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第二話 教室

 入学式は偉い人たちが長々話すだけのつまらないものだった。生徒たちは何人かでおしゃべりをしていたり、居眠りをしていたりしている。智也と達彦も二人でしゃべっていた。

「なんなんだよこの学校。入学式ってふつうクラスごとに並ぶもんだろ」

 達彦が周りを見渡す。周りには、パイプいすが並べてあり生徒たちは思い思いの場所に座っていた。ところどころにぽつんとある空席が目立つ。

「そうだよね。まさか、クラス割を入学式の後に掲示するなんて思ってもなかったよ」

 智也はそう言って苦笑いする。

 校長の話を最後に、入学式は終わった。生徒たちは、掲示板のクラス割を見るために移動していった。

 そんな中で達彦は掲示板の方には向かわずに智也を連れて、新入生の教室が並ぶ廊下を歩いていた。

「クラスわかんないけど大丈夫なの?」

「大丈夫だって。俺に秘策があるんだよ」

 達彦は一番最初の教室のドアを開けて中に入る。そのあとを追うように智也も入った。

 教室の中では40代くらいの女教師が椅子に座っていた。

「あら、もう少し生徒が来るには時間があると思ってたんだけどね。とりあえず出席番号順で席についておきなさい」

 出席番号なんて知らない智也は自分の席がわからずに教室を見まわす。見まわしてもどれが自分の席かはわからずにただそこに立ち尽くしていた。

 達彦も教師の言葉には従わずに、教卓に近づいていく。そしてそのまま教卓の前に来ると、上に載っていた出席簿を手に取った。しばらく出席簿をめくり探していたものが見つからなかったのか、ため息をついて出席簿をもとの位置に戻す達彦。

「このクラスじゃないか。じゃあ、次のクラスに行くか」

 達彦は唖然としている教師には目もくれずにさっさと教室を出て行ってしまった。智也も慌てて、教師に軽く会釈してから教室を出た。教室には状況を把握していない教師だけが残された。

 教室から出ると、達彦は隣の教室の扉に手をかけていた。

 そういうことか。それなら知らなくてもわかる。

 智也にも達彦が何をしているのかがわかった。総当たりで自分たちの教室を探そうとしているのだ。これならば確かに人が群がる掲示板を見ようとするより効率がいい。

 しかし教室は一向に見つからず、見つかったのは全ての教室を調べた後だった。

 それでもまだ教室には智也たちと数えるほどの生徒しか来ていなかった。

「全然秘策じゃなかったじゃないか。あれじゃ、駄策だよ」

「だったらあの人ごみに紛れてた方が良かったのかよ」

「それは」

 智也は文句を言おうとしたが、達彦に反論されて続きが言えなかった。

 教室では生徒が何人かでおしゃべりをしている。すでに意気投合してる者もいる。

 教室のドアが開きまた一人、女子生徒が入ってきた。

 何気なくそちらを見た達彦が、女子生徒に向かって駆け寄った。

「杏子じゃんか。同じクラスになるなんて俺ら結ばれてるだろ絶対」

 達彦はいきなり、教室に入ったばかりの杏子を口説き始めた。それを横目で見た杏子は、達彦を無視して自分の席を探しだした。あわてて達彦が杏子を追う。

「無視すんなって」

 しつこくついてくる達彦に諦めたのか、杏子は振り返る。

「なんだ。空耳かと思ったわ。あんまりに変な寝言が聞こえたものだから」

「変なことは言ってないだろ。ただ俺らが結ばれてるんじゃないかって」

「それが寝言でしょう」

 杏子は言うだけ言ってその場に達彦を残していく。それから達彦は杏子が席を見つけて、座るまでそこに立ちっぱなしだった。

 しばらく固まっていた達彦は、硬直が解けるとすぐに智也のところに向かってきた。

「まったく、杏子も照れ屋だよな。なあ」

 達彦の顔は笑っていたが、目が笑っていなかった。そんな表情を見て智也は、照れてるんじゃなくて嫌がられているんじゃないとは思っても恐ろしくて言えなかった。

 何人かの生徒もさっきのやり取りを見たのか何とも言えない目をしていた。

そりゃそうだろう。入学してきていきなり女子に告白する男子と間髪入れずに振る女子がいたらそんな目にもなるだろう。

智也は自分も周りの生徒みたいな表情になっているんだろうなと思った。

目の前で壊れたように笑い続ける達彦の相手を放棄した智也は、仕方なく教室の中の生徒の顔を見渡していく。一人の女子生徒を見た智也は、達彦の顔をつかんで無理やりそちらに向かせた。

「いきなり何すんだよ」

 ようやく正気に戻った達彦に、一人の女子を指さした。

「あの子、今朝の子じゃないのかな」

「ん? ああ。本当だな。よく見つけれたな」

 達彦も智也に言われて気づく。その女子は自分を指さす智也に気づいたのかそちらを見て首をかしげている。智也はあわてて指をおろし、なんでもないというように首を振った。

 女子も首をかしげたまま智也を見ていたが、くすりと笑って前を向いた。

やばい、すごく可愛い。

笑顔を見て、顔が赤くなる智也。周りの生徒は気づいていないが、達彦だけは気づいて笑う。

「なに照れちゃってんだよ。智也君よ」

「うるさいな。仕方ないだろ」

 智也君にも恋到来ですかと笑っている達彦を必死で否定する智也。達彦は自分のことは棚に上げて智也をからかっていた。

クラス内に最後の生徒までそろってしばらくすると、教室の前のドアが音を立てて開いた。生徒たちの目がそちらに注目する。

ドアの前には30歳を過ぎたくらいの男がぼさぼさの髪を掻いていた。男が教卓の前まで歩いてくる。

「悪いな。遅れてしまって。俺はこのクラスの担任をすることになった橋本和仁だ」

 どうやら担任は橋本と言うらしい。ほかのクラスを智也たちが回ったときはどこも担任がいたのに、なぜこのクラスだけいなかったのか。

「遅れた理由はあれだ。寝てた。すまんな」

 あまり反省してない様子で笑う橋本。生徒の視線が冷たくなったのに気づいてはいないようだ。

 まだ出会って1時間もたっていないがこのとき生徒の心は一つになっていた。この担任ダメだと。

「仕方ないんだよ。お前らの顔と名前を一致させるために遅くまで名簿見てたんだから。まあ、昨日まで名簿見てなかった俺が悪いんだけどな」

 一瞬見直そうとした僕が馬鹿だった。この担任やっぱり駄目だ。

 周りの生徒たちも溜息を吐く。それを見て橋本があわてる。

「そんなことは置いといてだ、とりあえず自己紹介をやるぞ。それがいい」

 橋本は生徒が口をはさむ前に一人で話を決めていく。

 出席番号が最初の生徒が前に立たされた。


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