前門の虎後門の竜(下)
4日目の昼休み。
俺は約束通り屋上にいる。
あの後お琴を少し説明すると、屋敷に戻って何かあるかと思ったが何もない一日だった。
エリスの方も普段どおりの無表情で淡々とした口調で麗香と話していた。
無論、俺ともだ。
正直少し残念だった。
なぜかって?
あんな事があったんだから(中編参照)少しは態度が変化していると思ったからだ。
・・・まぁ、あったらあったで困るけど・・・。
「お待たせ致しました」
そんな事を考えているとエリスがやって来た。
さて、仕事モードに切り替えだ。
「約束。守ってくれたんだね」
「当たり前です」
相変わらずの淡々とした口調だったが、気のせいだろうか、前より温かみを感じる。
「あそこのベンチに座ろう」
屋上に設置してあるベンチに俺とエリスは腰を下ろした。
俺の隣にエリスが座っている。・・・幸せだ。
俺は売店で買ったパンを取り出し食べ始める。
エリスも昨日俺が渡したカロリーメイドをモクモク食べ始める。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
俺はエリスが食べる仕草を見つめた。
「なにか?」
視線に気づいたエリス。
「かわいい食べ方だね」
俺はそう言った。
エリスの食べ方は両手でカロリーメイドを持ち、リスみたいに少しずつ食べる食べ方だった。
正直。萌えた。
「そうでしょうか?」
俺の言った言葉に動揺もせずにモクモクと食べ続ける。
「・・・・・・」
モグモグ
「・・・・・・」
・・・モグモグ
「・・・・・・」
モグ・・・モグ・・・。
「・・・・・・」
「・・・あの伴崎様」
「何?」
「そんなに見つめられると・・・その・・・」
「恥ずかしい?」
「(コク)」
俺の中で何かが弾ける音がした。
「(ヤベーマジカワイイんですけど!何いまの反則だろ!?ああこのまま時間が止まればいいのに。てか時間よ止まってくれ!!)」
「(そんなに止めてほしいなら・・・止めてやるぞ)」
「(すいません!羽目外しすぎました!!だから俺の時間止めないで下さい)」
「(なら早く目的を済ませろ)」
褥の脅しで我に返った俺は再び仕事モードに入った。
「エリスさん一つ聞いてもいいかな?」
モクモクとカロリーメイドを食べ続ける愛眼動物に尋ねた。
「どうぞ」
「麗香さんの事だけど。本当に俺の事好きなのかな?」
エリスの手が止まった。
「どうしてそう思われるのですか?」
視線を向ける。
「俺にはわかるんだ。自分で言うのもなんだけど、俺っていろんな女性からもてるから好意を寄せている人っていうのがわかるんだよ。でね、麗香さんからはその好意が感じられないんだ」
「そうでしょうか?私にはお嬢様が伴崎様の事を愛おしく思われますが」
表情を変えず言い張る。
普通の人なら騙せるだろう。だが、俺にそれは効かない。
これがモテル男のスキルだ。
「エリスさん。嘘をついてもダメだよ」
「嘘などついておりません」
エリスに顔を近づける。
「エリスさん。本当の事を教えてほしい」
「先ほどからおっしゃってます」
さらに接近
「言えないことなのですか?」
「先ほどから言っております」
まだだめか。中々しぶといな。
こうなれば、最後の手段だ。
その前に
「(おい、褥)」
心の中で褥を呼んだ。
「(何だ?)」
「(今から俺がすることを見逃してほしい)」
「(何をするつもりだ?)」
「(彼女に抱きつく)」
「(痛みを感じずに地獄に連れて行ってやる)」
「(やめろ!誰も死にたいと言ってないだろ!?情報を聞き出す為だ。頼む!見逃してくれ)」
「(・・・仕方ない。しかし、少しでも変な事したら・・・わかってるな?)」
鈍く青光る鎌を見せびらかす。
「(・・・わかった。なにもしねえから。約束する)」
「(ならばいい。ほれさっさとやらんか)」
褥から許可をもらい実行に移す。
エリスの背中に腕を優しく回し抱き寄せ、俺の真剣(仕事モード)な顔へと近づける。
「なっ・・・何をするんですか!」
驚いた表情を見せてくれるエリス。
そのまま体を密着させる。
彼女を抱き寄せた時ほのかに甘い香りがした。
髪もツヤツヤして綺麗だった。
・・・それに密着しているから豊満な胸もじっくり堪能できる。
―――シュッシュッ―――
褥が鎌を研いでいた。
い、いかんしっかりしろ俺!
「エリスさん」
耳元で囁く。
「は、はい」
「お願いだ。本当の事を話してくれ」
「・・・・・・」
・・・どうだ・・・。
「わかり・・・ました」
・・・ドヤァ~。
「ありがとう。エリスさん」
俺は彼女から離れた。
「・・・・・ぁ」
「どうしたの?」
「いえ、何も」
離れた瞬間何か聞こえたが、いつもの彼女に戻っていたので多分気のせいだろう。
「実は今日から4日目後に当屋敷でパーティーがあります」
「パーティーかすごいですね」
「そのパーティーはお嬢様の婚約発表の場であります」
「え?」
「実はお嬢様には生まれた時から許婚おりまして、その日がその発表会場なのです。相手の方は今海外で経済の勉強をされているそうなのでお見えにはなりませんが、お嬢様その許婚との結婚が嫌でどうにか破談にできないかと考え、考えた結果、自分に彼氏がいれば旦那様は諦めてくれると思い・・・今に至ります・・・」
「・・・何だよそれ」
「伴崎様のお怒りはもっともです。私がとやかく言える立場ではございません」
「当たり前だ!!」
俺の声が空に響き渡った。
まさかこの俺が利用されるとは夢にも思わなかった。夢でも思いたくない。
「俺はその為だけに攫われて、麗香さんの彼氏役を演じさせるためにわざわざこんな事をして、金持ちのすることは違うな!」
「・・・申し訳ございません」
「謝ってすむなら警察はいらん!!・・・悪いがこの話を聞いたからには屋敷に戻るつもりはないからな」
そう言って屋上から出るドアに向かって歩き出した。
「・・・どいてくれ」
俺の前にエリスが立ちはだかる。
「どきません」
「・・・どけ」
「嫌です」
エリスはその場に座り込んだ。
「・・・・・・何をしてるんだ?」
俺は目を疑った。
エリスは座り込み俺に土下座をしていた。
「何のまねだ」
「伴崎様。どうかお嬢様に協力してください。私はお嬢様の為ならば如何様な事でもお受けします。だから、お願いします」
「あんな事を聞いて協力なんか出来るかよ!」
「お願いします。お嬢様を助けてください」
「・・・・・・」
「・・・おい伴崎」
傍観していた褥が話しかけてきた。
「何だよ」
「協力してやれ」
「何言ってんだお前?」
「お前の使命を忘れたか?」
血が上っていた俺の頭に思い出させた。
「・・・だけど」
「断るのならその魂今すぐ刈り取る」
首元に鎌を構える。
「さあ。選べ。その者に協力するか、命を捨てるか」
首に冷たい感触が伝わる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・わかった」
「何がだ?」
「協力する」
その一言を聞いて鎌を収める褥。
そしてそのまま姿を消した。
「お願いします。伴崎様」
頭を床に擦りつけながら懇願するエリス。
「・・・頭を上げてくれ」
「・・・返事を聞かせてくれるまで上げません」
なんて強情な方だろう。
それほどまでに麗香さんの事を思ってるんだな。
俺は一息深呼吸をした。
先ほどまで体が熱くなっていたが落ち着きを取り戻した。
「協力してあげるから。顔を上げて。いつまでもそんな所に顔を付けてたら折角の綺麗な顔に汚れがつきますよ」
手を差し伸べる。
「エリスさん・・・泣いてる?」
彼女が顔を上げた時頬に涙が伝っていた。
俺とした事が女性を泣かせるなんて・・・。
「ありがとう・・・ございます」
涙をぬぐい俺の手をとり立ち上がった。
「このご恩は決して忘れません」
「いいよ。俺もエリスさんには色々とお世話になっているから、気にしないで下さい」
「伴崎様」
「さあ、まだ昼休みはあるから一緒にご飯を食べようか」
「喜んで」
こうして俺は彼女に協力して麗香さんを助ける事にした。
後はどうやって俺の命を延ばすかだ・・・。
その日の夜
俺は部屋でくつろいでいると
―――コンコン―――
ドアのノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
返事をすると
「失礼するわ」
麗香が入ってきて、その後ろにはエリスがいた。
「亮治。4日後にパーティーがあります。あなたも出席しなさい」
「わかったよ」
「用件はそれだけよ。では、お休みなさい」
部屋から出て行く麗香その後ろを付いていくエリス。
去り際の際にエリスがお辞儀をした。
俺は軽く手を振ってあげた。
「お前考えはあるのか?」
褥が声をかけてきた。
「何のだよ?」
「パーチーだ」
「・・・パーティな。ああ考えならあるぜ。最高の場で最高に振ってやるよ。まぁ見てな!」
「そうか。期待しておるぞ」
「ああ、でも俺一人ではちょっと難しいかな。褥、ちょっと手伝ってくれないか?」
「内容にもよるが。言ってみろ」
「何。簡単な事だよ」
俺は褥にその内容を伝えた。
「・・・ふむ」
「どうだ。出来そうか?」
「・・・そのくらいならよかろう」
「サンキュー。じゃあ後はパーティー開催まで待つとするか」
ベットで横になり計画を考える。
「あ、そうだ」
「どうした?」
「エリスにも協力してもらわないといけないな」
俺は部屋から出てると、近くで仕事をサボってたメイドに声をかけた。
「そこのメイドさん。ちょっといいかな?」
「?・・・!は、はい!」
俺の顔を見て急に顔が赤くなるメイド。
中々可愛い反応じゃないか。
「エリスさんを呼んできてもらいたいんだけどいいかな?」
「は、はい。エリスメイド長ですね。畏まりました。部屋でお待ちください」
「ありがと。それと仕事サボってちゃだめだよ。仕事に集中している君の姿すごく綺麗なんだから」
俺はメイドの耳元で優しく甘い声で言い部屋に戻った。
戻る途中メイドが座りこんでいたが気にしない。
やっぱ俺って優しいな(女性のみ)あれであのメイドは俺に以外の男に興味を示さなくなって仕事に集中するな。
しばらくするとエリスが来た。
「何か御用でしょうか」
「エリスさん実は頼みたい事があって。いいかな?」
「何なりとお申し付けください」
「ありがとう。実は僕のポディガードをパーティーの当日にやってもらいたいんだ」
「私にはお嬢様を護衛する仕事がありますので難しいです」
「ああ、大丈夫だよ。僕と麗香さんが一緒にいる時やエリスさんが助けに入れる範囲でいいんだ。出来るかな?」
「それぐらいでしたら大丈夫です」
「ありがと。それともう一つお願いがあるんだ」
「何でしょうか」
「その日もしかしたら麗香さんにひどいことを言うかもしれないけど・・・ってちょっと待って!!」
俺が話している途中でエリスがナイフを投げてきた。
あ、危なかった・・・。左に一方動いていたら額からトマトジュースが溢れ出てた。
「たとえ伴崎様でもお嬢様の侮辱は許しません」
顔色を一切変えずにナイフを構える。
「あやつ中々の腕と殺意をもっておる。」
・・・褥さんそんなこと言わないで下さい。
にしてもやばいな、言葉しだいでは殺されるな。
「話を最後まで聞いて下さい!確かに麗香さんは傷つくかもしれない!でも彼女(俺の命)を救う為なんだ!エリスさんはそれを望んでいるんだろ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
汗が一筋流れる。
「・・・わかりました」
エリスはナイフを胸にしまった。
・・・・・・助かった。
「理解してくれて助かるよ」
「いえ。では、当日はそのようにしますので。他に何か御座いますか?」
「いや、話はそれだけだよ」
「では、わたしはこれで。失礼致します」
エリスは部屋から出て行った。
「・・・俺何回命の危機にさらされてるんだ・・・」
壁に刺さっているナイフをみる。
しかし、ナイフがなかった。
「あれ?どこいった?」
床に落ちたのかなと思い下も探すが見当たらない。
踏んでしまったら大怪我だ。
「褥。ここに刺さってたナイフ知らないか?」
俺は後ろを振り向いた。
「・・・・・・褥さん」
「何だ?」
「何してるんですか?」
「ナイフ投げの練習だ。あやつが出来たんだ。余に出来ぬはずがない。そこを動くなよ」
「おい。馬鹿!やめっ!?うわあああぁぁぁーーー!!?」
この後俺はどうにか生き延びる事ができ、褥さんにナイフ投げの練習の的を俺にしないようにお願いしました。
―――コンコン―――
「誰だ?」
「私です。お父様」
「麗香か。何のようだ?」
ドアを開けて麗香が入る。
窓から見える景色を見ながら一人の男性が立っていた。
彼はこの里嶺財閥の社長であり麗香の父親である。
「用件は何だ」
「・・・・・・」
「婚約の話か?」
「・・・はい」
「何度言っても無駄だ。これはお前が生まれた時から決まっている事だ」
「嫌です!なぜ私が生まれた時に決まった事なのですか!?私は里嶺の道具ではありません!!」
「では聞こう。麗香。お前は何を残してくれる?」
「・・・どういう意味ですか?」
「私に何を生み出してくれる?今この里嶺は地位も名誉も権力もある。それ以外で何を残してくれる?」
「・・・それは・・・」
「私がほしいのは跡取りだ。この里嶺にあった人物でないとだめだ。お前にいるのか?」
「・・・・・・います」
「・・・ほう」
「今度のパーティーで紹介いたします。きっとお父様も気に入る方です」
「・・・・・・そうか。楽しみにしている。話はそれだけか?」
「はい」
「ではもう休め」
「・・・失礼致します」
「(ほう。こやつがあの娘の父親か・・・)」
姿を消して一部始終を除いていた褥。
なぜこのようなことをしているかというと
「麗香の父親の情報がほしい」
あの時、亮治に頼まれたからだ。
「(中々の大物だな。さて、こやつの記憶でも見てみるか)」
褥は裾から巻物を取り出した。
その巻物を広げると中から麗香の父親の姿が現れた。
その巻物は他人の過去を見れる巻物で、死神はそれを見て魂を狩り閻魔様にその者の人生がどうであったかを伝え、天国か地獄を決めさせる。
巻物の中の父親は若く、まだ二十代の時だった。
褥はそのまま巻物を流し見で見る。
「(・・・ふむ。なるほどな・・・)」
見終わると巻物を裾の中に戻した。
「(・・・哀れな男だな。さてそろそろ亮治の所に戻るとするか。・・・む?)」
亮治の所に戻ろうとした褥だが動きを止めた。
褥の目線の先には麗香の父親だ。
「・・・・・・」
麗香の父親は何かを持っていた。
「(あれは・・・ペンダントか)」
父親はそのペンダントを開いた。
「(・・・・・・)」
褥はしばらくその光景を見ていた。
「お嬢様」
部屋に戻るとエリスが待っていた。
「何も言わないで」
「・・・畏まりました。・・・寝室のご用意は出来ておりますので」
「ええ。ありがとう」
麗香にお辞儀をして部屋を去る。
一人になった麗香は佇み。
「・・・お父様の思い通りになんてさせない!」
そう呟いた。
パーティー当日
「さあってと。気合を入れるか」
自室で軽くストレッチをする。
「亮治よ」
「何だ褥?」
「お前に頼まれた事やっておいたぞ」
「お!もうやったのか。さすがだな褥」
「造作もない」
「さっそくだけど教えてくれないか」
「いいだろう」
俺は褥から麗香の父親の情報を事細かに聞いた。
「以上がそやつの情報だ」
「・・・・・・」
「どうした?」
「何でだろうな」
「何がだ?」
「親子なのになんでこんなに辛いんだろうな」
「お前には関係なかろう」
「そうだな。じゃあそろそろ着替えるとするか」
「しっかりと寿命を延ばすんだな」
「へいへい」
俺はパーティー用の正装に着替え始めた。
―――コンコン―――
「あ、ちょっと待ってください」
ノックの音がしたので急いで着替えを終えた。
「どうぞ」
鏡で身だしなみを確認してから返事をした。
「準備は出来ているようね」
「ああ、ばっちりですよ」
「そういえば亮治。今日が約束の日ですけど、返事を聞かせていただきましょうか」
そう言えば今日が告白の返事を返す日だったな。
すっかり忘れてたぜ。
答えは決まっているがな。
「麗香さん。その返事今日のパーティーでいわせてもらってもいいかな?」
この場所で言ってもいいが、折角のパーティーだ。
最高の場所で振ってやるじゃないか。
「・・・わかりました。では、後ほど聞かせていただくことにします。では、参りましょう」
そう言って麗香は手を差し出した。
俺はその手を丁寧に受け取りパーティー会場へと向かった。
「すごいですね」
会場に着くとそこには多くの出席者がいた。
資本家・政治家・大手会社の社長・大物有名人などだ。
「・・・・・・」
「麗香さん。どうしたんですか?」
「いえ。何でもありませんわ」
「麗香」
麗香と俺の前に一人の男性がやってきた。
麗香の父親だ。
中々渋くてダンディーな人だな。
「・・・お父様」
「君が麗香の彼氏かい?」
麗香の父親が話しかけてきた。
「初めまして。伴崎亮治といいます。彼氏かどうかはまた後ほど発表させていただきます」
「里嶺高雅だ。亮治君。少し話がしたい、ついて来てくれるかね?」
「わかりました。麗香さん。少しの間失礼します」
「ええ。まだ時間はありますから行ってきなさい」
俺は高雅さんの後をついていった。
「入りたまえ」
案内されたところはどこかの客間だった。
「話って何ですか?」
「これを受け取ってくれ」
高雅さんに渡されたのは一枚の紙だった。
「・・・これって」
「君の好きな額を書きたまえ」
その紙は小切手だった。
うわぁ始めてみたよ小切手。本当にあるんだな。
「これで麗香から手を切ってくれたまえ。麗香に何を言われたかは知らないが、娘には婚約者がいる。君もまだ若いし中々いい顔もしている。これからの人生を他の道で歩みなさい」
「・・・・・・」
なるほどな。こんな父親じゃうまくいくはずもないか。
やれやれ、この俺様が金如きで動くとでも思っているのか?
こちとら命がかかってるんだよ!!
・・・でもちょっとはほしいな・・・。
「どうした?書かないのか?」
「申し訳ありませんがお断りします」
「・・・理由は?」
「今は言えません」
俺はそう言って小切手を破り捨てた。
「では、失礼します」
「はぁ~・・・」
「どうしたため息なぞついて」
「そりゃあため息もつきたくなるわ。あんな奴が父親なんて麗香も大変だな」
「その娘を今から振るお前も言えることか?」
「そりゃそうだな。・・・なあ褥」
「何だ」
「今回もターゲットを振ればいいんだよな?」
「そうだ」
「その振り方は俺の自由だよな?」
「ああ。どうした急に確認などして」
「いや、何か俺が言えたセリフじゃないけど・・・」
俺は麗香の事、エリスの事を思い返した。
父親に自由を奪われ、籠の中に閉じ込められている麗香。
麗香を自由にしてあげたいと心から願っているエリス。
「人として、親として最低な事する奴は許せねぇ。あの腐った根性叩き治してやる!!」
「・・・・・・そうか。しっかりと励め」
俺の言葉聞いた褥は何か嬉しそうに言った。
「ああ、最高のパーティーにしてやるよ!」
「お待たせ麗香さん」
パーティー会場に戻ると麗香の方へと戻っていった。
「早かったのね。・・・お父様と何を話していたの?」
「それは内緒です」
「・・・まぁいいわ。それより返事を聞かせて下さいますか」
「そうですね・・・」
俺はあたりを見渡した。
すると、高雅を発見した。
今が最高のチャンスだな。
俺は麗香の手を掴んだ。
「ちょっとどこに行くんですか!」
驚く麗香など気にもせず、階段を上り、下の人が見渡せる所に来て
「皆さーんちゅーもーくー!!」
俺は声を張り上げた。
その声を聴いて招かれた客人共が振り向く。
その中には
「あら。中々有望そうな男の子ね」
大人の魅力たっぷりの女性が呟いていた。
俺って奴はいるだけで罪な男だな・・・。
「何をしているさっさと始めろ」
褥に怒られしぶしぶ行動に移す。
・・・よし。高雅も見ているな。
「ちょっと亮治何をしているんですか!?」
「うるせえ少し黙ってろ」
「え・・・」
「はい皆さん注目ありがと。え~では早速だけど麗香さん」
「は・・・はい」
間の抜けた声で返事をする。
「あなたからのお付き合いの話お断りします」
大きな声でハキハキと下の皆さんにしっかりと聞こえるように言った。
会場がどよめいた。
しかし、俺はそのどよめきを一切気にもせずに
「麗香さん。実はエリスさんから事情は全部聞いたんだ」
「エリス!?一体どう言う事!」
麗香は後ろで付き添いをしていたエリスを見た。
「・・・申し訳ありません。お嬢様」
エリスは深々と頭を下げた。
「麗香さん。エリスさんを怒らないでほしい。彼女はあなたの為を思って俺に頼み込んできたんだ。・・・土下座をしてまでね。麗香さん。彼女は本当にメイドの鏡だよ。・・・それとね」
さあここからは俺の本音タイムだ!!
「この俺様を道具として使うとは愚かしいな!俺を利用して婚約を破棄させる?馬鹿かお前は!そんなことするんだったらなしっかりと断れよ。それとも父親が怖くて反抗も出来ないのか!?ふざけるな!嫌なものは嫌って言えよ俺様を利用するんじゃねぇよ!!甘えるな!!!」
「・・・・・・」
呆然と佇む麗香。
それを気にもせず俺は次の標的へと顔を向けた。
「そしておっさん!」
「・・・何かね」
悠然と佇む高雅い俺は言った。
「てめえも人の親だろ!母親が死んでから自分が娘を守らないといけないと思ったのは正しい!だけど、娘の自由まで奪う事はないだろう?嫌がる事をさせて幸せになれると思うか?おっさんにはもう麗香しかいなんだぞ!?死んだらどうするんだ!責任取れんのか!?家族だろ?宝物なんだろ?その首にぶら下がっているペンダントの中身を毎日眺めているんだろ!!ならちゃんと話し合えよ!自分一人で解決するな!!」
「・・・・・・」
あたりが静まり返る。
あ~スッキリした。
今俺は最高の気分だ。
今までのつもりに積もった鬱憤をすべて吐いてやった。
例えそれで俺の寿命が伸びなくても後悔はしていない。
こんな気持ち初めてだ。
「貴様!高雅様に何て事を!」
そんな事を考えていたら、ガードマンが現れ、俺を捕まえる。
「・・・その手を離しなさい」
「!?・・・い、いつの間に・・・!」
ガードマンの首下にナイフが向けられてた。
「・・・エリスさん」
「約束は守ります。さあ、その手を離しなさい」
「クッ・・・!」
「離してあげなさい」
「高雅様。・・・わかりました」
俺の元からガードマンが離れていく。
「亮治君。いくつか聞きたい事がある。いいかね?」
「応えれるならな」
「それでいい。・・・私の妻が亡くなっているとどうしてわかったのかね?」
「秘密だ」
「私のペンダントの中身をどうやって知ったんだい?」
「それも秘密だ」
「・・・最後だ。君は麗香の事をどう思うかね?」
「そうだな・・・。我侭で自分勝手で命令口調で人を見下して、正直、最低な女だな。だけどそれは世間知らずなだけだ。だけど、彼女に付き従っている人もいる。それは人望があるからだ。また、それらを超えて彼女は綺麗で魅力的で。一つ一つの行動に気品を感じる。いい娘だと思う」
「・・・そうか。参考になった。礼を言う」
「じゃあ俺は帰らせてもらうがいいか?」
「ああ。かまわないよ。彼を家まで案内してあげなさい。・・・伊藤」
「畏まりました。伴崎様。ご自宅まで案内いたします」
「サンキュー」
俺は執事の伊藤の後ろを歩く。
さてっと、この後は二人の問題だ。
俺の出番はおわりっと。
久しぶりに家に帰れるな。
まだクリアしていないゲームあるしな。
「じゃあ俺は帰るから後は二人で今後どうするかしっかり話すんだな」
そう言ってパーティー会場からを後にした。
「麗香」
高雅が娘に話しかける。
「は、はい」
まだ動揺が戻ってないのか声が裏返る。
「私の部屋で待ってなさい。・・・皆様には誠に申し訳ないが今日のパーティはこれでお開きとさせていただきます」
「麗香。入るぞ」
高雅が部屋に入ってきた。
入るとすぐに娘の対面のソファーに座り
「・・・すまなかった」
「え?」
お父様から聞いたことのない言葉を聞き驚いてしまった。
お父様は気にもせずに話を進めた。
「私はどうやら気づかないうちに麗香の事を苦しめていたようだ」
「いえ、私の方こそ・・・」
「婚約は解消したよ。先ほど婚約者の方にも連絡は入れた」
「大丈夫でした・・・か?」
「ああ。心配要らないよ。どうやらあちらの息子も麗香と同じ考えだったようだ。私が連絡を入れた事、喜んでいたよ」
「そうでしたか」
「・・・ところで麗香」
「はい」
「彼の事をどう思ってる?」
「彼って亮治のことですか?」
「そうだ」
正直なにも感情など生まれてなかった。ただ婚約を解消させるために利用した男。
「・・・何も感じませんでした」
「・・・・・・」
この一週間同じ屋敷で一緒に住んでいたけど、必要な時以外は会わず、話さないでいた。
「何も・・・」
けれど、あの会場で彼は私の中身を理解していた。あの短い期間で・・・。
「・・・でも」
会場で彼が言った言葉。
私は罵られた感じがしなかった。むしろ優しさを感じた。勇気を与えてくれた。そう、私はあの時に
「とても気になる男性です」
彼の事を好きになった。
その事を父親にしっかりと伝えた。
いついらいかしら、こうやってお父様と顔を合わせて話すのは。
「・・・そうか」
お父様は嬉しそうに頷いた。
「なぜ嬉しそうな顔をしてるんですか?」
「実はね。・・・私も彼の事が気に入ったんだよ」
お父様が気に入るとはよほどのことだ。
「彼に私の秘密がどうやって知られたかはわからないけど、彼は人の事を良く見ている。外見だけでなく中身もだ。それに度胸もある。あの若さでこれほどまで出来る人材は中々いない。・・・それに今こうやって娘と会話も出来るようになった」
「・・・そうですわね」
「それでだ。今更では遅いかもしれないが、・・・親子の絆を少しずつ修復していこう」
「はい・・・!」
その言葉を聞いた私は嬉しかった。今までいろんなものをもらってきたが、それよりも一番嬉しかった
「麗香何か言いたいことがあれば何でも言いなさい。私が出来る事なら叶えてあげよう」
「では、お父様。さっそくですが・・・」
私はお父様にお願い事を言った。
「・・・眠いなぁ~」
「あんな時間までゲームをするからだ」
「そう言う褥も目が赤いぞ」
「・・・お前が悪い」
朝の登校中。
俺と褥は昨日家に帰るとゲームの続きをした。
褥はテレビゲームを見ていただけだが、どうもこのゲームが気に入ってしまい
「亮治。早く次に進まぬか」
「危ないぞ亮治」
「中々手強い敵だな」
などといいながら楽しんでいた。
俺も久しぶりのゲームに熱中してしまい遅くまでやってしまった。
「なあ、褥」
「何だ」
「あれ本当によかったのか?」
俺は昨日のパーティーのことを話した。
「かまわん。あれは閻魔様も許可してくれた。問題ない」
「ならいいけどよ」
俺は正直寿命はいらないと思っていた。
ただ、麗香と高雅さんの関係を戻したかったからだ。
あれからどうなったかは知らないが俺はやれることをやった。
それなのに
「喜べ。閻魔様が特別に延命を許可してくれたぞ」
「へ~。でどれくらいだ?」
「三年だ」
「!!?マジかよ!!」
なんと閻魔様直々に今回の件での延命を許可してくれた。
しかも三年だぜ。
これでいっきに生き残れる事が出来た。
でも、何でだろうな?
俺はただやりたいことをやっただけなんだけどな。
・・・・・・まぁいっか!
「早くせぬと遅刻するぞ」
「そうだな。・・・待てよ。遅刻してきても悠然と登校する俺・・・それもありか」
「いかん眠気で手が滑った」
鎌がコンクリートに突き刺さる。
「なわけないだろ!学問は大事だよな!よし学校に到着するまでランニングだ!!」
「いい心がけだな。余も後ろから追いかけてやろう。よいしょっと」
鎌を構える必要あるのかな?
俺は学校に到着するまで死のランニングを味わった。
「亮く~んおは~」
「ああ。おはよう」
「伴崎君。おはよう」
「おはよう」
「亮治さんおはようございます」
「うん。おはよう」
教室に着くと女子が俺に群がり挨拶をしてくる。
そういえばこの感じ・・・一週間振りだなぁ~。ああ、生き返る。
エリスのおかげで逃げ回ってたからなぁ~。
その分いい思い出も出来たからいいけどな。
「は~い。皆席についてー。HRをするぞー」
「じゃあね亮ちゃん」
「また後でね」
「・・・しばしの別れ・・・」
クラスの皆が席に着くのを確認すると
「では、今日は転校生を紹介するぞー!」
ん?転校生だと?
そんな情報聞いてないな。
「では入っていいぞー」
―――ガラガラガラ―――
ドアが動く。
「!!?」
嘘・・・だろ・・・。
「では、自己紹介をして」
何で・・・。
「はい。今日から皆様と共に勉学をご一緒する里嶺麗香です。よろしくお願いいたします」
何で麗香がいるんだ!!?
俺は頭を抱えた。
「(おい!褥!!)」
「(何だ)」
「(これはお前の仕業か!?)」
「(ん?・・・いや、余は知らんぞ)」
「(記憶は消してあるんだろうな!?)」
「(その事なんだが、閻魔様が今回の件は記憶を消すのを禁止してな・・・)」
「(おいィィィーーー!!!)」
「(まあ。頑張れ。余は寝る)」
「(おい!待て!褥!!)」
やばい。やばいぞ俺!
このままでは世間に俺の本性をばらされて
―――カツカツカツ―――
俺の人生が終わってしまう!!
―――カツカツ―――
考えろ!考えるんだ!!俺の頭脳を持ってすれば!!!
―――カツ―――
必死に考えている中誰かが俺の目の前に立ち止まった。
俺は顔を上げると
「・・・・・・・・・あ」
「昨日振りですね。亮治」
麗香が立っていた。
背中から滝のように汗が流れるのを感じる。
こんな危機的状況生まれて初めてだ。
どうしよう・・・助けて神様・・・。
・・・と、とりあえず平然を装って
「昨日振りだね。麗香さん」
「麗香でいいわ」
「わかったよ。麗香、どうしてここ転校してきたの?」
「あなたに会いたかったからよ」
「え?」
それって殺しに来たってことかな?
「亮治」
「何かな?」
「私はあなたの事を本気で好きになったわ」
「・・・・・・え?・・・えーーー!!?」
クラス中に俺の間の抜けた声が響いた。
お疲れ様です。作者の春です。この度は貴重な時間を使って読んでいただいてありがとうございます。さて、これにて前門の虎校門の竜偏は終わりです。この話を書いている間色々なアイディアが思い浮かび書き直しをたくさんしました。それが読者の皆様に伝わっているかとても不安です。
では次回からどのような展開になるのか楽しみに待っていてください。