本当の気持ち
レノンの目の前には10歳ぐらいの小さな子供だった。
「えっと……、もしかしてその子供が王?」
「そうだ」
変な話ではあるが絶対にありえないという話と言うわけでもない。父親が子供に王位を譲ったということで説明がつく。しかし、この町の政治が一向に良くならないということはこの子供が今の政治に満足しているということである。
「なぁ、もしかしてこの子の父親が子供に王位を与えたけど実権はまだ父親が持っているのか?」
「はぁ?何を言ってるのだ、初代王はこの『バシル・エドワード』様だ」
「(つまり政治はこの子が決めたということか…)」
レノンは益々わけが分からなくなっていった。
「えっと、バシルって言ったっけ?」
「こら貴様!話はさせんと言っただろ!」
「ダフネ、別に構わないよ」
「はっ!分かりました」
「確かに僕がバシルだよ」
声の調子からでもやっぱり子供だった
「何でこんな事をするんだ?」
バシルはにこっと言ってきた。
「そんなの決まってるじゃん。復讐だよ」
「復讐?この町に怨みでもあるのか?」
「無いよ」
「は?」
思わぬ回答が出てきた。
「怨みが無いのに何で復讐をするんだ?」
「この国に怨みはないさ。僕が怨んでいるのは違うやつらだよ」
「ならば何故この町にひどいことを!」
「僕はこの国を治め権力と言う名の力を手に入れる、そしてそれからやつらに復讐するんだ」
「どっちにしてもそんな酷い政治をする意味なんてないじゃないか!」
「僕は王だよ?王に逆らう奴は罰を受けるのは当然じゃないか」
「腐っているぞてめぇ」
レノンは怒りに震えていた。
「腐っている?腐っているのは僕を虐めたあいつらの方だ!」
「あいつら?」
レノンとバシルの会話にダフネが入ってきた
「それは、私から話そう。バシル王は生まれて直に両親に捨てられたのだ。そして私はバシル王を預かることにしたのだ。そして、年を重ねて学校に入学し、バシル王が8歳になったとき事件はおきた。バシル王は昔から虐められていたが、それがどんどんエスカレートしていった。学校側はイジメがないことを否定した。ある日学校に言ったときバシル王の机、椅子、教科書、靴全てが無くなっていたのだ。どうなっていたと思う?」
「………」
レノンは黙っていた。
「全て燃やされていたよ、全部な。それからバシル王は学校へ行かなくなってしまった。私はそれで良いと思ったよ。その腐った学校に行くなんて間違っているからな。そしてさらにもう一回学校に文句を言った。今度はあっさり認めたよ。だがな学校側はこう言ったんだ。『あなたのお子様に問題があるのではないのか』ってな。俺は怒りが爆発しそうになったよ。直にでもこいつらを殺してやりたいと思った。しかし、そんなことをしてしまっては、私は捕まってしまう。捕まってしまったらバシル王は独りになってしまう。だから堪えた。だが、私の怒りは収まらない。そこである計画を思いついたのだ」
「それが、この政治か」
「そうだ」
「くだらねぇな」
レノンは吐き捨てるように言った。
「何だと?」
ダフネはぎろりとレノンを見た。
「そんなの何の解決にもならねぇ。自分の私情を持ち込んで町の人を巻き込むなんて残念野朗のすることだ。それにてめぇらがやっていることはその学校側の人間と同じことをやっているんだぞ!」
「貴様には分かるまい。この崇高な計画が」
「分かりたくもないな」
「まぁ良い、貴様に理解してもらおうとは思っていなかったからな」
「ダフネ、こいつに痛い目に遭わせろ」
「はっ!」
バシルの命令に従いダフネは壁に掛けてあった二本の斧を持ちレノンへ襲い掛かってきた。
「死ねぇっ!」
レノンはそのまま避けようともしなかった。ダフネが斧を振りかざしたとき、レノンは右手で拳をつくりダフネの頬に殴った。
「ぐおぉっ!」
ダフネはそのまま壁に激突しそのまま気絶してしまった。
「ダフネ!貴様よくも!こうなったら……」
バシルは持っていたスイッチを押した。
すると、近くのドアが開いた。中からは全長4mほどの大きな緑の怪物がいた。
「何だ、こいつは」
「こいつは、ゴブリンの種族で名前はガントって言うんだ。僕の最強の部下だ。因みに、ガントはパワーはもちろん見た目によらずスピードもあるんだ」
レノンにはパワーはありそうでもスピードは無いように見えた。・出っ張った腹、大きな金棒、皮膚でしっかり見えているか分からない目。どう見てもスピードは無いように見えた。
しかし、次の瞬間一瞬にしてレノンの前に立っていた。
「何!?」
そしてさらに金棒が振られレノンに命中した。レノンは壁に激突し瓦礫がレノンに覆いかぶさった。
「死んだか、馬鹿め!僕に逆らうからだ!ハーハッハッハッハー」
「勝手に殺すなよ」
瓦礫の中からレノンが這い出てきた。
「生きてる!?」
「まぁな、少しは効いたぜ。まさか本当にスピードまであるとはな……。だが、もう喰らわない」
「ふん。強がりを!もう一回喰らったら死んじゃうもんね。行けガント!」
「ヴォォォォォォォォッ!」
しかし、ガントが動き出す目にレノンは既に攻撃を準備していた。
「喰らえっ!」
レノンは拳でガントの金棒を砕いた。
「馬鹿な!素手で金棒を!」
「お返しだ!」
レノンはガントの顔ごと蹴飛ばした。そして、壁に突っ込んだ。
「馬鹿な……」
「なぁ、バシル。お前は分かってんじゃないか?本当はこんなことしても無駄だって」
「何を馬鹿なことを。僕はあいつらを……」
「ダフネの話を聞く限りじゃお前の気持ちは全く無く、全てダフネが事を進めている」
「……」
「本当は、こんなことしたくないんだろ?」
「僕は……」
すると、壁からガントが立ち上がってきた。
「ヴォォォォォォォォォッ!!」
ガントが突進して来る。
「今、話している途中だろうが!」
ガントの拳とレノンの拳がぶつかりあった。
「僕は……」
「言えよっ!お前の本当の気持ち!自分の気持ちを隠していると何も変わらねぇぞ!」
「僕は……、僕は……、友達が欲しい!いつも一緒にいてくれて何でも話し合える友達が欲しい!」
「言えるじゃねぇか!ハァァァァァァァッ!」
レノンの拳はガントの体ごと吹っ飛ばした。
ガントの体は城の壁を突き抜けて、地上まで落ちていった。