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9/22

剣豪少女(下)

朝の五時


俺は琴美ちゃんと約束をした場所、川原にいた。


隣には琴美ちゃんがいた。


「では、早速ですが始めましょう」


「了解」


眠い。


こんなに早く起きたのは初めてだ。


俺は欠伸を堪えながら返事をした。


ちなみに褥は寝てます。


俺が出発するとき


「余は眠いからいかん」


と言って寝てしまった。


これは色々楽しむチャンスかと思ったが


「何かしたらすぐにわかるからな。その時は覚悟しろ」


と言われた。


チクショー・・・。


「それで?何から始めるのかな?」


気を取り直してやるか。


「これです」


琴美ちゃんが持ってきたのはタイヤとロープだった。


どこから持ってきたんだろう?


さっきまでなかったよな?


「これにロープを括り付けてっと」


琴美ちゃんはタイヤと自分の腰まわりにロープを結んだ。


「・・・もしかしてこれで走るの?」


「そうですよ。先輩の分も持ってきているんでどうぞ」


琴美ちゃんからタイヤとロープを渡された。


「先輩もこれを付けて下さい」


「・・・・・・」


重そうだな。


嫌だなぁ~。


「嫌・・・ですか・・・?」


「いやじゃないよ。すぐに準備するから待っててね(そんな悲しい顔しないでくれ!)」


「はい!!」


仕方ない、やるか。


俺は意を決してロープをタイヤと腰に巻き付けた。


「ではあそこの橋まで走りましょう」


・・・マジッスか。


琴美ちゃんが指を示した橋ははるか向こうだった。


あそこまでどれくらい距離あんだよ。


「大丈夫ですよ先輩。ほんの五キロですよ」


俺の意識が飛びそうになった。


「では行きますよー」


スタートの合図とともに琴美ちゃんは走り出した。


「ちょっと待ってって早っ!!」


猛スピードで走る琴美ちゃん。


嘘だろ。


タイヤ引いてるんだぜあれで。


もしかしたら結構このタイヤ軽いのか?


「良し。俺も行くぞ!」


俺は軽快に第一歩を踏み出した。


・・・あれ?


おかしいな?


めちゃくちゃ重いぞこれ?


下半身全体から伝わるタイヤの重さに驚いた。


こんなもの付けて走れるか!


「せんぱ~い。遅いですよ~!!」


遠くで手を振りながら待っていてくれる琴美ちゃん。


くそ!俺が女子に遅れを取るなんて一生の恥だ!!


動け俺の脚よ!!


「ぬうううおおおおぉぉぉーーー!!!」


俺は無我夢中で走った。


「さすが先輩!早いですね。私も負けてられません!!」


さらにスピードを上げる琴美ちゃん。


それに負けじとスピードを出す俺。


一体何をやってるんだろうな俺。


でも、琴美ちゃんの為だ。


約束したもんな。





「ハア・・・ハア・・・ハア・・」


し・・死ぬ・・・。


い・・・息が・・・できん・・・。


「先輩お疲れ様です」


五キロ先の橋にどうにかたどり着いた俺はその場で倒れた。


対する琴美ちゃんは息切れ一つしていない。


これは鬼神と呼ばれてもおかしくないな。


「琴美ちゃんは・・・元・・気・・だね」


息を整えながら言った。


「はい。毎日しているので慣れました。でもすごいですね先輩。初めてなのによく私についてこれましたね」


それは俺も不思議だよ。


ただ、負けたくないと思って無我夢中で走っただけなんだけどね。


良く耐えたよ俺の脚。


「これ、よかったらどうぞ」


琴美ちゃんはスポーツドリンクを渡してくれた。


「ありがとう。助かるよ」


そのドリンクを一口飲んだ。


「・・・これって」


前に飲んだことある味だった。


「特製ドリンクです。おいしいですか?」


「ああ、おいしいよ」


これってたしか琴美ちゃんが自分で作ってるドリンクだったな。


癒されるな。


「良かった。一休みしたらさっきの橋までまた走りますので」


・・・ここは地獄ですか?


結局その後もう五キロタイヤを付けて走りました。


・・・頑張ったよ俺。





朝のHR前


「亮治大丈夫?」


「伴崎様。具合が悪いのですか?」


「・・・・・・」


俺は机に頭を突っ伏してた。


あの後のことを話すと。


タイヤ引き10キロ⇒腕立て100回・腹筋100回・背筋200回を1セット(明日から3セット)⇒反復横とび1分間を5セット⇒素振り100回⇒黙想


とこんな感じです。


・・・いつの時代の青春を満喫しているスポーツ学生だよ。


幸い筋肉痛にはなっていなかったのがせめてもの救いだ。


「まったくだらしがない奴だな」


褥が軽く小突いてきたが俺のHP0だったので何も反撃が出来なかった。


「反応がないな」


さらに褥に小突かれる。


―――ツンツン―――


「・・・・・・」


「あら、本当ね」


―――ツンツンツン―――


「・・・・・・・・・」


「エリスもやって御覧なさい」


「・・・はい」


―――ツンツンツンツン―――


「だあぁぁぁーーー!!!止めろ!暑苦しい!!」


「「「あ、起きた」」」


「お前ら何だよさっきから!!俺疲れてんだよ!静かにさせてくれよ!!」


まったくこいつらは俺を弄んで楽しいのか!


「ああ、その通りだ」


「俺の心を読むな!!」


「まあいいじゃないそんなこと」


「よくないわ!」


「伴崎様これでも飲んで落ち着いて下さい」


エリスは胸元から飲み物を取り出した。


何でそんな所に入ってるんだ?


エリスさんの胸の間は4次元なのか?


そんなこと考えても仕方がない。


頂くとしよう。


俺はエリスさんからお茶が入っている缶を受け取った。


「ありがとう頂くよ」


ほんのりとエリスさんの体温が伝わって嬉しかった。


「―――プハァ~。お前らもエリスさんを見習えよ」


「「どうして?」」


そんな無邪気な顔で返さないでくれ。


「・・・もういい。疲れた」


俺は再び机に突っ伏した。


「それより亮治いつまでやるの?」


「・・・一週間だ」


「体もつの?」


「・・・どうにかもたせる」


「そう。あまり無理はしないでね」


「・・・了解」


「伴崎様。私に何か手伝えることがあれば言って下さいね」


「ありがとう。エリスさん・・・あ、そうだ」


俺はあることに閃いた。


「エリスさんって剣道できる?」


「剣道ですか?私はナイフは使えますが剣道は出来ません」


「そっかぁ」


やっぱりそううまく事は運ばないよな。


「あのそれが何か?」


「いや、琴美ちゃんの特訓相手になってくれたって思ったんだよ」


「そうですか。わかりましたその使命受けましょう」


「え?いいの?エリスさん剣道出来ないんでしょ?」


「見て覚えます」


「見て覚えるって・・・」


「大丈夫よ亮治。エリスは物覚えがいいから」


そんな簡単に言うが、剣道って難しいぞ。


「わかった。なら放課後剣道場に来てくれるかな?」


「畏まりました」


「私も行くわ」


「ああ。好きにしてくれ」


とにかくこれで琴美ちゃんの練習相手は出来たな。





放課後


俺とエリスさんは剣道場にきて見学をしていた。


さすがに部活動中に部外者が部活をしていたら邪魔になるからおとなしく見ていた。


「どうエリスさん?」


隣で見ているエリスさんに声をかけた。


「はい。だいたいは覚えました」


淡々と応えながらも目はしっかりと部活動に励む部員に視線を向けていた。


「・・・なるほど。こうやってああするのですね」


度々独り言のように声を出しながら熱心に勉強をしている。


俺はというと。


熱心に勉強しているエリスさんの横顔を堪能していた。


やっぱ綺麗だよな。


美人で周りに気が利いてて。


極たまに見せる笑顔が可愛いんだよな。


「・・・こういう人を彼女にしたいな」


「?。何かおっしゃいましたか?」


「あ、いや。何も言ってないよ」


「そうですか」


あぶねぇ~。


うっかり声に出してしまった。


気をつけなければ。


あれ?エリスさんの顔少し赤いような感じがするけど・・・気のせいか。


・・・ん?どこからか視線が感じる。


俺のセンサーが感知した。


どこからだ?


俺は視線を送っている人物を探した。


「・・・あ、・・・やべ」


「・・・・・・」


その人物は琴美ちゃんだった。


あれは拗ねているな。


面を被っていても俺にはわかる。


頬を膨らませてる。


可愛いな。


俺は琴美ちゃんに手を振って見せた。


「!!」


俺の行動に驚いたようだ。


可愛い反応を見せるじゃないか。


「あ・・・手が滑りました(棒読み)」


いきなり俺の股にナイフが突き刺さった。


「すみません。伴崎様。手が滑りました」


何食わぬ顔で俺の股付近に刺さったナイフを抜くエリスさん。


「い・・いや。気にしてないから大丈夫だよ」


息子が無事でよかったよ。


あれ琴美ちゃんがまたこっち見てるな。


いや、エリスさんの方か。


エリスさんも琴美ちゃんを見てるな。


何かあったのか?


「(・・・この鈍感が)」


「(何だよ急に話しかけてきて。俺が鈍感だと?どこがだよ)」


「(それが鈍感なんだ。いいから集中してみろ)」


よくわからないが褥に怒られてしまった。


部活が終わるまで俺は気を引き締めて見学をした。





「では、早速ですが始めましょう」


部活が終わって部員達も帰った後。


エリスさんは琴美ちゃんの前に立ってそう言った。


何か喧嘩売っている上級生見たいだな。


それに微かだけど怒ってるようにも見えなくもないが・・・。


「よかった。間に合ったわ」


その時麗香がやって来た。


「今から始まるぞ」


「あら、ちょうどいいタイミングだったのね」


麗香がエリスの方を見た。


「あら?珍しいわね」


「何がだ?」


「エリスが怒っているわ」


「え?エリスさんが?」


やっぱり怒ってたのか。


でも理由がわからん。


「亮治何かした?」


「いや、何も」


「そう・・・褥はどう?」


「こやつのせいだな」


「・・・やっぱり」


「???」


何かやったかのか俺?


「・・・まあいいわそれよりも・・・始まるみたいよ」


ああ、そうだった。


今から始まるんだったな。


俺たちは琴美ちゃんとエリスさんの試合に集中した。


「防具はつけないんですか?」


「必要ありません。遠慮なくきて下さい」


「怪我しても知りませんよ」


「それはあなたにも言えることです」


「おい。エリスさん防具付けてないけど大丈夫なのか?」


小声で麗香に言う。


しかし、麗香は


「必要ないわ」


その一言で返した。


「いや、怪我したらどうする」


「そんな子に私の付き人が務まるとでも?」


凄い説得力のある言葉だ。


「・・・それもそうか」


俺は納得した。


「さあ、無駄話はここまでにして私たちは見ていましょう」


「・・・そうだな」


お互いが距離を置き正面に向かい竹刀を構えた。


「ッフ!」


先に動いたのはエリスさんだった。


小柄な琴美ちゃんのさらに下から潜り込んでの胴狙いだ。


「ッツ!!」


それをどうにか防ぐ琴美ちゃん。


「ハアアアァァァーーー!!」


そして声と共に攻撃に移りエリスさんの手を狙う。


が、避けられる。


「タアアアァァァーーー!!」


しかし、そこからさらに攻めた。


攻め続ける琴美。


守り続けるエリス。


「なあこれどっちが優勢だと思う」


「そうねぇ・・・傍から見たら琴美ちゃんが優勢に見えるわね」


「そうだよな。でも、実際は」


「エリスね」


俺たちはその試合を見ながらそう感じた。


琴美ちゃんの攻めは確かにすごい。


多分だが、あの攻めを守りきれる人はそういないだろう。


てか、よく俺守りきれたな。


しかし、エリスさんはその上をいっていた。


剣道をしたことがなく、ただ見て覚えただけなのに。


的確に琴美ちゃんの攻めを受けきっている。


よく見るとその受け方も最小限の受けにして受けたダメージを軽減している。


やっぱり、麗香の付き人でありメイド長でもある彼女は凄いな。





早く!


もっと早く!


もっともっと早く!!


私はその一身で竹刀を振り続ける。


けれど、どの攻撃も防がれる。


まるで私の攻撃が手に取るようにわかっているような感じがする。


すごく気味の悪い感じだ。


けれど、今この攻撃を止めたら私は負ける。


攻め続けなきゃ!


「ハアアアァァァーーー!!!」


私はさらにスピードを上げた。


「・・・そこです」


「・・・え?」


でも、その瞬間私のバランスは崩れた。


押し返された。


私のスピードよりも速く私の竹刀を弾いた。


「勝負ありですね」


「・・・参りました」


・・・負けた。


まだ努力が足りないのかな。


「ダメだな・・・私」


「そんな事ないですよ」


「え?」


「琴美さん。あなたは十分お強いです」


「だったら・・・なぜ、勝てなかったんですか?」


「強いから勝つとは限りません。想いが強いほうが勝つ。私はそう思っております」


「・・・想い?」


「はい」


「エリスさんの想いって何ですか?」


「大事な方を守る事です」


そう言ってエリスさんはお嬢様の方を見た。


「大事な・・・方」


「はい。琴美さんにはいらっしゃいますか?大事な方が」


エリスさんにそう言われた時、私は先輩を見た。


先輩は私よりも強い。


でも先輩を守れるくらい強くなりたい。


そう感じた瞬間


「います!」


と声に出して言えた。


「・・・そうですか。ではその方の為に頑張りましょう。私もお手伝いさせていただきますので」


「ありがとうございます!でしたらもう一本お願いします!!」


「畏まりました」


頑張らないと。


自分自身の為に。


私に協力してくれる人の為に。


そして。


先輩の為にも。





「今日はありがとうございました!」


「いえ。大会まで頑張りましょう」


「はい!では、お先に失礼します」


琴美ちゃんは走って帰っていった。


「凄かったな。二人とも」


練習が終わり俺は麗香とエリスさんと三人で下校した。


琴美ちゃんも誘ったんだが自主トレがあるからとわれ断られた。


「あの後10本くらいしたけど大丈夫だったのか?」


エリスさんは琴美ちゃんが満足するまで相手をしてあげていた。


「はい。問題ありません」


涼しい顔でエリスさんは言った。


「琴美さんは才能もあり努力もしておられますので将来が楽しみです」


「でも、全部勝ったよね。エリスさん」


そう、エリスさんは琴美ちゃんに全勝していた。


「当たり前よ。私の付き人よ」


自慢しながら麗香が言った。


いや、お前が自慢するところか?


「そうですね。実戦慣れしている私の方が少しばかり有利でしたので」


「実戦って。奮戦地域でのこと?」


「はい。それに比べると剣道というのは当てる箇所が決まっておりますので容易に防ぎやすいものです」


「なるほどな」


「ですが彼女に追い越されるのも時間の問題かと感じました」


「・・・それぐらいの才能の持ち主なの?」


「はい。今は私の方が上ですが二年もするとどうなるか」


「さすが鬼神と呼ばれたことはあるな」


「でも、その鬼神に勝った亮治も凄いわね」


そうだよな。


まぐれにしても俺よく勝ったよな。


でも


「次は完全敗北だけどな・・・あ、そうだエリスさん」


俺の頭の中の電球が光った。


「何でしょうか?」


俺はエリスさんに頼み事をした。





それから一週間


琴美ちゃん俺とは毎朝トレーニングをし


放課後はエリスさんとの練習をした。


そして、大会の日


「琴美ちゃん大丈夫かい?」


俺は小さく震えている小動物(琴美ちゃん)に声をかけた。


「は・・・はい・・・だ、だい、じょうぶ・・・れす」


噛んだ。


カワイイ。


「大丈夫だよ。あんなに練習したんだから」


「は、はい」


「それに俺達もしっかり見ていてあげるから」


「は、はい」


「・・・今日はいい天気だね」


「は、はい」


「琴美ちゃん今日の下着の色は?」


「は、はい」


これは相当緊張しているな。


―――スパン!!―――


「何すんだよ!」


急にスリッパで叩くとは何事だ!


まったくけしからん!


「黙りなさい。殺されたいの亮治」


二人と死神が俺を凄い形相で見ていた。


「ごめんなさい」


ほんの軽いジョーダンだったのにひどいや。


「まったく私に無駄なことさせないで頂戴。琴美」


「は、はい」


まだ緊張をしている琴美ちゃんの正面に立ち少し屈んで琴美ちゃんの顔を見る。


その姿はまるで母と子みたいだった。


言ったら殺されるから黙ってるけど。


「怖い?」


その言葉聞き琴美ちゃんは正気になった。


「正直言うと・・・怖いです」


「やっぱり、周りの人の視線が気になる?」


「・・・はい」


「気にしなくていいのよ。あなたがここに来た目的は何?」


「・・・先輩と真剣勝負をする為です」


「だったらここで立ち止まってていいの?」


「よくないです!」


「そうよね。」


「はい!私頑張ります!!」


「頑張りなさい」


琴美ちゃんは会場に向かった。


「やるな麗香」


「褒めてくれるの?ありがと。でも私たちの手伝いはここまでよ。後は亮治が頑張るばんよ」


「わかってるって」


「では、行きましょうか」


俺たちは上の観客席で琴美ちゃんの試合を見守った。





「めえええぇぇぇーーーん!!」


「面あり一本!!」


「どおおおぉぉぉーーー!!」


「胴あり一本!!」


次々と相手の倒していく琴美ちゃん。


「やっぱ強いな」


「そうね」


「前よりも強くなってますね」


各々の感想を述べる。


「褥はどうだ?」


「興味がない」


褥にも感想を聞きたかったが、そっけない返事を返された。


そうだよな。


ゲーム我慢してるもんな。


そっとしとこう。


「それより亮治。大丈夫なの?琴美との試合」


「ああ、まあ頑張るよ」


「御武運をお祈りします」


「ありがとう。・・・さってっと俺はそろそろ行くわ」


俺は席を立ち上がった。


「どこに行くの?」


「剣道場に戻るんだよ。琴美ちゃんとの試合の為にな。二人はついて来ないでくれ」


「・・・わかったわ。琴美には伝えておいてあげるから」


「悪いな。褥。お前もついて来てくれ。協力してもらいたいことがある」


「嫌だ」


「・・・帰ったらゲームやらせてやるから」


「いこう」


げんきんなやつだな。


「じゃあな。後は頼む」


俺と褥は会場を後にした。


「・・・エリス」


「何でしょう。お嬢様」


「亮治うまくやるわよね?」


「問題ないかと」


「そう。さあ琴美の決勝戦よ見届けましょう」


「はい」






早く!


もっと早く!


「ハア・・・ハア・・・!」


早く学校にいかないと!


先輩が私を待ってる!!


「先輩!私優勝しました・・・って先輩はどこですか?」


賞状とトロフィーを抱えて来たのに先輩の姿が見当たらなかった。


「おめでとう琴美」


「おめでとうございます」


「ありがとうございます。あの、先輩は?」


「亮治なら学校の剣道場で待ってるわよ」


「わかりました!すぐに行きます!!」


私はそのまま会場を飛び出した。





「意外に早かったね」


「ハア・・・ハア・・・ッンク。・・・急いで来ましたから」


「ハハハ。そんなに急がなくても逃げないよ」


剣道場のドアを開けると先輩は防具姿で待っていた。


「どうする?少し休憩してから始める?」


「いえ、すぐに始めますので少し待っていて下さい」


「わかったよ」


私は再び剣道着に着替え、防具を身にまとった。


「お待たせしました」


「待ってなんかないよ」


優しく笑顔を向けて言ってくれる先輩。


「じゃあ始めようか」


「はい」


お互いが正面に向き合い竹刀を構える。


先輩との真剣勝負。


私は。


この勝負にすべての想いをぶつける!!


「行きます」


「・・・うん」


「ハアアァァァーーー!!!」


―――パシン!!―――


道場に竹刀のぶつかり合う音が響き渡った。


「てやあああぁぁぁーーー!!」


先輩。


「メエエエェェェン!!」


伝わってますか?


「ドオオオォォォーーー!!」


私の想い。


絶対に一本を取って私の気持ち伝えてみせる!


―――。


――――――。


―――――――――。


どれくらい打ち合いをしただろう。


いまだに私は先輩から一本を取れていない。


あの時と同じように、すべて防がれてる。


・・・でも。


きっと取れる!


今はそう確信が持てる!


あの嫌な感覚もない。


いける!


大切な人を守るために。


私は!


大切な人を超える!!


「!!?」


―――パアン―――


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・負けたよ」


「・・・・・・・・・」


「強くなったね。琴美ちゃん」


入った。


私の渾身の一振りが先輩の胴に入った。


夢見たい。


「あ~あ。せっかくエリスさんに稽古してもらったのにやっぱダメだったか。・・・琴美ちゃん大丈夫かい?」


「あ・・・いえ・・・大丈夫です。はい!」


「ならよかった」


放心状態になってた私を先輩は優しく声をかけて起こしてくれた。


「これで俺の手伝いは終わりかな」


先輩は面を外して一息ついている。


「先輩ありがとうございました」


「それは俺の方だよ。少しの間だったけど楽しかったよ。大会にも出られるようになってよかったね」


「先輩のおかげです。先輩に会わなかったら私、いつまでたっても臆病のままでした」


「そんな事はないよ。琴美ちゃんは強い子だよ。俺が保障する。」


「・・・強くなんてないですよ」


言おう。


「私・・・」


今ここで言おう。


「私・・・・・・」


言え!私!!


「私!先輩の事が好きです!!初めてあった時から。だから先輩を守れるくらい強くなろうと思って頑張ってきました。先輩の事は私が守ります!!だから!・・・私と付き合ってください!!!」


「・・・・・・・・・」


道場に沈黙が広がる。


この間がすごく長く感じる。


まるで一生分の人生を味わってるみたいに。


「・・・・・・・・・琴美ちゃん。顔を上げて」


私はゆっくりと顔を上げた。


先輩の口がゆっくりと開く感じがした。


「琴美ちゃんの気持ち確かに受け取ったよ。・・・でも、ごめん」


頭を金槌で殴られたような痛みが襲った。


「どうして・・・ですか・・・」


「俺は琴美ちゃんが好きになっていい男ではないからだよ」


先輩はそう言った。


哀しい顔をしていた。


「実はね。琴美ちゃんに隠し事してたんだ」


「隠し・・・事?」


「うん。琴美ちゃんは俺が努力をして君に勝ったって言ったよね。ほんとはね。努力してないんだ。あれは俺の才能で君に勝ったんだよ」


「・・・そんな・・・嘘ですよね」


「嘘じゃないよ。あの時の俺は何も努力をしていない。それで君に勝ってしまって傷つけた。だから罪滅ぼしの為にこうやって協力したんだ。大会に出られるようにね」


「・・・・・・・・・」


「そして、琴美ちゃんは大会に出られるようになった。恐怖心にうち勝ったんだ。それで俺の役目は終わり。これからは琴美ちゃんを影ながら応援したいんだ」


「・・・・・・・・・」


「だからね。琴美ちゃん。俺の事は忘れ―――」


「言わないで!!」


「・・・・・・」


「それ以上・・・言わないで下さい」


「・・・・・・わかったよ」


「・・・先輩の気持ちはわかりました。・・・でも、私と一緒に特訓した先輩は嘘偽りのない先輩だと思います。その先輩の姿を見て私の気持ちは大きくなりました。・・・私は今の先輩が好きなんです!」


「・・・・・・それじゃあ俺の命がダメなんだよ」


「・・・どういう意味ですか?」


「見てもらったほうが早いね。褥出てきてくれるかい」


先輩がそう言うと隣から一人の女性が出てきた。


「・・・え・・・なにこれ」


これは夢なの?


私は自分の目を疑った。


「こいつは褥と言って俺にとりついている死神だよ」


「・・・しに・・がみ」


「そう。俺は自分の命を延ばす為に女子を振らないといけないんだ。振らなかったらその場で魂を刈り取られて死ぬ」


「・・・そんな・・・」


「だからね。諦めてほしい。・・・ごめん」


私が好きになった人は私を振らないと死ぬ。


・・・そんなのないよ・・・。


初めて好きになった人なのに・・・。


「・・・・・・わかりました。先輩には生きていてほしいので諦めます。でも、先輩と一緒に過ごした時間は大切に思い出として閉まっておきます」


これが私の最大の譲歩。


でも先輩は


「悪いけどその記憶と想いは消させてもらうよ」


残酷な言葉をぶつけた。


「どうしてですか!?」


「残ってたらダメなんだ。俺に対する想いが少しでもあると生きられない。でも、安心して。それだけだから。大会にもでられるから」


「嫌です!これだけは譲れません!!」


「・・・ごめんね。褥・・・頼む」


「承知した」


白い着物姿をした女性が私の頭を掴んだ。


「い・・・や・・・」


「少しの間眠れ」


琴美ちゃんは褥に体を預けるように倒れた。





「終わったぞ」


琴美ちゃんが床に頭をぶつけないようにそっと寝かして褥は言った。


「サンキューな褥」


俺は眠っている琴美ちゃんを見つめた。


これで俺の命は救われた。


彼女も救われたはずだ。


・・・・・・。


「さってっと、琴美ちゃんが目を覚ます前に俺たちは帰るか」


俺は更衣室に入って着替えを始めた。


「亮治よ」


扉の向こうで褥が呼んだ。


「どうした?」


「なぜ今回はこんな振り方をした?」


「・・・・・・」


「今までのお前ならもっと壮絶に振っていただろう。なぜだ?」


「・・・言わないとダメか?」


「・・・・・・無理にとは言わん」


「・・・なら言わねぇよ」


「・・・そうか」


「でも、よかったな褥。これで今日からゲームが出来るぞ!」


「そうだったな」


「今日は俺が恋愛が何たるものか教えてやるから覚悟しろよな」


「ふふ。楽しみだな」


「よし!帰ったら速攻でやるぞ!」


「わかった」


「まずは二股してもばれないやり方からだな」


「・・・・・・」

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