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アロエ  作者: 小日向雛
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第39話 予感

それを感謝の笑顔で受け取り、清住は食い入るように書類を見つめている。


「今回の依頼は、一般の男性からです」


竹中さんは低い声で淡々と告げ、じっと清住を見ている。


その視線に応えて、清住は顔を上げて仲間たちを見た。


「内容は?」


真剣な声で久遠が尋ねる。


「何てことはない。ただの警備だ」


ほう、と春平は体の力が抜けるのを感じた。


もっと恐ろしいことが起きるのかと身構えていたのに、拍子抜けした気分だ。


「なあに残念そうにしてんだよ新人〜」


清住は楽しそうに春平の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。


「な、何で清住が偉そうにすんだよー!」


「はぁ?そりゃまぁ、俺はこのグループの責任者だからな」


言葉に詰まった。


何となく久遠が責任者のような気がしてたが……


よく考えれば、おそらく最年長の清住が責任者になるのは妥当だろう。


「で?警備ってのは何処のさ」


久遠が腕を組みながらえらそうに聞いてくる。


清住はじっと久遠を見つめて、次に右京を見た。


「一般家庭だ」


「へっ!?」


驚きの声をあげたのは春平だけだった。


他の仲間は全員けろっとしている。


「春平、どうかした?」


久遠は春平の様子を見て心底不思議そうに尋ねた。


「だ、だだって一般の家庭だよ?」


「よくあることじゃない?」


「どこがっ!?」


「……なあ春平」


見かねた清住が呆れたように言った。


「もっと頭は柔らかく使おうぜ?警備なんか雇っちゃう一般家庭っつったらそれ相応の財閥だったり一般より金持ちだったりだろ。……お前の資料を見た限りでは、もっと物事を柔和な目で見れる優秀な社員だと思ってたんだがな」


本当に失望したように清住は真面目な表情でため息をつく。


しかし春平だってそこまで言われては黙っていられない。


「それはご期待に添えられなくて申し訳ありませんでしたー。だけどひとつだけ言わせてもらうけど……それはすでに『一般』家庭じゃないんじゃないのか?」


清住は何事もなかったかのようにひとことも喋らない。


この野郎、と心の中でだけ呟く。


「で、どんな方なの?」


久遠が尋ねると、清住は意味深な笑みをこぼす。


「何てことはない。いつものお得意様ですよ、久遠さん」


ピクリと久遠の眉がひきつった。


「お得意様?こんな仕事にもお得意様なんてあんのか?」


「あるに決まっているじゃない。勿論、そのお得意ってのは4階をいつもご利用なさってるんだけど、毛色の違う仕事が当たった時に、いつもひいきしてくれる方よ」


なるほど、毛色が違う、とは上手く言ったものだ。


「時間は毎日夜6時から朝方6時までの12時間。本社からは遠いから、向こうで離れを提供してくれるらしい」


「朝から晩までは向こうで何してんの?」


「なぁに、ぼうっとしてりゃいいってさ。条件は敷地内から出ないってことだけだからな」


清住はそう言って乱暴に書類を机の上に放り投げ、勢いよく立ち上がった。


それに続き、久遠も身を翻して部屋を出ていく。


「何?」


春平が戸惑いながら立ち止まっていると、くいくい、と右京が春平の服の裾を引っ張ってきた。


「春平さん、帰りましょう」


「へ?」


「帰って荷造りしなきゃ」


「荷造りって……俺たちどんくらい滞在する予定なのさ」


聞くに耐えない無知っぷりだたったのか、清住が話に加わった。


「書かれてないなら無期限なんだよ。あえて言うなら、警備が必要なような何らかの事件が解決するまで」


「ふーん、途方もないな」


小さくため息をつくと、清住のデコピンがとんできた。


「って」


「バカタレ。俺たちの受け持つ仕事のほとんどがその分類だぜ?元々、たとえどんな小さな仕事であっても、結局は『事』を解決するのが便利屋だろ。俺たちの場合は、その『事』っていうのが少々厄介なだけだ」



それで、急に我に返った。



そうだ。


別に、変わったことなんてない。


3階だから特別だなんて、そんなことじゃないんだ。


俺はただ、与えられた仕事をこなすだけ。解決するだけ。


アロエに居た頃と変わりないんだ。


ぎゅっと唇を噛む。


「よし、それじゃあ行こうか」




勢いづけて本社を出た春平は目の前を歩く久遠を見た。


「あ、久遠!」


彼女を呼び止めて、春平は走り寄る。


「どうしたの?」


「あ、あのさ」


先程の清住の様子が気になった。もしかしたら、という考えが過ぎるのだが


「……なんでもない」


そういう事情を、好奇心で聞くのはよくないだろうと、春平は押し留まった。


春平のそんな様子に眉を顰める久遠。


「変なの。それじゃ、後で待ち合わせね」


バイバイ、と背中越しに手を振られた。









荷造りを終えて、4人で新幹線へと乗り込む。


「駅に車で迎えに来てくれるんだってさ」


春平の隣に清住が腰掛けて、書類を読み始める。


その横顔をじっと眺めている春平。


「……そういえば向こうの家庭について、俺だけ何の情報もないんだけど」


「ああそうだった。悪い悪い」


そう言って清住は書類を春平にも見せる。分厚い書類だ。何十枚あるのだろうか。


その1ページ目に、そこの家の苗字、家系図が書かれていた。


「そちらの方の職業はヤクザだ。そりゃあ警備をつけなきゃなんないのも納得だろ?」


春平は答えない。


「しっかり襲う襲われるなんて毎度のことだろうに、なんでわざわざ警備をつけるんだろう、なんて考えられないか?」


春平は答えない。


「推理してみろよ。俺たちは分かってるけど」


春平は答えない。


「おい無視すんな。……どうかしたか?」


清住は心配そうに春平の顔を覗き込む。その顔で春平は我に返った。


「い、い、いやっ、何でもないッ」


「具合悪いか?」


「元気だよ。元気だけど……」


春平は書類を清住に返して、窓の外を眺める。


「そこの家の人と、知り合いな気がするんだ」


「気がするって……なんだそりゃ」


「確信はないんだけど」


また、再会してしまうような気がする。自意識過剰だろうか?




苗字は袴田。そして、家系図の娘のところには、美羽という名の少女が該当している。


ついに仕事内容発覚!

だけど袴田美羽ってもしかして……?

次回、いよいよ袴田家に突入!

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