第51話 再会と依頼主
「へぇー」
資料を見て、久遠は楽しそうに声をあげた。
「春平、資料見た?」
いや、見てないけど」
「おもしろいことになってるわよおっ!」
向かい合って雑誌を読みながら座る春平の顔面に、久遠は資料を叩きつける。
それを少し乱暴に取り上げると、春平は目を見開いた。
仕事内容:マフィアの護衛
なお、今回は支店であるアロエと共同となる
アロエ。
マフィア、つまり寺門さん?
よくよく下まで読むと、そこには寺門太一、美浜咲という言葉を見つけた。
「寺門さんと美浜さんっ!」
歓喜の声をもらして、資料をじっと見つめる。
本当に嬉しそうな春平の声を聞いて、久遠は嬉しそうに目を細めた。
「良かったじゃない。久しぶりに会えるのよ」
「きっと寺門さんたちも会いたがってるだろうなあ。こんな若い息子ひとり本社で働かせてるんだからなあ」
嫌味まじりに言った清住を、春平はキッと見上げた。
そこには相変わらずの笑顔がある。
「俺が寺門さんだったら心配でたまんないよ、春平みたいなガキが居たら」
「寺門さんだったら」なんて言われたら春平は何も言い返せなかった。
春平にとって清住は本当に寺門さんみたいで、やっぱり自分を心配してくれていると聞くと嬉しいけど照れてしまう。
「清住はいい年だけど、子供いないの?」
「おいおい俺はまだ27だよ。そんないい年でもないだろ」
ガクッと項垂れる清住を、右京は興味深そうに見ている。
「お前たちみたいな子供が3人居るんだから、他に何もいらないよ」
そんな決め台詞を言って、清住は久遠を見た。
「久遠は行くか?」
「私は行かない」
「なんで?」
当然のように言う久遠に、春平は眉をひそめて言った。
「だって咲ちゃんのためにならないでしょ。女で自分よりスキルのある私が居たら、人間は甘えちゃうもんだからさ。危険な場所だからこそ自分の力で乗りきる訓練をしなきゃね」
「咲ちゃんは可愛くて細くて柔らかいからなぁ」
「……まって、何そのセクハラ」
清住の問題発言に春平は不信な目を向ける。
仮にも年上なのに。
「とりあえず俺たちは行くからな。右京は必要不可欠だしな」
「今回美浜さんも参加するってことは、僕たちが護衛するマフィアさんは特別な言語を必要とする人なんでしょうか?」
「ポルトガル語。でもあちらも英語はできるから、さほどの心配はないよ。美浜さんは、お前が手を離せない時のピンチヒッターだよ。マフィアはひとりじゃないし」
「複数?そんなことってあるの?」
「派遣される社員も大人数だしな。ちなみに名前は――」
「しゅんちゃんっ!」
ぎゅっと人目も構わず強く抱き締める美浜。
その様子を羨ましそうに見つめる清住と右京。右京の場合は、羨ましそうというか、物珍しそうだ。
「美浜さん、苦しい」
「だって何か可愛かったんだもん!」
アロエにいたころはこんな行動をとらなかった美浜なのだが、久しぶりの再会にいてもたってもいられなかったのだろう。
右京のような外国育ちならここでキスのひとつもできたかもしれないが、あいにく春平は生粋の日本人だった。
多国籍のマフィアが飛び交う中で、やはり美浜の容姿はそれなりに評判のようだ。多くの男たちが美浜を指差しにやにやしては、近くにいる男たち……つまり春平や清住といったメンツを見てはしぶしぶ彼女への指差し行為を止めるのだった。
それを見ると、何だかやっぱり複雑で。
「やっぱり美浜さんは綺麗だなあ。どんどんと美しく羽化していくようだ」
こんなことを言われるとよけい気分が悪くなる。
「あら清住くん。そんなことを言っても何も出ないわよ」
「またまたご冗談を。あなたから出された妖艶なフェロモンでもう昇天寸前ですよ、俺は」
こんなことを言われた時には脳の血管がキレてしまう。
しかも何で美浜さん赤くなる!?
そういうのがタイプだったのか!
「やめてくれ……」
美浜の腕の中で息絶え絶えに呟くと、美浜に頭を殴られた。
美浜は清住の言葉がセクハラにあたるとは考えていないようだ。
そんな二人の影に隠れてしまっていたのは、春平が最も慕い、尊敬する人だった。
「春平、元気だな」
寺門の微笑みと優しい言葉に、春平は自分がとても情けない顔をしているのを自覚していた。
「寺門さん……」
「今日は、お互いひとつの仕事をする仲間として、よろしくたのむよ」
「それにしても、まさか春平がこんな仕事をする日が来るとはねぇ」
高い位置にある清住の肩に自分の腕をもたれて、美浜は心配そうに顔をゆがめていた。
春平にしてはその行動の方がよっぽど心配なのだが。
「そうだな。人間の成長とは早いものだな」
「この前の3才児が立派なハタチだものね」
「それを言うなら美浜さんだってこの前の高校生がもう――」
春平がそこまで言うと、美浜の左手に頬を伸ばせるだけ伸ばされた。
そんな美浜の様子を見て、清住は彼女の両手を力強く握り、向かい合った。
「いや、俺はその年代がドストライクです。ただ若いだけの女性に何の魅力も感じませんから。内から溢れ出る美しさの量が美浜さんは他の人より多いんですから、年齢なんて」
本気で口説いているのだろうかと思ってしまう。
本人たちは意外と本気かもしれないが。
みるみるうちに美浜の顔は赤くなってくる。照れているのだろうが、春平にしたらできれば惚れないでもらいたい。
「あーそー。長々と演説ありがとうございました」
そう言って清住の手の中から美浜を救出する。
しばらく雑談が続いた後、話を持ち出してきたのは寺門だった。
「皆、今日の依頼人のことは知っているんだよね」
その言葉にコクンと頷くと、寺門は話を続ける。
「今日の依頼人は3人いる。今ここには5人いるから、1人だけ単独行動になるが……」
「それじゃあ僕が1人で」
真っ先に挙手したのは、今まで黙っていた右京だった。
「右京、大丈夫なのか?つい最近まで入院してたじゃないか」
「もう痛くありませんから。それに、美浜さんは寺門さんと一緒の方が安心でしょうし」
「でもそれを言っちゃあ右京、英語を話せる人たちが固まっちゃうじゃない」
そこまで言って、美浜は自分があることを見落としているのに気付いた。
焦る美浜の表情に呼応するかのように清住は苦笑いをする。
「英検2級じゃ屁にもならないですかね」
「2級!?誰が!」
「俺だよ」
清住の言葉に春平は顔を青くする。
「清住だけは俺と同じ人種だと思ってたのに……」
「いや、たぶん同じ人種だよ。2級あったって留学もしてないし、英語とは高校時代から縁を切ってるから、ほとんど話せない。ここ最近のこの仕事だって右京に頼りっぱなしだったし」
それでは英検5級止まりの自分は一体何なのだろうかと絶望する春平。
「それに、今回の依頼人に英語はあまり関係ないだろう」
寺門の言葉に、春平は自分が依頼人について見落としているのに気付いた。
「確か依頼人って」
「お、もう時間だ」
寺門の言葉に、全員が移動を開始する。
工場の巨大な倉庫の入り口に並ぶと、次々と倉庫の中にそれらしい人間が入っていく。
ひときわ光輝いた黒いリムジンが春平たちの目の前で制止し、寺門と清住が一歩前に出る。
「こんにちは。えぇと、便利屋の方ですか?」
話されたのは流暢な日本語。
目の前に居るのは色づけされていない黒髪黒目。
全身黒のスーツに身を包んだ姿に、なぜか黄色のカチューシャが目立っている。
彼が紳士的に車の扉を開き、手を伸ばすと、車の中から褐色の細腕が伸ばされた。
黒艶のあるロングヘアーをなびかせて黒いロングドレスに身を包んだ褐色肌の女性が現れる。
続いて彼が手を伸ばすと、白い細腕が伸ばされた。銀色に光輝いたロングヘアーの奥からエメラルドグリーンの瞳が垣間見える。
「こちら、ポルトガルのセラルド・フィーロさん」
「セラよ、よろしく」
なんて英語で挨拶をする黒髪美女。
「そしてこちらはアリス・マッケンハイアーさん」
「お会いできて光栄だわ」
なんて英語で笑顔の会釈をする銀髪美女。
「まずは彼女たちをエスコートしてください」
その紳士的な少年の言葉に、美浜と右京が率先して前へ出た。
美浜がポルトガル語を話せることから、既にどちらがどちらにつくかは決まったようなものだった。
美浜のポルトガル語にセラは大喜びし、右京の容姿にアリスは飛び付きそうだった。
二人を中へ連れていくと、残った少年は運転手に英語で指示をして、春平と清住に振り返った。
清住は爽やかな笑みで自己紹介をする。
春平は少し苦笑いを含んだ表情をした。
「正田春平です」
日本語で挨拶をすると、少年は嬉しそうににっこりと無邪気に笑った。
「はじめまして、アルジャジーラファミリーのボス、牧春彦です」
彼は笑顔でそう言った。
そう、日本語で。
久しぶりの再会を喜びながらも、清住の態度に面食らう春平。
そうこうしているうちに、依頼主と出会うことになるが、あれ、日本人かよ!?
清住編、ゆっくりと着実に進行し始めております。
明日はバイトがあるので帰りは12時ごろになってしまい、残念ながら更新するのは無し……あるいは夜中になりますが、
土曜日には必ず更新するので、なにとぞよろしくお願いします(^ω^)