第一話 通学
「久しぶりに見たな。最近見なくなってたってのに」
悪夢で目覚めた結城智也は、気怠そうにベッドから起き上がる。
悪夢の中では、智也はいつも死ぬ。
何度も何度も見た夢。その夢で智也は、動こうとしても動けずに腕を、足を、首を切られる。首を切られる前なんて、恐怖で気が狂いそうになる。
実際に経験してないはずなのに、鮮明すぎる夢だった。
智也は時計を見てゆっくりはできないなと、タンスの中の真新しい制服に手をかける。
真新しい高校の制服に腕を通し、着心地を確かめる。
うん、あたりまえだけど普通の制服だ。
智也は軽めに朝食をとるために、パンを焼くことにした。
慣れないローファーで一人通学路を歩いていると、後ろから軽快な声をかけられた。
「おっす。今日は早いな。心入れ替えたん?」
「おはよ、達彦。まるで僕がいつも遅刻していたみたいに」
智也は前を向いたまま、後ろで今日はと言うところを強調している川田達彦に言った。
そんなに遅刻は……してるよね。
智也は否定しようとしたが、中学校のころを考えると否定できなかった。少しむかついたので軽く達彦の足を蹴って気を紛らわした。
「いてえな。ひどくないか。事実を言っただけだろ」
「事実だから余計にいらっとするんだよ」
軽口をたたきながら歩いていると、いつの間にか真新しい制服を着た男女が増えていた。
彼らも智也たちと同じで新入生なのだろう。ほとんどが同じ制服だった。
「なあ、あの子可愛くないか?」
達彦が、横断歩道の向こうを指さした。
その方向を見ると、ちょうど車が横断歩道を横ぎっていくところだった。車が通り過ぎると、達彦が指差した女子は曲がり角を曲がるところだった。
「一瞬しか見えなかったけど、結構可愛かったね。でも、珍しいね達彦が可愛いっていうの」
達彦には好きな女子がいる。今まで何度も告白して、全部断られている。それでも彼は諦めてはいなかった。
だからか達彦はあまり女子に向かって可愛いとは言わなかった。
「俺だって可愛い奴には可愛いって思うさ。まあ、杏子のほうが百倍は可愛いけどな」
そう言って達彦は笑う。それを智也は軽く聞き流す。
女子が曲がった角を曲がると、少し先に学校が見えていた。
達彦が立ち止まった。呆気にとられ、智也も達彦につられて立ち止まった。
それを見て達彦がにやっと笑う。
「先に学校に着いた方に、ジュースを一本奢るってことで。じゃ、よーいどん」
そう言って達彦はいきなり走り出した。状況が呑み込めていない智也はだんだん離されていく。
ちょっと待てよ。いきなりすぎるだろう。
智也があわてて走り始めるころには、達彦は百メートルくらい先を走っていた。
智也は追いつこうと必死に走ったが、学校までに達彦に追いつくことはできなかった。
校門をへとへとになりながらくぐると、すぐそこで達彦がにやにやと笑っていた。
「達彦、いきなり卑怯だろ」
達彦が右手をひらひらと振る。
「卑怯も何も、勝負の世界は非情なんだぜ」
話は終わりと言うように達彦は、学校の見取り図が貼ってある掲示板を見に行った。
本当にジュース奢らないといけないんだろうな。あのバカのことだから。
智也もめんどくさそうにため息を吐いてから、掲示板を見に行った。
あまり書いたことがないので変なところもありますが、随時直していこうと思います。