兆し
月日は流れレノンは17歳になった――――
『インシピアナンス』
この町がレノンの育った町だ。
花がとても美くしく咲いており、商店街は活気に溢れていた。まさに平和その物を表したような感じだった。
「はぁぁぁぁぁっ!」
いつのものようにレノンは朝稽古をしていた。
この町には道場と言うものが無く、レノンは我流で力を付けた。
「よぉレノン君。毎朝ご苦労様。これ差し入れじゃよ」
おじいさんの手元からりんごが投げられ弧を描いてレノンの手の中に綺麗に入った。
近くに住むおじいさんは両親を早くして亡くなったレノンを気遣い毎朝様子を見ていてくれている。
おじいさん自身はそのことを気付かれないようにしていたが、レノンはそのことに気付いており、おじいさんの優しい心に感謝していた。
「おじいさんありがとうございます!」
おじいさんは笑顔で手を振り歩いていった。
「ふぅ~。朝稽古も終わったし、家に戻っておじいさんからもらったりんごを食べよかな」
りんごを上に投げながら自分の家にと帰っていった。
家に着いてレノンは早速りんごを洗い始め食べようとした。
「いただきま~す」
口に運ぼうとしたその瞬間大きなゆれが生じた。その衝撃で誤ってりんごを落としてしまったが、レノンはその衝撃に違和感を感じ勢いよく外に出て行った。その後も衝撃は何度も襲ってきた。
広い草原に出てレノンは驚愕した。
草原の先にある小さな住宅街が火の海へと化していた。
「な、なんだよこれ・・・・・・」
言葉が詰まってしまっていた。それは無理もなかった。今まで暮らしてきた町の一部が炎上していたのだから。
ふと、レノンは両親の遺言を思い出した。
「(まさか、これは戦争への兆しなのか?いや、今そんなことを考えているより町の人の安全を確保しなければ!)」
そう決意すると一目散に炎上している住宅街へと向かった。
住宅街に着くとそこは全焼してしまった家がたくさんあった。
「(とにかく、火だ!火を消さないと!)」
すかさずレノンは魔法を唱え始めた。
「静謐な世を過ごせし時一時の沈黙よ訪れよ!『水流の壁!』」
炎上している家を波が覆いかぶさった。火は一瞬にして鎮火した。
「ふぅ~良かった(一先ずは安心出来るな。しかし誰がこんなことを・・・・・・。やはり戦争の兆しか・・・・・・?もしそうならばこの町ともお別れかもしれないな)」
数日に亘って焼けてしまった家等を町の人と協力し撤去作業が行なわれた。
撤去作業が終わり、いよいよ町の外に出る準備を始めた。