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剣豪少女(上)

―――チュンチュン―――


・・・ん?朝か・・・。


窓から差し込める暖かな光と雀の鳴き声で目を覚ます。


「(今日は学校休みだからもう少し寝るか)」


俺は再び深い眠りに入ろうとした。


―――ムニュ―――


何だこのやわらかい感触は?


俺は重いまぶたを少し開けた。


そこには少しはだけた白い着物姿で寝ている褥の姿があった。


どうやら昨日遅くまでゲームをしていてそのまま寝てしまったらしい。


いつもは姿を消して寝ているのにな。


しかし、この感触は一体・・・。


俺は自分の手がどこに置いてあるか目を追った。


・・・・・・・・・・・・。


思考が停止した。


俺の手は褥の胸を掴んでいた。


あ、やばいな。


俺はすぐさまその手を離そうとした。


離そうとしたが。


手が動かない。


「くそ!なぜ動かん!!」


どうやら俺の手は俺の指示を無視して褥の胸の感触を堪能したいらしい。


やめろ!!死ぬ気か俺の左手よ!!


「・・・・・・・・ん」


やばい褥が起きる!!


早く離れるんだ!


しかし、俺の左手は言う事を聞かない。


そんなに気持ちいいのか!


畜生羨ましいな!


俺は左手の感触を堪能できないでいた。


死が間じかに迫っているからだ。


「・・・んぅ・・・」


あ、褥が目を覚ました。


「・・・もう朝か」


「・・・おはよう褥」


「ああ、おはよう」


「褥。落ち着いて聞いてくれ」


「何だ?」


「この現状を見て怒らないでほしい」


「現状?ああ、これは余が悪い。姿を消して眠るのを忘れていた」


「いや、それじゃない」


「では何・・・だ・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」






俺は今川原でランニング(全力)をしている。


休日に体を動かすのっていいな。


「またんか亮治」


待ちません。


俺の後ろには褥がいる。


般若のような形相で。


あの後、俺は褥の攻撃を避け外に飛び出した。


意外に二階から飛び降りても怪我しないんだな。


そして、そのままリアル鬼ごっこへと発展している。


「怒ってないから止まれ」


般若の顔をした褥が追って来る。


「怒ってるだろ!その顔見たらわかるわ!」


「いいから止まれ。少し痛い思いをするだけだ」


「少しじゃないだろ!大体姿を消して寝てないお前が悪いんだろ!!」


「それはお前が悪い。お前がやっているベームが気になって眠れなかったのだからな」


「人のせいにするんじゃねぇよ!!それにゲームな!」


昨晩、この前のRPGの続きをし無事エンディングを迎えた俺は恋愛ゲームをしていた。


その恋愛ゲームが曲者だった。


まず、ヒロインの子も可愛かったが、その他の女の子も皆俺好みの絵で最初にどの子から攻略するかで一時間ほど悩んでしまった。


攻略する子を決め手からはもっとひどかった。


簡単に言うと泣きゲーだ。


ストーリも神ががっていた。


最後の方なんて泣きながらプレイしていた。


そして、褥はというと


最初は


「ベールで恋をして何が楽しい」


と言っていたが


「・・・中々興味深いな」


に変わり


「この女子・・・意外に可愛い所あるな」


に変化し


「待て。違うこれは逢引ではない。待ってくれ」


変心し


「ああ。よかった。思いが伝わったか」


涙を流してた。


鬼の目にも涙を間じかで実感した夜だった。


そうして夜が吹け今に至る。


しかし、さすがに疲れてきた。


だけど足を止めたら終わってしまう。


だが、何時までも逃げ続けてられるものではない。


こうなったら・・・やってみるか!


俺は走るのを止めた。


「観念したか」


褥が鎌を構える。


「褥。賭けをしよう」


「・・・賭けだと?」


「ああ。そうだ。俺が勝ったら今回の件はチャラだ」


「お前が負けたらどうする?」


「この命やるよ」


「・・・・・して内容は?」


どうやら乗ってくれたらしい。


「その鎌で俺の体、どこでもいいから攻撃しろ。正しチャンスは一回だけだ。俺はそれを避けるか捕らえるかすれば勝ちだ」


「なるほど失敗したら死ぬということか・・・おもしろい。ではいくぞ」


間髪入れずに鎌を振りかざしてきた。


焦るな!落ち着いて褥の手を見るんだ。


俺は鎌ではなく褥の手と腕も見ていた。


「見えた!」


俺は鎌を真剣白刃取りで受け止めた。


・・・人間やれば出来るもんだな。


「・・・俺の勝ちだ」


「・・・・・・仕方ない。今回は水に流そう。・・・しかし、そんな芸当が出来るとは、お前何かしていたのか?」


俺に取られたのが意外だったのか、少し驚いてた。


「ああ、中学のときに剣道をな。まぁすぐ止めたけど」


「そうか。・・・才能があるな」


「知ってる。俺は才能の塊だ」


「・・・なぜこんな奴に天は幾重も授けたのかわからんな・・・」


ため息交じりでそう言って褥は姿を消した。


「ふぅ。助かった」


緊張が一気に解き放たれてその場に座り込んだ。


その時だった。


「大丈夫ですか?」


誰かが俺に声をかけてきた。


声のほうを振り向くと


トレーニングジャージを着た小柄な女子がいた。


「(日本人形みたいだな)」


俺はそう思った。


悪い意味ではないからな?


いい意味でだぞ。


「ああ、大丈夫だよ。ちょっとランニングのしすぎで疲れただけだよ」


彼女を心配させないようにそう言った。


「そのまま心臓が破裂すればよかったものを」


姿を消している褥が言う。


俺の堪忍袋が破裂しそうだ。


「でしたらこれをどうぞ」


その子はそう言ってスポーツドリンクを渡してくれた。


「え?いいのかい?これ君のだよね?」


「私は大丈夫です。これでも鍛えてますから。それよりも早く水分補給しないと倒れますよ」


軽い微笑を向けて言う彼女は可愛らしかった。


「そのまま干からびてしまえ」


お前は可愛くない。


「ありがと。遠慮なくもらうよ。えっと名前聞いてもいいかな?」


「私は宮野琴美みやのことみと言います。こう見えても高校一年生です」


てっきり中学生かと思った。


「そっか。琴美ちゃんかありがとう」


俺は琴美ちゃんからもらったスポーツドリンクを飲んだ。


「ん?これ変わった味だね」


そのドリンクはほのかに甘かった。


「ええ。これは私が作った特性のドリンクです。中に蜂蜜が入っているんです。私のお気に入りです」


「へぇ~おいしいね」


俺はそのドリンクをあっという間に飲み干した。


「ありがとう。おかげで助かったよ」


「いえ。喜んでもらえて光栄です」


琴美ちゃんはそう言うとストレッチを始めた。


「今から走りにいくのかい?」


「はい。今から家まで走って帰ります」


「何かスポーツしてるのかな?」


「・・・一応剣道をしています」


こんな小柄で剣道とはすごいな。


ちょっと想像がつかない。


あれ?でもどこかでみたような・・・。


思い出せない。


すべての女性を記憶している俺のメモリーに琴美ちゃんが出てこない。


「では失礼しますね」


俺が考え事中にストレッチを終えていた。


「ああ。頑張ってね」


「はい。伴崎先輩も頑張って下さい。では、失礼します」


琴美ちゃんは去っていった。


「いいねぇ。部活動に取り組む女子も・・・って俺自分の名前言ったか?」


「何を腑抜けている。さっさと帰るぞ」


「へいへい。・・・まぁいっか」


「余の嫁達が待っている」


「・・・お前相当はまったなあのゲームに・・・」


ゆっくりと歩きながら家に帰った。





次の日の朝


雲一つない晴れ晴れとした天気だ。


「太陽の光が眩しいな」


赤く充血した目に目薬を指し眠気を覚ます。


「褥。大丈夫か?」


隣でうな垂れている褥に声をかける。


「・・・・・・ああ」


生気を感じられない。


死神だから当然だろうが普段はもう少し元気だ。


「そうきを落とすなよ」


「・・・・・・ああ」


「まだ嫁はたくさんいるだろ」


「・・・・・・ああ」


「・・・褥。好きだ」


「・・・・・・ああ」


ダメだ。上の空だ。


なぜこうなってしまったか簡単に言うと


家に帰った⇒昨日の続きをする(ゲーム)⇒ヒロインとデート⇒他の攻略中の嫁と遭遇⇒浮気ばれる⇒二人に振られる⇒戦意喪失


そして、今に至るわけだ。


「だからいっただろうが。一人に絞れって、一辺にやるからこうなるんだよ」


「・・・・・・ああ」


しばらくは元には戻らんな。


「亮治おはよう」


「おはようございます。伴崎様」


登校中に麗香とエリスに会った。


「二人ともおはよう」


朝から美女二人のあいさつ。


最高の朝だ。


最高の朝だが何かがおかしい。


「あれ?二人とも電車で通ってるんだよな?」


「ええ。そうよ」


「だったら道が逆じゃないか?」


「いえ。合ってるわよ」


「は?どういうことだ?」


「お嬢様は伴崎様と一緒に登校したくてここで一時間ほどお待ちになっていたのです」


「そういうことよ」


恥ずかしがらずに堂々としている麗香の姿が痛々しかった。


「・・・・・・ごめん。今度から待ち合わせして登校しようか・・・」


「そうしてくれると助かるわ。・・・ところで褥は一体どうしたの?」


「生気を感じられませんね」


「・・・そっとしといてやってくれ」


褥が元気を取り戻したのは昼休憩だった。





昼休み


俺は屋上で購買の買ったパンを食べていた。


こんないい天気のときは外で食べるのが一番だな。


「亮治。あ~ん」


「・・・・・・」


「伴崎様。お茶です」


「ありがとう。エリスさん」


「亮治口を開けなさい」


「いやだ・・・ムグ!」


「どう?おいしいかしら?」


「ッツ!・・・・・・殺す気か!?」


「そのまま死んでくれたら余は楽なんだがな」


美女たちに囲まれた楽しい食事時間。


羨ましいだろ?


変わってやってもいいぜ。


てか、変わってくれ。


さすがにずっと一緒にいるとしんどくなってきた。


だけどそんなことを言ったら後が怖いしな・・・。


あ~誰か来てくれないかなー。


―――ガチャ―――


そんなことを思っていた時、屋上のドアが開く音がした。


「あ、伴崎先輩お久しぶりです」


小柄で日本人形みたいその子は礼儀正しくお辞儀をした。


「久しぶり。琴美ちゃんってこの学校の生徒だったんだね」


「あら?知り合い」


「ああ。昨日知り合ったんだ」


「始めまして一年生の宮野琴美と言います。あの、お邪魔でなければご一緒してもいいでしょうか?」


「麗香、エリスさんもいいかな?」


「ええいいわよ」


「かまいません」


「どうぞ」


「ありがとうございます。失礼します」


そう言って琴美ちゃんは俺の向かい側に座った。


「琴美ちゃんはいつもここで食べてるの?」


「はい。晴れている日はいつもここで食べてます」


琴美ちゃんはおにぎりを取り出した。


「足りるの?」


琴美ちゃんからしては普通サイズのおにぎりだろうが、俺からして見れば最悪一口で食べきれる大きさだった。しかもそれが3つだけだ。


「あ、大丈夫です。私小食な上によく噛んで食べるので、これくらいがちょうどいいんですよ」


そう言うと琴美ちゃんは小さな口でおにぎりをチビチビと食べ始めた。


「・・・・・・」


―――モグモグ―――


「・・・・・・」


―――モグモグ―――


「・・・・・・」


―――モグモグ―――


あ~何かすげー癒される。


琴美ちゃんの食べる姿いいなぁ~。


あんなに小さなおにぎりを一所懸命食べて。


琴美ちゃんからマイナスイオンが出ている感じがする。


「琴美ちゃんお茶飲む?」


「んぐ・・・はい。ありがとうございます」


―――コクコク―――


いいなぁ~この感じ。


そういえば麗香が静かだな。


もしかして嫉妬してるのか?


そう思って俺は麗香の方を向いてみた。


「(・・・俺と同類か・・・)」


麗香も俺と同じ心境だった。


エリスさんも無表情だがまわりのオーラから俺と同じ感じがする。


褥はどうなんだ?


「・・・・・・・・・」


無表情だった。


いや、何か考え事をしている感じか?


あとで聞くとするか。


今はこの空間を堪能したい。


俺達は琴美ちゃんが食べ終わるまで終始和やかな空気に包まれていた。





「ご馳走様でした」


琴美ちゃんはきちんと手を合わせて食事を終えた。


「あの。伴崎先輩。少し聞きたいことがあるんのですがいいでしょうか?」


「何かな?」


「昨日のあれは自主トレーニングなんですか?」


昨日?


ああ。あの鬼ごっこか。


琴美ちゃんには見えないからそう見えたのか。


「うん。そうだよ。たまにああやって体を動かしているんだ」


平然と嘘を言ってのけた。


「亮治。何のトレーニングをしてたの?」


小声で麗香が聞いてきた。


「鬼ごっこだ」


褥が教えた。


「・・・何をしたの?」


「言ってはならんぞ。亮治」


「言わねぇよ」


言ったら何されるかわかりきってるからな。


「何か部活はやっているのですか?」


「美術部に入っているよ」


「そうなのですか。・・・もったいないです」


もったいない?


俺はそうは思ってないんだがな。


「あの時の伴崎先輩・・・すごかったです」


琴美ちゃんの顔は少し寂しそうにしてた。


何かやってたか?


今まであった女の事なら忘れた事はないが・・・。


でも、俺、琴美ちゃんに合った記憶ないしな。


「あの・・・先輩・・・」


「何?」


「いつでもいいので今度私の部活に来てもらえませんか?」


琴美ちゃんが入部している部活は確か剣道部だったな。


「わかったよ。近い内に会いに行くね」


「はい!お待ちしています。ではお先に失礼します」


お辞儀をして屋上から去っていった。


「可愛らしいお方でしたね」


「そうだね。妹でほしいよ」


「ロリコンね」


「何とでも言え。俺にとっては褒め言葉だ」


「亮治よ」


「なんだ褥」


「どうやらターゲットが決まったぞ」


「それって琴美ちゃんか?」


「ああ。どうするかはお前次第だ。好きにしろ」


そんな事決まっている。


「わかった。・・・麗香頼みがある」


琴美ちゃんには悪いが、俺は


「何かしら?」


命が大事なんでね。


「琴美ちゃんの情報がほしいんだ。調べてもらってもいいか?」


「勉強熱心なことね。いいわよ。調べてあげるわ」


「サンキュー。で、何時ごろ終わる?」


「明日には教えることが出来ると思うわ」


「じゃあ明日までのんびりするかな」


「伴崎様。お茶はいかがですか?」


「あ、貰うよ」


昼休みが終わるまで屋上でのんびりとした。





次の日


登校した俺に麗香が資料を渡してくれた。


「彼女(琴美)の情報よ」


「早いな。助かったよ」


「亮治の頼みですもの。急がせましたわ」


麗香に礼を言ってその資料を受け取り流し読みをした。


「・・・・・・」


なるほど。


大体把握した。


ただし、気になった事が一つあった。


それは、なぜここの剣道部に入ったのかだ。


この資料では琴美ちゃんは中学まで色々な大会で優勝をしている。


ただしそれは二年の九月までだ。


そこから先は大会には一切出場してない。


謎だ。


だけど、そんな事は俺には関係ないな。


俺は振ればいいだけの話だ。


どんな風に振るか考えないとな。


「どう?役に立ったかしら?」


「ああ。バッチリだ。ありがとよ」


「死なないようにね。私の為にも」


「麗香の為ではないが、まかせろ」


さて、琴美ちゃんはどう言えば壮絶に傷つくかな?


普通に暴言を吐くか?


それとも持ち上げて落とすか?


屈辱的に振るか?


悩みどころだな。


「亮治よ」


「何だ褥」


「考え事をするのはいいが一つだけ言っておくぞ」


「何だよ改まって」


「情には流されるなよ」


「俺が流されると思うか?」


「だといいがな」


それだけ言う年と褥は姿を消した。


何だあいつ急にそんなことを言って。


なんか変なものでも食ったのか?


褥の言った事なんて気にせずとりあえず放課後にでも琴美ちゃんに会って決めるか。





放課後


俺は琴美ちゃんがいる剣道部に顔を出した。


「あ、伴崎先輩。来てくれたんですね」


俺に気がついた琴美ちゃんが防具姿で来た。


何か小さなからくり人形みたいで可愛いな。


「部活お疲れ様」


いつもの仕事モードで笑顔を向ける。


「ありがとうございます。伴崎先輩よければ中でみていかれませんか」


琴美ちゃんはそう言うとパイプ椅子を用意してくれた。


本当ならこのままどこかに連れて行って振ろうかと思ったが、少しだけ待ってやるか・・・。


剣道部員の女子も俺に見てもらいたいそうだしな。


「そうだね。そうさせてもらおうかな」


琴美ちゃんが用意してくれた椅子に座って見学をすることにした。


剣道場なんて中学のとき以来だな。


何で剣道部に入部したっけ?


・・・・・・ああそうだ。


あの時新撰組のゲームをやっていて、それで剣道部に入部して色々試したんだよなぁ~。


意外と出来るもんだよな。


周りの奴らは驚いていたが。


「おい。伴崎の奴の技早くて見えねぇんだけど・・・」


「ああ、俺もだ」


「何やってるかさっぱりわかんねぇ~」


って部員たちが言ってたっけ?


俺にとっては普通だったんだけどな。


それで色々試した結果ほとんどの技を出来たから飽きて退部したんだよな。


入部期間一週間だったが、いい暇つぶしになったな。


その間に試合にも出されたけど、優勝しちゃったし。


いい思い出だな。


あ、いかん最近ゆっくりと休めてないから眠気が・・・。


「・・・・・・い」


「・・・せ・・・い」


ん?誰かが俺を呼んでる?


「と・・・も・・・・先輩」


「あの・・・伴崎先輩」


目が覚めるとそこには顔を覗かせている可愛らしい天使がいた。


どうやら思い出に耽っていたらいつの間にか眠っていたのか。


他の部員たちの姿もなかった。


「あ、ごめんね。寝ちゃってたよ」


女性の前で寝るとは、一生の不覚だったな。


「いえ、お疲れなのに態々(わざわざ)来ていただいたんです。私の方こそすみません」


優しいな。


「お疲れのところ申し訳ないんですが・・・いいでしょうか?」


「大丈夫だよ」


「その・・・私と試合をしてくれませんか?」


「試合?」


「はい。お願いします」


頭を下げてお願いされた。


どうしようか・・・。


正直面倒くさい。


でも、女子のお願いを聞かないのは俺のルールに反するし・・・。


何より寝てしまったのが申し訳ない。


・・・仕方がないどうせ振るんだし聞いてやるか。


「ああ、いいよ」


「!ありがとうございます!!」


嬉しそうにする琴美ちゃん


「余ってる防具はどにあるかな?」


「あ、着替え室に置いておりますので好きなのを使ってください」


「ありがとう。ちょっと待っててね」


「はい!」


俺は剣道部の着替え室に入って剣道着に着替え防具を身につけた。


久しぶりだなこの感覚・・・一週間しかいなかったけど。


俺は着替え室からでた。


「おまた・・・せ」


でると琴美ちゃんが待っていた。


待っていたが。


すでに戦闘モードだった。


並々ならぬオーラがたち込めてるような気がするんだが。


「・・・・・・」


防具を被っていてわからないが琴美ちゃん黙想しているのか?


正座をしているが微動だにしていない。


と、とりあえず琴美ちゃんの正面に座るか。


「・・・来られましたね」


雰囲気が全然違うんだが。


「あ、うん。準備できたよ」


空気が重たい。


「では、早速ですが始めさせてもらってもいいですか?」


面で顔が見えないが、鋭い視線が俺の体中に突き刺さる。


琴美ちゃんってこんな子だったのか・・・。


「ああ。は、はじめようか」


互いに立ち上がると竹刀を前に向けた。


「伴崎先輩」


「な、なに?」


「本気でお願いいたします。あの時のように」


「あの時?」


「はい。手を抜いたら許しませんから」


互いに一歩ずつ近づく。


近づくたびに琴美ちゃんの存在が大きくなっているように感じる。


あんなに小柄の女の子なのに。


今は、俺よりも大きく感じる。


「先輩震えていますよ?」


琴美ちゃんの指摘で初めて気がついた。


俺の手が震え、それが竹刀に伝わって震えてた。


この俺様が女性に対して怯えているだと?


「・・・怖いんですか?」


怖い?この俺が?


その言葉を聞いて俺は吹っ切れた。


所詮は俺の為に生きている女風情が俺を挑発するとはいい度胸だな。


いいぜ。見せてやるよ。


俺の本気を!!


「・・・・・・変わりましたね」


「おかげで吹っ切れたよ」


「では・・・・参ります!!」


琴美が突っ込んできた。


「!!」


胴狙いか!


―――パァン!!―――


道場に竹刀のぶつかる音が響く。


腕が痺れた。


あんな小さな体のどこに力があるんだよ!


「ハアアアアアアーーー!!」


琴美は続けざまに仕掛けてくる。


俺は一本取られないように守りに入った。


「ヤアアアアーーー!!」


「メエエエエンーーー!!」


「ドウオオオオオーーー!!」


力・技・速さすべてが一級品だな。


守りながら俺は冷静に判断していた。


どうして冷静に見れているのかだって?


俺にもわからん!


だけど、目で追える範囲だ。


最初の攻撃は正直驚いたが、徐々にコツを取り戻したのがあるな。


さすが俺。


試合中でも常に成長する。


かっこいいぜ。


っとそんな事考える余裕もでてきたか。


そろそろこの試合に決着をつけるか。





やっぱり伴崎先輩は強い。


最初の攻撃が当たらなかったのが最悪だった。


奇襲に失敗した者の末路は決まっている。


だけど、私はまだあきらめない!


先輩はまだ私の技量に追いついていない。


それがチャンス!


このまま打ち続けて守りに集中させて崩れたところを打ち抜く!!


だから今は攻め続けるのみ!


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


どうして?


どうしてなの?


あんなに打ち続けてるのに


打ち続けているのに!


私のほうが追い込まれている感じがする。


先輩はずっと守りに入って攻撃していないのに。


まったく勝てる気がしない。


それよりも


徐々に私のスピードについて来ている。


いや、違う。


私が打ち込むより早くその箇所を守っている!


私の行動が読まれている。


あの時と同じだ。


あの時の試合もこんな感じだった。


攻めている私が優勢のはずなのに。


まったくその気を感じられない。


そして、徐々に私の精神を追い込むその闘気。


私はそれに蝕まれて・・・。





―――パァーン―――


道場に響き渡る。


その後はまったく音がしなくなった。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


決着がついた。


「・・・・・・参り・・・ました」


「・・・・・・」


勝てた。


中々隙が出来なくて苦労したぜ。


だけど最後の一瞬、琴美ちゃんの張り詰めた気が弱まったのを感じて後の先で勝利を掴めた。


やれやれ、久しぶりにいい汗をかいた。


今日はぐっすり眠れそうだ。


とにかく今は面を取ろう。


あ~涼しくて気持ちがいいな。


「ふぅ・・・満足したかな?」


「・・・・・・」


「琴美ちゃん?大丈夫?」


強く打ちすぎたかな?


「・・・先輩やっぱり強いですね。あの時と変わりなくて安心したというか・・・」


琴美ちゃんも面を外した。


「あの時って?俺琴美ちゃんとの試合はこれが初めてだと思うけど」


琴美ちゃんは首を横にふった。


「先輩。私と先輩は一度大会で試合したことがあるんですよ」


「え?」


「―――――――。」


「!!?」





日が暮れた帰り道。


「どうした元気がないぞ」


珍しく褥が心配をしていた。


「そんな風に見えるか?」


「ああ」


どうやらもろに顔に出ているらしい。


「・・・・・・褥」


「どうした?」


「俺・・・琴美ちゃんを振ること出来ないかもしんねぇ」



作者の春です。

今回の話は剣道部に所属している琴美ちゃんとの話です。

琴美ちゃんは亮治に会ったことがあるのに亮治は覚えていない不思議な感じです。

そして最後に亮治が言った言葉。

なぜあんなことを言ったのかは次の話で。

次回もなるべく早くあげれるよう頑張っていこうと思っていますので、気長にお待ちください。

読んでくれた皆さん。貴重な時間を使っくれましてありがとうございます。

ではでは。

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