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アロエ  作者: 小日向雛
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第38話 新しい仕事

目が覚めると、目の前には天使の寝顔があった。


「……っ!?」


飛び起きてから、それが右京だと気付く。


「もしかして俺、右京の部屋に泊まっちゃったのか」


呟いて、納得した。


どうやら時刻は朝の7時。本社には余裕で間に合う時間だ。


ここから本社まではおよそ徒歩30分と言っていた。


それにしても、頂いた食事の後始末をしなければ行けそうにない。

食べっぱなしの皿がテーブルの上に並べられている。


そこまで見て、春平はようやく昨日の出来事を思い出した。


昨日、食後精神的疲労がピークに達した春平は、そのまま床に突っ伏してしまったのだ。


その証拠に春平は今までフローリングの上に横になっていたようだ。背中も痛い。


しかし風邪をひかずにすんだのは、右京が毛布をかけてくれたからだろう。


とりあえず食器は洗うとして、お礼のかわりに朝飯でも作ろうか。


そう思い、キッチンに立つと、横で小さな影がモソモソと動いているのを感じた。


「あ、おはようございますー」


ユキナは、朝っぱらから満面の笑みで春平に挨拶をする。


「おは、て、えっ?」


目を擦ってもう一度少女を見る。


「おはよ。……右京ってハウスキーパー雇わないって言ってなかった?」


「はい。だけど朝はお願いって言われてるんです」


「な、何で?」


「右京さんは日本語の勉強のために朝早くから本社に行くんです」


ふぅ、とユキナは小さく息をはいた。


その溜め息が、何となく右京の体を心配しているようで、


「ユキナちゃんは、右京のことが好きなの?」


春平がそう言うと、ユキナの顔が突然紅潮した。


「ちちちち違いますよっ!」


顔を隠すように両手をバタバタと振る。


その様子を見て

「青春だなあ」と呟く。


「あの、朝食は出来ましたか……?」


気付けば2人の隣には右京が眠そうに立っていた。


いや、普段から眠そう、というか無気力そうなので、眠っているのか覚醒しているかは分からない。


「右京おはよう」


「春平さんも、おはようございます」


「お前は何時に行くの?」


「食べたら行きます」


そう言って、右京はバスルームへ向かう。


そこで気をとりなおすユキナの横に立ち、春平は手伝いを始めた。


「ユキナちゃんはハウスキーパーが仕事なの?」


「?そうですけど」


「本社で働いたりはしないのかな」


素朴な疑問を投げ掛けると、ユキナは強気な笑みで春平を見上げてきた。


「ふふっ」


その笑みにはどんな意図があるのか、春平には分からない。









「ちょっと!新人のくせに私より遅く来るなんてどういう神経してんのよ」


久遠にぐいぐいと頬をつねられて春平はされるがままになっている。


時刻は朝の8時前。


「俺かなり早く来た気がするんだけど」


「私は7時30分には来るようにしてんの!」


「中1かよっ!」


春平がそう言うと、久遠はムスッとした表情で春平の頬から手を放した。


「……だって、私は女だから」


短いボブヘアーがふわりと揺れた。


久遠が春平から離れて、腕を抱えて俯いている。


乱雑に切られた髪の毛がサラサラと流れていく様子を、春平はじっと見つめた。


「男よりは絶対に体格差、筋力の差では勝てないの」


どことなく、憂いを帯びた声だ。


「……だから私は!早く皆より出勤して、自主的に訓練をするの!」


「ひとりで?」


「っ文句ある!?」


久遠はガッと口を開いて威嚇し、顔を真っ赤にしている。


その、負けん気の強い少女のような様子が、春平の心を揺るがした。



何故か、とても可愛らしく、愛しいと感じた。



「じゃあ俺も訓練の相手になるよ」


「あんたが鍛えたら私がまたひとりだけ置いていかれるじゃん!」


その理論に、春平は思わず吹き出してしまった。

「小学生かよ」とは口が裂けても言えない。


「仲間はたくさんいた方が楽しいだろ」


春平が嬉しそうに微笑むと、久遠の頬が紅潮した。


「……仕方ないわね」









「朝っぱらから仲良くするのはご遠慮できますかー?」


だるそうな声を出して春平の肩にひじを乗せてきたのは清住だ。


「仲良くって……ただ話してるだけなのに」


文句ありげに春平が呟くと、清住は嬉しそうに微笑んだ。


その微笑みが、どことなく寺門のものとそっくりなのは、きっと気のせいだろう。


「仲間内の恋愛は秩序がないからやめてくれよ」


ぽん、と頭を叩かれて春平は呆けた。


「清住ってそういうこと気にするタチなんだ。……もっと寛大だと思ってた」


その言葉に清住は目を丸くした。


「本当に久遠のこと好きなのか?」


「違うけど!」


春平の様子をいぶかしんだ目で見てくるが、すぐに真面目な表情を作る。


「恋人を作るのは大いに結構。それで死のうとは思えないからな。だが、仲間内だと事情が違ってくる。もし同じ任務をしていて、彼女が危険にさらされたらどうする?きっと彼氏の行動にも支障をきたす。そして万が一にも恋人が死んだら……」


そこで、清住は言葉を切った。


何かを思い出して遠くを見ている。


清住もまた呆けていた。しかし春平に気付かれないようにしているのが手にとるように分かる。


「清住、それは――」


春平がそこまで言うと、突然部屋の扉か開いた。


「あ、おはよ」


久遠が言うと、背後から右京の影が現れる。


そして、さらに後ろに中年の男性が立っている。


がっちりとした体型にしっかりとスーツを着こなしている。


髪の毛はオールバックだ。


「春平、この人は竹中さん。私たちに依頼をくれる人よ」


中年男性、竹中さんは恭しく(うやうやしく)春平に頭を下げると、一枚の書類を清住に差し出した。



だんだんと仲間達との距離を縮めている春平。

しかし清澄は何だか……

そんな中、仕事を告げる男・竹中登場!

次回、仕事内容が明らかに

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