第三話 自己紹介
「じゃあ、1番の君からな」
橋本は覚えたと言ったのに、最初の生徒から覚えていない。周りの目が再び冷たくなる。
忘れられていた生徒が己紹介を始めた。橋本は始まったのを確認すると教室の壁際に移動した。
それから特に面白いこともなく自己紹介は進んでいった。
今は前に達彦が立っている。
「俺の名前は川田達彦。趣味は絵を描くことだ。得意な教科は数学と美術。質問があるやつはいるか?」
窓際の男子が控えめに手を上げる。達彦が促すと、立ち上がって口を開いた。
「川田君はどんな絵を描くんですか?」
「そうだな、幾何学模様とかばっかり書いてるな。どうも風景画は苦手で」
それは絵じゃなくて図形ではないのか。周りも首をかしげている。しかし男子は満足したのか、頭を下げてから席に着いた。
どんどん自己紹介は進んでいき朝の女子の番になった。女子は前に歩いていく。
前に立った女子は一瞬だが智也を見ているように見えた。
智也も気づいたが気のせいだろうと特に気にはしなかった。
「九条椿と言います。気軽に椿って読んでね。15歳になったばかりです。いろいろなことをやりたいと思ってます。1年間よろしくね。何か質問はある?」
見た感じは端麗でおとなしそうなんだけど、性格的にはとても元気そうだった。
達彦が手を上げる。椿はそれに気づいて、川田君と言う。
「朝と夜どっちが好きですか?」
達彦の質問に全員が首をかしげる。変な質問ではないがなぜこのタイミングでそんなことを聞くのかがわからない。
椿も首をかしげて、笑いながら答える。
「どっちかと言うと夜かな。おもしろい質問するね」
「いきなり変な質問悪いな」
達彦はそう言って席に着く。椿が別にいいよと笑って、椿の自己紹介は終わった。
でも達彦も変な質問をするもんだ。そう思い達彦を見ると真面目そうな顔で何かを呟いていた。なんだあいつ。
さてどうしよう。自己紹介を聞き流していたらいつの間にか僕の番だ。どうしよう。
前に出てから何も言わない智也を生徒たちが見ている。まだあまり時間がたっていないのでいいが、これ以上黙っていると変に思われそうだ。なるようになれと智也は口を開いた。
「はじめまして。達彦や杏子と同じ中学校から来た、結城智也です。あの二人とは違い普通です。1年間よろしくお願いします」
噛まずに言えたことに安堵していると、杏子が勢いよく手を上げる。智也があてる前に立ち上がった」。
「私は普通です。そこの馬鹿とは違ってね。いいわね?」
睨みながら言い切る杏子に智也はうなずくことしかできなかった。周りの生徒も苦笑いだ。
馬鹿と言い切られた達彦は机に向かってぶつぶつと何か言っていたが、誰も気にしていなかった。
杏子が座ったのを見て、智也も席に戻った。全員が席に着くと、ずっと壁に寄り掛かっていた橋本が前に出る。
「とりあえずこれで今日することは終わりだ。これからは適当に友達を作るもよし、部活動見学に行くもよしだ。入学式の日は毎年、休みにもかかわらずどの部活も活動しているからな。じゃあ、解散」
橋本はそれだけ言うと、そのまま教室から出ていった。しばらくはみんな呆気にとられていたが、一人が動き出すとつられて動き出していった。
学年末テストが終わったのでこれからはペースをあげれたらなと思っています。