子が残りそして歪な父子家庭となった。


 面倒な事に私は自身の子を養育する義務があり仕方無しにその義務を果たしていた。


 しかしその義務は残された子に生活費のみ与えるだけとなり、私自身は自身の子を顧みることなくいないものとして日々を過ごした。


 何年もそんな生活が続いた頃、罰が当たったのだろうか……ある時私は子に突き飛ばされた。


 落ち行く中最後に見た子の顔は……憎しみに彩られそして泣いていた。


 それを最後に私は目が覚めた……猫になった私は死んではいなかった。


 私の尻尾は二股に分かれており、前世と言える記憶を取り戻し化け猫となった。


 私は……『この記憶の自分は自身の子をどう思っていたのだろう?』そんな風に考えてしまった……しかしそんな考えに意味は無いのだ、前世は全ては終わっている。


 今の私は化け猫になろうが猫である事には変わりなく人間では無い。


 ただ強く思う……今の私は大切な人たちを悲しませる事はもうしたくないと……


 だから戻ろう……御主人の元に。


 ……あ、猫又とばれない様に尻尾は隠してから帰らないとね。





 家に戻ると御主人は以前住んでいた御主人の部屋にいた。


 御主人は部屋で一人泣いていた。


「ニャ~……」


「ミケ!! 何処に行っていたのよ、心配したんだからね。 ミケはもうおばあちゃんなんだから無理はしないで……」


 私は最初の頃のように、でもやっぱり最初の頃とは違う抱かれ方をしていた。


 御主人は私を抱きながら涙を流していた。


 だからここで誓おう……もう御主人を悲しませるようなことはしないと。


 それはそうとおばあちゃんか……猫又効果かはわからないけどもうおばあちゃんと言われるような身体能力じゃ無くなっちゃったんだけどね……


 それからは家を抜け出してご主人様の通う学園にちょくちょく顔を出したりしてる。


 最初の頃はその度に御主人からは驚かれ、怒られ、心配を掛けてしまうがやめる気は無い。


 一年も経つ頃には御主人も諦め「またか……」と言うような状態になった。


 ちなみにだけど……御主人の王都での家と学園は馬車で大体一日位の距離だったりするので今の私の身体能力だと二時間掛からない位で行けてしまう。


 そして実は御主人も一度も行った事は無いのだが御主人の家である公爵家の領地は珍しい事に国境付近だったりする。


 実に馬車で二週間ほど掛かる距離だ。


 普通は王都から離れれば離れるほど左遷みたいなものであり、母国との繋がりは弱くなっていくので御主人のような血筋だと基本的にこのような処置は無い。 基本的にはだが……


 簡単に行ってしまうとその国境付近のこの国からいえば辺境と言われる位置にある土地だが利用価値がもの凄くでかい。


 鉱山山脈に、広い肥沃の豊富な農地、更に多量の水。


 発展すべき物が全て揃っているのだ……故にこの地では戦争が絶えない。


 隣接する隣国がこの土地を常に狙っているのだ。


 だからこそ国は最も信頼の置ける……そして我が国最強である『ベルウッド・ハーデスト公爵』をこの地の管轄にしたのである。


 そう、御主人の正式名称は『ユーティリエル・ハーデスト』、『ベルウッド・ハーデスト』の最愛の一人娘である。


 つまり『ベルウッド公爵』が安全のために娘は常に王都に住まわせているのである。


 まぁ調べはしたけど公爵家とか正直どうでもいいわ……だって私猫だもん。


 そんな生活が続いていたある時……やはり変化は突然訪れる。


 それは季節が巡り御主人が最高学年に上がった年だった。


 その年の新入生の一人に目立つ物がいた


 その人物はティルナ・バース。 男爵家の一人娘である。


 彼女は何を思っているのか、人間社会の格上のオスを次々と篭絡しているのである。


 彼女の手腕は舌を巻くほど鮮やかなもので……まぁビッチの一言に尽きる。


 自然界において一妻多夫はナンセンス以外何物でもない……この雌は一体何を考えているのだ?


 ただコレだけなら何をやっているのかと思いながら放っておいた……しかしビッチの次の行動は私の逆鱗に触れた。


 事もあろうにこのビッチ……私の御主人様を貶めようと行動しだした。


 ほぉ~~~~~……いい度胸だ、私を敵に廻すか。


 いいだろう、化け猫の祟りを思い知らせてやろう。





「何で……何で主人公の私がこんな目に!!」


 ビッチが何かをわめきながら騎士団に連れて行かれている。


 今ティルナ・バース男爵令嬢と言うビッチは犯罪者として捕縛されたのだ。


 ビッチの両手は真っ黒に汚れていたのだ。


 祟りなどやる必要も無かった……ビッチの痛い腹をちょっと皆が見えるようにしてやるだけで勝手に自爆して行ったのだ。


 まぁ猫らしからぬことも色々やったが……今回こそ化け猫万歳と思ったことは無い、ただの猫のままだったのならここまで簡単に人間を誘導なんて出来なかっただろう。


 さて、ビッチの事そのものはこれで終わった。しかし問題点はまだ残る。


 ビッチに籠絡されていた多数の貴族子爵達だ。


 将来こいつらが国を背負うと思うと不安しか無い。


 まぁ知らなかったとはいえ犯罪者と関係を持っていたのだ、何かしらのペナルティはあるだろう。


 ……と思っていた時期が私にもありました。


 貴族子爵達の親がビッチ含めて全てをなかった事にしやがった……成る程こういう事を平気でするのか、アルファ王子本当にこの国大丈夫か?


 今回の件はこの国の行き先を不安にさせるだけで終わってしまった。


 しかしその後、御主人の学園卒業まで大きな事件は無く御主人は学園卒業と同時にアルファ王子との式をあげる事となる。


 そして1年後にユエルは長女を出産、アルファと共に決め『アーリィ』と名ずける。


 国の大イベントの連続で人々は数年前の事件など忘れていった。


 ちなみに最近では政務に忙しい御主人の変わりに猫である私がアーリィを世話してたりする。世話係どうした!?


 御主人その光景をみて流石はミケ!!と言っているが……御主人それで良いのか、私猫よ?まぁそんな事はいいかと思う。私もアーリィに懐かれるのは悪い気はしな……痛い!痛い!ひげを引っ張るな!!


 そんなこんなで私は幸せだった御主人とアルファ、それにアーリィそんな中に私が入っている……私の一番幸せな光景だ。


 こんな日々がずっと続くと思っていた。






― 一年後 ―


 この国は陥落間際となっていた。


 隣国の軍事大国に戦争を仕掛けられ、開戦と同時の相次ぐ味方の裏切りによりこの国の情勢は一気に悪化し今や風前の灯火となっていた。


「国王様、アルファ様共に戦死!」


 そして御主人の旦那であるアルファもそして国王までもがこの戦争で亡くなってしまった。


 最早この国に未来は無かった。


 この国の国王、そしてアルファを亡き者にした軍は3年前ビッチ事『ティルナ・バース』に籠絡されていたあの5名の貴族子爵たちの裏切者の軍であった。


 そしてその軍を指揮していた者は何とその『ティルナ・バース』本人であった。


 当時の面影は無く、片目を失い、悪鬼羅刹の形相をし禍々しいオーラを放ってはいるが『ティルナ・バース』本人であった。


 どうやって牢から逃げ出したのかはわから無いがビッチは力を手に入れこの国に復讐に現れたのだ。


 そして現在この国は最後の砦を御主人の父親であるベルウッド・ハーデスト公爵が守りを固めているが……時間稼ぎがせいぜいだろう。


 だけど時間稼ぎさえ出来ればそれでいい。御主人は娘のアーリィと共にこの国を離れる手はずになっているのだから……王族の血があれば再起は可能と言う事らしい。


 人間の理屈は今の私からすれば正直反吐が出るけど……御主人が助かるのなら何でもいいと思った。だから私もこの時間稼ぎに参加して暴れようと思う。


 ただ幾ら猫又の化け猫で怪物と言っても万の軍勢を相手にすれば私も殺されるだろうなぁ……だから最後に御主人に会いに行った。お別れを告げるために……


 王家の隠し通路……御主人はこれを通って脱出する手筈になっている。


 最早この通路の存在を知っているのは御主人と御主人の父であるベルウッドのみとなってしまった……だから安全な道だと思っていた……思い込んでいた。


 隠し通路の入り口に降り立った時……奥から剣戟の音が聞こえた。


 ありえないと思った……今この通路を通っているのは御主人と僅かな護衛だけのはずである、にも拘らず剣戟による戦闘音……いやな予感しかせず私は音のする方向へ駆け出した。


 そしてそこで一番見たくない光景を目の当りにした。


 そこに御主人の護衛をしている騎士は既に事切れており御主人がただ一人で立っていた。


 そんな無防備な御主人に敵の騎士はためらいも無くその剣を御主人の胸につきたてた。


 私は一番見たくない光景を止める事が間に合わなかった……


 そして御主人の胸を突いている騎士には見覚えがあった……あの裏切り者の貴族子爵たちである。その奥には……『ティルナ・バース』が口角を挙げ歪な笑顔で微笑んでいた。


 理性がとんだ……私は初めて化け物としての全力の力で奴らに攻撃を仕掛けた。


 私の体は獅子以上に大きくなり見えない速さで疾駆しまず御主人を突いている騎士の首を切り飛ばした。


 突然の出来事に裏切り者の騎士たちに動揺が走る、その一瞬の隙が彼らを絶命させた。


 私は左前足で騎士の一人の頭を叩き潰した。一人は牙で体を半分に食いちぎった。一人は二股の尾を使い絞め殺した。そして最後の騎士は化け猫の妖術で灰も残さず焼き尽くした。


 裏切り者たちは死んだことも分からずその命を一瞬のうちに散らしていた。


 後は『ティルナ・バース』をと思ったとき何かの攻撃を食らった。


 その攻撃により右前足を激しく損傷した。


「フミャアアァァァ!!?」


 激痛が襲う、一体何が起きたのか……視線を向けるとそこにいたのは禍々しい細剣を抜き放ち恍惚な表情で微笑んでいるビッチこと『ティルナ・バース』であった。


「あはははは、ここで待ち伏せしていればゲームの情報にある隠し通路にユエルが来ると思ってたけど……まさかここでラスボスに会うとは思わなかった……でも会ったなら倒さなくちゃね♪」


 一瞬で理解した、こいつはヤバイ……『ティルナ・バース』とは本当に人間か?


 出し惜しみの出来る相手ではなかった……だから私は全妖力を攻撃に回し放った。


 ティルナ・バースもこちらに向かって攻撃をしその力の余波が辺りを包んだ。


「あ~ぁ、これで終わりか……それじゃあ今度はちゃんとした場でお会いしましょうねラスボスさん♪」


 ティルナ・バースのその言葉を最後に辺りはすさまじい衝撃と共にいろいろな物を吹き飛ばした。


 後には何も残らずティルナ・バースも消えていた。


 私は化け猫としての姿も維持できずに猫又の姿になっていた。


「…ミ…ケ……な…の?」


 そこにはまだ息のある御主人が横たわっていた。


 胸には剣が突き刺さったままだがだからこそ出血の量がまだ少なく、また心臓では無かったためにショック死しなかった御主人はまだ辛うじで息があったのだろう……しかし誰が見ても助かりはしない重傷なのは明らかだった。


『……はい、私は貴女の飼い猫のミケです』


 だから私は御主人の最期をみとるため会話をする事を決めた。


『御主人を守る事も出来なかった事申し訳ありません。……この怨み必ずティルナ・バー「そんな必要無いですよ、ミケ」』


 私の言葉は御主人によって遮られた。そして続けて御主人からお願いされた。


「怨みなんてどうでもいいの……それよりも、アーリィを…娘を守ってあげて…私はもう駄目だから…もう、貴女位しか頼れ無いから……娘が生きて成長してくれるのが……私の最期の望みよ」


 御主人の腕の中には御主人の子供がいた。


 御主人は自分の子を守り抜いたのだ。


 そしてそんな御主人の望みは己ではなく一児の母としての娘の為のものだった。

 

 私の中で蠢く怨みの炎は消えはしない……でもそれは御主人の望みではなく……


『私の命に代えても御主人の子は必ず守るよ』


 私は怨みの感情を無視し御主人の望みを叶える事を選択した。


 それは状況は全く違えど遠い日の人だった頃の記憶の罪滅ぼしと……今世の母への当て付けもあったのかもしれない


「ありがとうミケ後お願いね……貴女は私の大切な親友よ」


 そう言ってユエルは息を引きとった……この場で生きているものは私とアーリィのみとなった。


『任せて、貴女の望みは必ず叶えるから……』


 私はそう意思表明をし彼女の……ユエルの血を呑んだ。






「!? 何かがこちらに突っ込んでくる、総員警戒せよ!!」


 森に向かい何かが疾駆していた。


 綺麗な白銀の髪、陶器のような白い肌、整った顔立ちに吸い込まれそうな青い瞳。


 この国では誰もが知っているだろうユエル王妃だった。


 片腕に幼児を抱えておりもう片方の腕は傷だらけ、満身創痍の風貌であり、武器らしき物も何も持っておらず敵兵がいる真ん中に突っ込んできたのだ。


「あれはユエル王妃だ、捕えよ!抵抗する様なら最悪殺しても構わん!!」


 兵士たちが一斉にげひた笑みを浮かべながらユエル王妃に殺到した。


 皆が皆甘い汁を啜れる簡単な仕事と思っていた、それが大きな間違いであるとも気が付かずに。


 先頭にいた兵士がユエル王妃に触れると思った瞬間、その兵士は辺りに血を撒き散らし爆散した。


 その音にビックリしたのか幼児が泣き出した。


 王妃は止まる事なく兵士の中央を駆け抜ける、そして幼児の鳴き声は止まず王妃が駆け抜ける道上にいた兵士たちは次々と爆散していく。


 余りにも理解でき無い事が立て続けに起こり兵士たちはパニックを起こし辺りは阿鼻叫喚の地獄絵図となった。


 そして王妃は森の中を突き抜けていった。


 王妃が通った後にはおびただしい量の血の道が出来上がっていた。


 後日王妃の亡骸は王家の隠し通路で発見されており、では森に走り抜けていった王妃は一体何だったのかという事になった。


 後にこの事は王妃の祟りとして語られる事となる。





 私は何時しか猫又になった時の森までアーリィを連れて逃げ延びていた。


 森に着くと同時に私は力尽きてその場に崩れた。


 助かったのはほぼ奇跡だった。


 ビッチとの戦闘で私は化け猫としての力をほぼ使い果たしていた。


 あの時点では私はもう御主人と会話する位が限界でアーリィを守りながら逃げる事は不可能だった。


 ただ私は猫又に至ったときある知識を知っていた。その知識の内容は……『本当に愛する者の血を呑む事は本物の化け物に至る禁忌なり』と言うものだった。


 私は御主人の望みを叶えるべく力を欲し御主人の血を呑むと言う禁忌を犯した。


 その結果は劇的に現れた。


 手足が引きちぎられるような痛みが、内臓を押しつぶされるような痛みが、頭の中をかき回されるような痛みが……そして自分が消えていくような恐怖を感じた。


 永遠とも思えるような苦しみが終わったとき……私は生きている限り永遠に苦しむであろう事を理解した。


 赤い血溜りに写る私の姿は二股の尻尾はあれどその姿は……御主人のものと瓜二つになっていた。


 禁忌を犯した者は永遠にその事を忘れるなと言う事なのだろう。


 されど……それによって得た力は御主人の望みを叶える為の十分な力になることが分かった。


 後は行動するだけだった……御主人の子アーリィと共にこの窮地を脱出し生きる事だ。


 悔やまれるは御主人の亡骸をそのままにするしかないと言う事……人化したての私では御主人の亡骸も抱えたままこの窮地を脱出する事が出来ないからだ……人化した時に傷もいえてくれればよかったのだけどそう都合よくいかないらしい。


 だからせめて御主人の顔だけは綺麗にしていった。


 さぁ、時間も掛けられない……おっと、服はしょうがないのでその辺の転がっている死体から拝借しよう、私としては服は煩わしいけど御主人と同じ姿の裸を有象無象に晒すわけにもいかない。


 アーリィ……御主人の一番大切な子供……御主人はもうお前を守ることは出来ないけど……私が必ず守るから……御主人の望みは私が必ず叶えるから……だから……安心して。


 そして私は兵士達のど真ん中に突撃して行った。


 目の前にいた邪魔な物は容赦なく吹き飛ばした。人化によって目で見た目標物に妖力を流し込めるようになり兵士達からすれば突如人間が爆発したように見えただろう。


 右腕が使えず左腕でアーリィを抱えている今この妖力爆弾はとても便利な物だった。


 しかしその爆発音に驚きアーリィが目を覚まし我前に迫り来る人、自分にかかる血飛沫に泣きだしてしまった。


 それも仕方の無い事だろう2歳の女の子にとって今のこの状況は恐怖以外何物でもないだろう。


「ごめんねアーリィ、すぐに安全な場所に行くから少しだけ我慢して」


 私はアーリィにそう話し掛け、鳴り止む事の無い爆音と幼子の泣き叫び声が響く地獄の赤い道を駆けていった。


 どれ位走っていたのだろうか、周りには兵士たちは既にいなくアーリィも泣き疲れかいつの間にか眠っている。


 それでも私は走り続けた、当てもなく走り続けていた。


 そうして動けなくなるまで走ると何時かの森にいた。


 この森は国境を挟んだ先にある。よくここまで走れたものだ……周囲に人の気配は無く要約危機を脱したのだと認識した。


 そしてアーリィの無事を確かめたところ……アーリィは息をしていなかった。


 何で?……何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で、何で!!?


 訳が分からなかった……どうしてこんな事になっている?


 兵士の攻撃は受けてい無いはずだ、外傷は何も受けてい無いはずなのだ。


 私は守れなかったのか?


 そんな時、何かが私に語りかけてきた。


『ふむ、禁忌を犯し姿形は違えど何時かの猫又では無いか……人の子の死骸か、どうした食わんのか?』


 そうしてそこに現れたのは龍だった。


『我はこの地を統べる王龍成り。どうした猫又よ、その骸食わんのか?』


 その存在は圧倒的だった。


 強いと思ったビッチが、禁忌を犯して強くなった私がゴミと思える程圧倒的な存在だった。


 そしてそれと対峙する事は死よりも恐ろしいものだった……しかし


「この子は、御主人の子供で私の守るべきものだ。それに手を掛ける事はしません!」


『おかしな事を言う。お主のその姿はお主の主人を食ったからだろうに、そしてその骸はその主人の子とくればお主が食さぬ理由などあるまい……それを食せば主は更なる力を得られるだろうに、それこそ主が殺したい人間など赤子の手を捻るくらいになれるだろう』


 私の言葉に龍はそんな風に返してきた。


 私の復讐したい相手?御主人の無念を晴らせる?


 ……違う……違う、違う!!


 御主人の望みはそんなものじゃ無かった!


 そして私の望みは御主人の望みを叶える事だったはずだ!


「違います。私の望みは御主人の願いを叶える事。御主人の子アーリィの……『成長』です」


 そうだ、御主人は復讐など求めていなかった。只々我が子の事を思い続けていたのだ。


 しかし龍の言葉は現実を突きつけてくる。


『だがその子は既に死し骸となっている。その願いは叶わずぞ……最も我ならば何とでも出来ようがな』


 そう、私の使命は既に破綻していた。


 普通なら何を言っても覆りはしない、しかし王龍はそれが可能だとでも言うように答えた。


 だから一縷の望みにかける事にした。


「その通りですね。……しかし王龍様、貴方は自分なら何とでも出来ると言っているように聞こえましたが?」


『その骸に生を再び戻す事は可能だ。しかし無意味な事を我は好まん。故に我は何もする気はない』


 王龍はできるといった。しかし王龍の言葉は一重に見捨てると言っているものだった。


「それは対価が必要という事でしょうか?対価が必要なら何をしてでも払いましょう。だからアーリィをお救いください」


 私は最早藁にも縋る思いで王龍に願うしかなかった。


 しかし王龍はさらなる事実を突き付けてきた。


『対価などそういう事では無い。お主気が付いておらぬのか?その子を骸にしたのはお主自身という事に……』


 王龍は言った、御主人の子を殺したのはお前だと……私がアーリィを殺した?


『お主は禁忌を犯しどう変わった?人に妖気を当てるだけで骸に変えられるようになっているのでは無いか?お主からは夥しい人の血の臭いがこびり付いておるぞ……その様な禍々しい妖気に間近で触れていた幼児がそうならぬ通が何処にある?』


 私がいたからアーリィは死んだ?


『例えその子の生を呼び戻してもお主がいれば直ぐに骸へと戻るだろう。故に無意味と言ったのだ』


 私の存在がアーリィを殺した……御主人の望みを絶った。


『理解できたか、猫又よ』


「あ、ああ……あああぁあああぁぁああぁああぁあああぁぁぁあああぁ!!!」


 何処までも落ちていく……まさしくそんな状態だった。


『それにしても不思議な猫又だの……禁忌を犯したのも、その子供を救おうとしたのも全て主人の為とはな……しかもそれ故に壊れかけ。何とも猫又らしく無い猫又だのぅ』


「王龍様……私は御主人の為に一体どうすればよかったのでしょうか?」


 私は自身が壊れていく中、王龍に答えを求めていた。


『ほぉ、禁忌を犯し壊れていく中でも最後まで主人を思うか……ここまでくるとむしろ異常だな面白い。猫又よお主の願い叶えてやってもよい……但し主が対価を払えるのならばだ』


 それは本当に最期の希望であった。


「っ!!私に払える対価ならばどんなものでも構いません」


『そうか、ならば【主の主人への思い】つまり主の記憶を差し出せるか?命ではない、安い物だろう』


 しかし総じて希望とは絶望に塗りつぶされる。


 私に対価として要求されたものは私にとって命よりも大切な私を形成しているものだった。


 それを失うと言う事は私が私でなくなると言うことだ、それは死よりも恐ろしい……だけど


「対価を払うのならアーリィを助けられるのですね?」


『然り、我は約束を違えぬ……主が対価を本当に払うのならばな』


今の私の願いは御主人の願いの成就……その為ならどんな事でもすると決めている。


「王龍様……私の記憶を対価にアーリィに再び生をお願いします」


『……いいだろう、その望み聞き入れよう』


「ありがとうございます……」


その言葉を最後に私はきえていった。

















「……………」


 何かが聞こえる。


「ア〜〜〜〜!!」


 何かの泣き声?


 目を開けるとそこは森の中だった。


 私の腕の中には幼児が泣いている。


 この子は誰?ここは何処なのだろう?


 そして気がつく……私の名前は何?


 見る限り既に成人している年齢なのだろう……にも拘らず私は名前を付けられた記憶が無い。


 そして分かった……あぁ、私は私というものが無いのだと。


 だって私の一番新しい記憶は……母親に捨てられたことなのだから。


 はっきりと覚えている母に捨てられた事を……何故か母自身の姿は思い出せないがそれだけは確かだ。


 だとすればこの腕の中にいる者は何なのだろうか?私の姉妹で一緒に捨てられた?いやいやいや、私末っ子だから下にいないよ?それにこの見た目の差……少なくとも姉妹とはいえないよ、むしろ親子?そんな風に悩んでいると声がかかった。


「ミ…ケ……マ…マー……」


 抱いている子が話したのだ、私の顔を見て……それよりもミケママ?……あーミケとママかな?


 つまりこの子は私をミケと言う母親と思ってる?そんなに似てるの?


「……あんたも家族に捨てられたのかな?私と一緒だね」


 ミケって人は何でこの子を捨てたんだろう……そんなの親になった事の無い私に分かるわけ無いか。


 問題としては何で私がこの子を抱いているのかって事だよね……まさか私がこの子の本当の母親で記憶喪失何て事……あるわけ無いか。


 つまりこの子と私は赤の他人正直言えばどうでもいい見捨ててもいい存在……だけど何故だろう、良心の呵責とか、同情とかそう言うのとは全く違う何かが警鐘を鳴らしている。


 その何かは全くわから無い……でもそれは私にとって一番大切な何か?……一番大切ねぇ今さっき自分で私は名前すら無い空っぽとか言ってたのにね。


「……よし決めた!何かよくわから無いけどどうせ何にも無い私だしあなたの『ミケママ』になってあげる。私は今日から『ミケ』だ!よろしくね……えーっとこの子に名前ってあるのかな?」


 何か無いか探すとそれはあっさり見つかった。この子を包んでいた布にアーリィと刺繍されていた。


「うん、これからどうなるかわかん無いけどよろしくね」


 気がつけば朝日が上ろうとしていた。


「月並みだけどこれがいい旅立ちとでも言うのかな?」


 何ができるのか、何が起こるのかわからないけど……私はこの子と、アーリィと一緒に生きていこう。


「さて、先ずは何をしようかな?」


 私は歩き出した、ミケとしての最初の一歩を。





 あの猫又、本当に驚かせてくれる。


 あの猫又を構成しているのは主人への思い。


 故にその記憶を失えば唯の猫に戻るのが通りだった。


 現にあの猫又は力の全てを失った、普通はそれで終わり……しかしあの猫又、何と人間になりよった。


 猫に戻らずに唯の人間になるなど前代未聞だった。


 しかし現にあの猫又は人化では無く人間としてそこに生きているのだ。


 我にも分からぬ不思議な事がこの世にはまだまだあるという事か。


 興味の尽きぬ猫又……いや、人間よな。


 どれ、暇つぶしとしてこの者たちを見守っていこうではないか……ただこの者たちの道は波乱に満ちているのであろうな、何と言ってもあの剣に見初められてしまっておるのだから。


 何ともこれからの人の世がどうなるか楽しみよな。


 そんな事を思いながらこの森の主の王龍はミケたちを見ていた。


 これより先王龍の言うようにミケたちの人生は波乱に満ちているのだがそれは又別の話。


 猫のミケの足跡はこれにてお終い。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 私が小学生の時に飼ってた猫も、私が登校してる途中まで後を着けて来たり、たまに学校に進入して来たりして来る時があったので、「もしかしたら、あの子もこんな感じで見守っててくれたのかな?」なんて、…
2015/11/26 22:49 退会済み
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