ゴーレム創造
◇◇◇◇◇
スキルを使うと、魔法陣が現れた。
その数は計り知れない。
大きなものから小さなものまで、それは徐々に数を増やしていき、隙間を埋めてやがて1つの形となる。
色は白。頭がでかく……いや、体も大きい。一言で言えば雪男というイメージだ。
「………」
雪男……いや、ゴーレムは何も言わない。
ズシンズシン移動して、ゆっくりとこちらを向くだけ。
「ハ、ハロ〜」
「………」
「こ、こんにちわ」
「………」
挨拶をしてみるもの、やっぱりゴーレムは何も言わない。
「あの……アリスさん。ゴーレムは喋れませんよ」
「それを先に言ってくれ!」
じゃあなんだ。喋れもしない相手に俺は喋りかけていたということか。
よくよく見てみれば、確かに口なんてない。大きな白い頭に、シュッとした2つの細長い目があるだけだ。
「それがゴーレムなら、マスターであるアリサさんの言うことに従うはずですよ」
博識なミリアムが丁寧に教えてくれた。
えっと、命令か……
「お手」
「………」
「おお…本当にお手をして……え、ちょっと、待ってこれ……ぐはっ!!」
「………」
ゴーレムは何も言わない。
マスターである俺を叩き潰しているのに、なんと冷静沈着な奴だ。
「だ、大丈夫かニャ!?」
「お、おお、大丈夫だ」
「……それはそれでどうかと思うニャ」
ケアリーの呆れたような声が聞こえる。
恐らく、ゴーレムの手が大きすぎて、俺の体ごと潰してしまったんだろう。普通ならかなりグロい事になっていたはずだ。
「ゴーレム、手を上げてくれ」
「………」
ゴーレムはゆっくりと手を上げて、俺はようやく起き上がれた。
しかし、これは不便だ。
「なあミリアム、シロの扱いに困るんだが」
「シロ……ああ、名前ですね。
そうは言っても、アリスさんはゴーレムに何を求めているのですか。
命令に忠実なのがゴーレム。悪く言えば命令しか聞けないのがゴーレムです」
「そうは言ってもなぁ……いや、ある程度の感情を持っていればいいんじゃないか?」
「だからゴーレムはそんな事を……いえ、アリスさんならどうにかするんでしょう。分かりました」
ミリアムは悟っていた。
これは期待に応えなければなるまい。
「シロ、命令だ。自我を持て」
「………」
これでどうにかなると思う。他の奴らがどうかは知らないが、俺のゴーレムスキルは最上位。どうとでもなるはずだ。
しかし、このままじゃ本当に自我を持っているか分からない。
……よし、脅すか。
「今からお前をミンチにする」
「!?」
驚くことに、シロの目は見開き、何言ってるんですかアンタは!? という声が聞こえてきそうだった。
「ミンチは嫌か?」
ブンブンと、勢いよく頭を上下に振るハク。これはつまり、俺が命令してもいないのに嫌がっているということだ。
後ろの方でミリアムが、分かってましたとばかりに頷いている。
「ハク、質問してもいいか?」
「……….」
「よし、じゃあお前は何が出来る?」
「………」
「ん? えっと……俺が、命令すれば、何でも?」
「………」
「そうかそうか、じゃあこの馬車を動かして欲しいんだ。
え、喜んで? ハクは偉いなぁ。
おいおい照れるなって」
頭の後ろをかき、若干白い顔が赤くなってる気もする。
片手でこの馬車を運んでいるあたり、力も相当ありそうだ。
「よしミリアム、これで問題解決だ」
「ええその通りです。本当に、全く、あなたは何者なんですか」
「それは自分で見極めるんじゃなかったのか?」
「……そうでしたね」
表情に疲れが見えるミリアム。立て続けにいろいろな無茶苦茶を見せられてしまったからだろう。
ま、いつか慣れるだろう。
「これで移動手段も出来た。
少しはモットモローも腹の足しになった。
次はどうするんだ?」
「それはアリスさん自身が決めてください」
「んー、じゃあとりあえず近くの町かなんだかに行こう。
冒険者ギルド、あるよな? な?」
「ありますけど?」
「よし、行こう!!」
テンション上がってきた。
これで絡んでくる冒険者がいれば……いや、別に絡まれなくてもいいけど。
自重?しないしない。 なんで自重をせにゃならんのだ。 国が敵対してくるなら国ごと相手になってやればいい。
「パパ、怖い顔してる」
ネルがそう言ってきた。……少しは自重をしようかな。
〜〜〜〜〜
1日では町に着けなかった。 場所はミリアムが知っているし、今は一直線にハクが馬車を動かしていてくれてるのだが、もう夜だということで、みんな寝ることにしたのだ。
もちろん、ハクも止まっている。動いていたら寝心地が悪いったらありゃしない。
「すぅ……すぅ……」
もう起きている者はいない。
だから俺も寝ようと思う。 ああ、ステータスはDEFだけunknown、つまり最高の状態にしている。
ーーー俺は全ての命令を破棄にした。それはミリアムが言っていた通り、主人である俺を殺しても問題は無いということ。
ミリアム達も、まさか俺を殺したりはしないだろう。恩があり、何より得がない 今のところ、俺に従っている方が楽だと思うはず。
ネルは俺の事をパパと言っているあたり、奴隷の中で1番信用できる。
……そう、俺はこいつらを完全には信用していない。
命令を破棄にしたのも好感度を上げるため。これから生活していく仲間かもしれない奴と、ギスギスした関係にはなりたくないから。
「はぁ……いつか、完全に信用出来るようになればいいけどな」
ハクはこちらを静かに見ている。自我を持っているとしても、俺に対する忠誠は変わらない。
今この時点で、俺が1番信用できる奴だ。
「良い奴だとは思ってるんだけど、本性なんて分からないし……どう思うハク?」
「………」
やっぱりハクは何も言わない。
ただ、頑張れと言っているような気がした。